尨大ぼうだい)” の例文
日本にほん化物ばけもの貧弱ひんじやくなのにたいして、支那しなるとまつたことなる、支那しなはあのとほ尨大ぼうだいくにであつて、西にしには崑崙雪山こんろんせつざん諸峰しよぼう際涯はてしなくつらな
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
笹村はいくら努力しても、尨大ぼうだいなその原稿のまだ手を入れない部分の少しも減って行かないのを見ると、筆を持つ腕が思わず渋った。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
美濃の尨大ぼうだいな地域にわたって起され、その先鋒はもう関ヶ原の一端に、いわゆる「天下分け目」のただならぬ気をはらんでいたのだった。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、こうしたチェーホフの沈黙を裏切るものは、二千通をこす尨大ぼうだいな手紙である。ドストエーフスキイも手紙の大家であった。
一八三七年頃からけはじめた尨大ぼうだいな量にのぼる彼の日記はその素材であり習作でもあった。詩作も試みたが、この方は大成しなかった。
一八三七年頃からけはじめた尨大ぼうだいな量にのぼる彼の日記はその素材であり習作でもあった。詩作も試みたが、この方は大成しなかった。
空の帝王と呼ばれる途方もなく尨大ぼうだいな全鋼鉄の怪物で、爆弾だけでも、五十トン近く、積みこんでいるという物凄ものすごい飛行船だった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし参木にはこの尨大ぼうだいな東亜の渦巻が、尨大な姿には見えなかった。それは彼には、頭の中に畳み込まれた地図に等しい。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
僕が大意を写しただけで丁度三十枚あるのだから、もとの手紙がどんなに尨大ぼうだいなものであつたか充分御理会のことと思ふ。
盗まれた手紙の話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
さるによってこの尨大ぼうだいなる荷車と老朽悲鳴をあげるほどの吾が自転車との衝突は、おやじの遺言としても避けねばならぬ
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
翌八十三年には仏蘭西人 Gonseゴンス尨大ぼうだいなる著書 L'Art Japonais(『日本美術』二巻)出でぬ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
熊城君、算哲という人物は、実に偉大な象徴派詩人サムボリストじゃないか。この尨大ぼうだいやかたもあの男にとると、たかが『影と記号で出来た倉』にすぎないのだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
四畳半に尨大ぼうだいな事務机が一ツ、薄色の眼鏡をかけた中年の社長と、××女性新聞発行人の社員が一人、私を入れて三人の××女性新聞。チャチなものなり。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
国民政府に於て左党の政策の欠如が右党に幸して、彼等は尨大ぼうだいな小ブルジョワを党に獲得し、南方の多くのブルジョワも三民主義の名に隠れて党に参加した。
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
議会は満場一致で尨大ぼうだいの戦費を可決し、国民はあらゆる犠牲を忍んで毎日の号外の鈴の音に湧き立っている。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あわい両三日を置きて、門をづることまれなる川島未亡人の尨大ぼうだいなるたいは、飯田町いいだまちなる加藤家の門を入りたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
そしてその尨大ぼうだいな容積やその藤紫色をした陰翳はなにかしら茫漠ぼうばくとした悲哀をその雲に感じさせた。
蒼穹 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
すなわち第一版においては若干の頁を割かれたに止った人口原理を実証する歴史的記述の部分は著しく拡張され、それは尨大ぼうだいな第二版の約二分の一を占めることとなった。
一寸法師が尨大ぼうだいなメガフォーンをさしあげてどなっているような感じがある。これが菊咲き朝顔のように彩色されたのなどになるといっそう恐ろしい物に見えるのである。
蓄音機 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あらゆる不可思議現象に現実的な心理学的解釈を加えて尨大ぼうだいな著述を残したので知られている。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かうして、私の顏と彼の顏が殆んど同じ高さになつた時に、何んと云ふ顏で、それはあつたらう! 何んと偉大な鼻! 何んと云ふ口! 何んて尨大ぼうだいな突出した齒だらう!
