ゆる)” の例文
わが政治上の世界は広大無辺なりといえどもいまだかかる一種の奇怪なる妄想説の実行をゆるさざるなり。さらにまた一種の論者あり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
勤王にかんか、佐幕に之かんか。時代はその中間においてねずみいろの生をぬすむことをゆるさなかった。抽斎はいかにこれに処したか。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ゆるし容される」気持にさせる友情、等々、数へ上げればいくらもあるだらうが、最も奇怪にして、しかも、甚だその例に乏しくないのは
異性間の友情と恋愛 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
してみると、此家ここの軒下にべんべんととどまっているということはあまりに図々しく、ゆるしがたいことなのだ。直ちに決心をしなければならぬ。
(新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
私はうちつけに書きます。万事直截其ものでお出のあなたは、私が心底しんそこから申すことをゆるして下さるだろうと思います。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それが境遇に応じて魂ともなれば根性ともなるのさ。で、商人根性といへども決して不義不徳をゆるさんことは、武士の魂とあへて異るところは無い。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
何時いつまで汝我をゆるしたまわざるや。息をする間だに与えたまわざるや。我罪を犯したるか。我汝に何をなしたるか、おお人をまもらせたまう者よ。……
極地の理知に立つといふのは、要するに己れの悪を自らもゆるし、人にも容さしめるための、狡猾きはまる技術だけにすぎないのだと感じたのだつた。
彼はまったく単一であって、何らの異論も制限もゆるさないのだった。もとより彼にとっては、宗教上の権威はすべての権威の第一なるものであった。
彼等の忠や義や、到底道學先生の窺知をゆるさざるものある也。喩へば鳥の鳴くが如く、水の流るるが如けむ、心なくしておのづから其の美をせる也。
美的生活を論ず (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
泉下せんかの父よ、幸に我をゆるせと、地に伏して瞑目合掌すること多時、かしらをあぐれば一縷いちるの線香は消えて灰となりぬ。
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すなわち、個性の多様性は認めつつ、その後ろに人間としての普遍的真理の存在をゆるしたい。この信仰なくしては、私たちは相互に繋り合うことはできない。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
虁龍きりゅう高位に在りは建文帝をいう。山霊蔵するをゆるさず以下数句、燕王えんおう召出めしいだされしをいう。神龍氷湫より起るの句は、燕王崛起くっきの事をいう。い得てなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
歌あれば爰に舞足あり、手振あり、それに連れて種々に、態々の面倒なる注文あり。一の部分は全躰たるをゆるさず、全躰は一部分によりて表現せらるゝを得ず。
劇詩の前途如何 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
エホバは汝の足の動かさるるをゆるし給わず、汝を護る者は微睡まどろみ給うことなし。(詩編一二一の四)
まばたきゆるさぬとっさの光を受けたその模様には長さの感じがあった。これは大きなうなぎだなと思った。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
予はインノセンスと呼ばれて、君のしろしめすが如く、何もえしらぬ。而して予が法王の聖職に在ることをゆるし給へ、聖職は始より既に制定せられ、予は唯に之に従ふのみ。
法王の祈祷 (新字旧仮名) / マルセル・シュウォッブ(著)
思へばくすしき成行であつた。彼は今、天人共にゆるさざるる、罪の犯人として遠く東京へ送られるのである。やがては死刑を宣告されて、絞首台の露ともなることであらう。
逆徒 (新字旧仮名) / 平出修(著)
この山の聖なる律法おきてはすべて秩序なきことまたはその習ひにあらざることをゆるさず 四〇—四二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
侍奉紳士は婦の早起盥漱かんそうする時より、深更寢に就く時に至るまで、其身邊に在りて奉侍す。他婦を顧みることをゆるさず、聞く侍奉紳士中媱褻いんせつに及ばざるもの往々にして有り。
エホバはなんじの足のうごかさるるをゆるしたまはず、汝をまもるものは、微睡まどろみたまふことなし、よ、イスラエルを守りたまふものは、微睡むこともなくねぶることもなからん。