そこは峠の絶頂で目の下に底知れぬ闇のごとく黒くひろがっている千々岩灘ちぢいわなだが一目に見え、左手にはさながら生ける巨獣の頭のごとく尨大ぼうだいに見える島原の温泉嶽が蜿々えんえんと突き出ている。
女の恋愛には精神生活の根底がなかったために、その崩れ方はじつにもろかった。私は一種の錯誤に陥っていた。私の尨大ぼうだいなる形而上学的の意識生活を小娘の本能的な愛の上に据えつけた。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
朝のさわやかな心持に、勝平は昨夜の不愉快な出来事を忘れていた。尨大ぼうだいな身体を、寝台から、ムクムクと起すと、上草履うわぞうりを突っかけて、朝の快い空気に吸い付けられたように、縁側ヴェランダに出た。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そこへもってきて後年のように石炭供給所が到るところにあったわけでないから、いよいよもって尨大ぼうだいな炭庫を必要とした。それだけ貨物ないし旅客のための比例容積は狭められたのである。
黒船前後 (新字新仮名) / 服部之総(著)
前記書林浅倉屋の屋根のうえに「日本児童文庫」と「小学生全集」の尨大ぼうだいな広告を見出したとき、これも古い酒店さがみやの飾り窓に映画女優の写真の引伸しの飾られてあるのを見出したとき
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
黄ばんだ葉もなかば落ち切らない上に、何百年間か張りはびこった枝が、小さな森くらいに空をくぎってこんもりと影を作り、その処々ところどころに、尨大ぼうだいまりの様な形に、くずつるのかたまりが宿って居るので
トシオの見たもの (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あまりの沈黙と静謐せいひつ尨大ぼうだいで奇怪な生命力——それに対すると、私は抱擁せずむしろ狐疑逡巡こぎしゅんじゅんし警戒するのを常とした。生の讃歌さんかを否定するのではないか——これが私の仏像への危惧きぐであった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
その時ヘルンは、だまって彼女を書架しょかの前に導き、彼の尨大ぼうだいな著作全集を見せて言った。この沢山の自分の本は、一体どうして書けたと思うか。皆妻のお前のお蔭で、お前の話を聞いて書いたのである。
この尨大ぼうだいな、古強者ふるつはもの
日本の存在をその尨大ぼうだいな陸地面からさがし求めるのにまごついたにしても、西欧南洋北夷ほくい諸州の箇々の大きさに、そう驚きはしなかった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あたかも肉眼で遠景を見ると漠然ばくぜんとしているが、ひとたび双眼鏡をかけると大きな尨大ぼうだいなものが奇麗きれいに縮まって眸裡ぼうりに印するようなものであります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこで彼は、尨大ぼうだいな外国人名大辞林をとりだすと、卓子テーブルの上にドーンと置いた。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
医学と文芸と革命と、言いかえれば、科学と芸術と政治と、彼はこの三者の混沌こんとんうずに巻き込まれたのではあるまいか。私は彼の後年の尨大ぼうだいな著作物に就いては、ほとんど知るところが無い。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
かの女は断髪だんぱつもウエーヴさえかけない至極しごく簡単なものである。およそ逸作とは違った体格である。何処どこにも延びている線は一つも無い。みんな短かくてくくれている。日輪草にちりんそうの花のような尨大ぼうだいな眼。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
なお、心霊学でも、マイアーズの大著「人格及びその後の存在ヒューマン・パーソナリチー・エンド・サーヴァイヴァル・オヴ・ボディリー・デッス」サヴェジの「遠感術は可能なりやキャン・テレパシイ・エキスプレイン」ゲルリングの「催眠的暗示ハンドブッフ・デル・ヒプノチッシェン・ズゲスチヨン」シュタルケの奇書「霊魂生殖説トラデュチアニスムス」までも含む尨大ぼうだいな集成だった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
複雑——むしろ一生の歴史と、それをもってしてなお解き得なかった幾多の迷路さえ含んでいる。そしてこの尨大ぼうだいな複雑が、いわば一つの意力となって凝縮したところにようやく作家の出発があるのである。
単に尨大ぼうだいな治乱興亡を記述した戦記軍談のたぐいでない所に、東洋人の血を大きくつ一種の諧調かいちょうと音楽と色彩とがある。
三国志:01 序 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それだから朝の三時頃から大八車をやとって来て一晩寝ずにかかって自分の荷を新宅へ運んだのである。彼はすこぶる尨大ぼうだいなるシマリのない顔をしている。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
攻めるには、十万トン以上の主力艦かさもなければ、五百機以上の重編隊の爆撃機隊でなければ、てんで戦争にならないのだからね。旧イネ帝国の敗走兵どもに、そのような尨大ぼうだいな軍備が整いそうもないじゃないか
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこでも尨大ぼうだいな工事をやらせていた。寺である。大徳寺の地域のうちに、新たにもう一寺をおこしているのだった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
心理学者の説によりますと、我々の意識の内容を構成する一刻中の要素は雑然尨大ぼうだいなものでありまして、そのうちの一点が注意にれて明暸めいりょうになり得るのだと申します。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(あの尨大ぼうだいな爆弾を、どこに落すのだろうか?)
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
津軽半島だけの広さでも尨大ぼうだいなものだったが、半島の背ぼねには陸奥むつ山脈が横になり、西もまた、山地ばかりで、その間にある津軽平野の何十里というものも
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
この尨大ぼうだいな御茶代が宿屋の主人下女下男にどんな影響を生ずるかちょっと見たくなった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
臧覇ぞうは李典りてん于禁うきんなどの諸大将もあらかた留め、曹仁を総大将として、青州徐州の境から官渡かんとの難所にいたるまでの尨大ぼうだいな陣地戦は、そのまま一兵の手もゆるめはしなかった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この多事なる世界は日となく夜となく回転しつつ波瀾はらんを生じつつある間に我輩のすむ小天地にも小回転と小波瀾があって我下宿の主人公はその尨大ぼうだいなる身体をしてかの小冠者差配と雌雄しゆう
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わがもいつか尨大ぼうだいになったが、この身もいつか五十四れい。髪にも時々霜を見る年になったよ。だが諸君、笑ってくれるな。呉に討入るときには、予にも一つの楽しみがある。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
九百日、かずので、眼をさらしてきた尨大ぼうだいな和漢の書物の中にも、こういう人間の大事は一行もなかったようである。沢庵もまた男と女の問題だけは、われ関せずえん、と逃げた。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとたび魏がその尨大ぼうだいな兵力を分けて、蜀境の剣閣でも襲うことになろうものなら、帰路を断たれ、運輸の連絡はつかなくなり、ここの陣地にある蜀軍数万は孤立して浮いてしまう。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)