諸君も屍にむちうたないという寛大の心を以て、すべての私の過去をゆるしてもらいたい。
或教授の退職の辞 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
それをそうと信ぜさせられた時、その市井の女はいよいよいささか歪曲わいきょくをもゆるさぬ真相を示すのである。世間も、彼の母も、その母の地位も、すべて残るくまなく、彼の心眼に映って来る。
ああ学識なくして、いたずらに感情にのみ支配せられし当時の思想の誤れりしことよ。されどその頃の妾は憂世ゆうせい愛国の女志士じょししとして、人もゆるされき、妾も許しき。しばらく女志士として語らしめよ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
元來世に在らざる物又は君いまさぬために生じたる空虚に存在をゆるしたまはず。
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
彼は、自分のゆるしを瑠璃子に乞うた上、二人の愛児の行末を、瑠璃子に頼んでゐる。彼は名ばかりの妻から、夫として堪へがたき反抗を受けながら、尚彼女に美しき信頼を置かうとしてゐる。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
「アッタスン、」とさっきの声が言った、「後生だから、ゆるしてくれ!」
止めしうち追々長庵が惡事數ヶ條ほころびけるは天のゆるさざる所と云ふべきのみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
或る作品をゆるしたり、罰したり、戒めたり、指導したりしたのである。
文学方法論 (新字旧仮名) / 平林初之輔(著)
大隈ゆるさず。二十六日、大隈参内して、犬養毅を推挙。
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
逍遙子はこれを知りて、その競爭をして爼豆そとうの間にのみ行はれしめむとし、衆我の旗皷きこの間に相見えむとするをゆるさず。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
生存は相殺そうさつである。自然は偏倚へんいゆるさぬ。愛憎あいぞうは我等が宇宙にすがる二本の手である。好悪は人生を歩む左右の脚である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
さもあらば、必ず思知る時有らんと言ひしその人の、いかで争で吾が罪をゆるすべき。ああ、吾が罪はつひゆるされず、吾が恋人は終に再び見る能はざるか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しかし、国民の批判や審判を拒否する政党というものの存在をゆるしたら、もうオシマイだ。
されば三十一年の秋、周王しゅくとらえらるゝを見て、燕王は遂に壮士そうしえらみて護衛となし、極めて警戒を厳にしたり。されども斉泰黄子澄に在りては、もとより燕王をゆるす能わず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
嗟吁あゝ人生の短期なる、昨日きのふの紅顔今日けふの白頭。忙々促々として眼前の事に営々たるもの、悠々いう/\綽々しやく/\として千載の事をはかるもの、同じく之れ大暮の同寝どうしん。霜は香菊をいとはず、風は幽蘭をゆるさず。
富嶽の詩神を思ふ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
国外の警報は、直ちに対外の思想を誘起し、対外の思想は、直ちに国民的精神を発揮し、国民的精神は、直ちに国民的統一を鼓吹こすいす。国民的統一と、封建割拠とは、決して両立するをゆるさず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
彼は、自分のゆるしを瑠璃子にうた上、二人の愛児の行末を、瑠璃子に頼んでいる。彼は名ばかりの妻から、夫としてえがたき反抗を受けながら、なお彼女に美しき信頼を置こうとしている。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
否々、我は明日あす此地を立たんとす。ベルナルドオ。そは何處いづくへ往くにか。われ。ヱネチアに往くなり。ベルナルドオ。汝が漫遊の日程は、よも變更をゆるさぬにはあらざるべし。げて我言に從はずや。
宮は何時いつまでここに在らん、我は例のひとりなり。思ふに、彼の悔いたるとは誠ならん、我の死をゆるさざるも誠なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
就中なかんずく性欲に関する動作は、若し刹那せつなに動いて、偶然提供せられた受用をゆるすかしりぞけるかと云うだけが、問題になっているのなら、それはじょすべきである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
山霊 かくるゝことをゆるさず
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)