子守唄こもりうた)” の例文
「ねえ、おかよや、おまえ、この子守唄こもりうたをきいたことがあって?」といって、はこなかから一まいのレコードをいて、ばんにかけながら
谷にうたう女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その上「野越え山越え里打ち過ぎて」と云い、「あの山越えてこの山越えて」と云う詞には、どこか子守唄こもりうたに似た調子もある。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
有名な「子守唄こもりうた」は三十五歳の時の作。一八七〇年から七一年にわたる普仏ふふつ戦争の時には愛国の血に燃えて雄大な合唱曲「凱旋がいせんの歌」を作った。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
一言にして言えば、それは時間の遠い彼岸ひがんに実在している、彼の魂の故郷に対する「郷愁」であり、昔々しきりに思う、子守唄こもりうた哀切あいせつな思慕であった。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
千穂子も淋しくて仕方がないのだと、まるで、自分のむすめを可愛がるようなしぐさで、千穂子の背中をさすり、子守唄こもりうたを歌ってなぐさめてやりたくなるのである。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
これは私の子守唄こもりうたであった。ともかく私はただ食って生きているだけではない、という自分に対する言訳のために、茶碗ひとつ、箸一本を身辺に置くことを許さなかった。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
和上のきづ二月ふたつきで癒えたが、其の傷痕きづあとを一目見て鎌首かまくびを上げたへびの様だと身をふるはせたのは、青褪あをざめた顔色かほいろの奥方ばかりでは無かつた。其頃在所ざいしよ子守唄こもりうたに斯う云ふのが流行はやつた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
お徳は和助のちいさい時分からあの子供を抱いたり背中にのせて子守唄こもりうたをきかせたりした長いなじみで、勝手の水仕事をするあかぎれの切れた手を出しては家のものの飯を盛ると
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そう言ってまくらに頭をつけて、お月様を見ながら、お母様の子守唄こもりうたをききました。
(新字新仮名) / 竹久夢二(著)
ばうやはいゝねんねしな。」……とくちうち子守唄こもりうたは、われながら殊勝しゆしようである。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ほんとうにわたしためになりましたわ。辰子さんもいらっしゃればいのに。そりゃ可哀そうな人がいてよ。いつでも、御腹おなかに子供がいると思っているんですって。たった一人、隅の方へ坐って、子守唄こもりうたばかり歌っているの。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
さながら子守唄こもりうたのように聞かれた。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
祖母立子声うららかに子守唄こもりうた
七百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「おじょうさま、せっかくおつれもうして、あのおんなのうたう子守唄こもりうたをおきかせすることができません。」と、おかよは、なげきました。
谷にうたう女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この句の咏嘆しているものは、時間の遠い彼岸ひがんにおける、心の故郷に対する追懐であり、春の長閑のどか日和ひよりの中で、夢見心地に聴く子守唄こもりうたの思い出である。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
楽劇「ジークフリート」から主題を採り、ドイツの古い子守唄こもりうたが織り込んであり、ワグナーにしてはこの上もなく美しい曲で、隅々すみずみまでも愛情が行きわたっている。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
お爺さんは、親切ないい人でしたが、ある日ジャッキイの子守唄こもりうたをききながら、死んでしまいました。ジャッキイは、またある有名な音楽家に救われて、そこのうちへ引取られてゆきました。
街の子 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
こんなことをつて惡戯好いたづらずきな人達ひとたちとうさんまできたな髮結かみゆひにしてしまひました。しかし、おひな幼少ちひさ時分じぶんとうさんをよくれました。おひなうた子守唄こもりうたとうさんの一ばんきなうたでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
こうしてみみをすますと、大海原おおうなばら波音なみおとのように、あるいは、かすかな子守唄こもりうたのように、都会とかいのうめきが、おだやかな真昼まひる空気くうきつたってくるのです。
花の咲く前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
など、すべて同じ情趣を歌った佳句であるが、特にその新体風の長詩「春風馬堤曲しゅんぷうばていのきょく」の如きは、藪入の季題に托して彼の侘しい子守唄こもりうたであるところの、遠い時間への懐古的郷愁を咏嘆えいたんしている。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
子守唄こもりうた(作品五七)」、ショパンの童心の現れた、こんな優しく美しい曲は少ない。ビクターのコルトーが断然良い(JD一六七四)。コロムビアのロンも女らしさを買われようか(名盤集)。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
お月様は、にこにこしながら、子守唄こもりうたを歌うお母様と幹子とを見ていました。お母様もお月様のほうを見て笑っていらしたけれど幹子は何も見なかった。幹子はもうすやすやと眠ってしまったから。
(新字新仮名) / 竹久夢二(著)
極めて単調子な、意味のシンプルな子守唄こもりうたが私の心をし去ってしまう。そして、それをいつまで聞いていても、私は、この子守唄を聞くことにきない。
単純な詩形を思う (新字新仮名) / 小川未明(著)
しばらくすると可愛かあ子守唄こもりうたがきこえて来ました。
人形物語 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
かあさんは、しょうちゃんをいて、子守唄こもりうたをうたいながら、へやのうちをあるきまわりました。そのうちに、やっと、しょうちゃんは、すやすやとねむったようでした。
幼き日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いえ、おじょうさま、どうか、今年ことしなつわたしまれたむらへいらしてください。たににはべにゆりがいていますし、あのかなしい子守唄こもりうたをおきかせしたいのでございますから。
谷にうたう女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
するとさんは、しずかにくれていく、とおそらほうをながめながら、「ぼうやはいいだ、ねんねしな」の子守唄こもりうたいてきかせました。二人ふたり少年しょうねんは、じっとみみをすましてきいていました。
クラリネットを吹く男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この子守唄こもりうたくと、あるいてきた少女しょうじょは、すっかり感心かんしんしてしまいました。
海からきた使い (新字新仮名) / 小川未明(著)
もうれかかっていました。まちはなれると、いえかずがだんだんすくなくなりました。そのとき、みちうえで、ちょうど自分じぶんおなとしごろの少女しょうじょが、あかぼうおぶって、子守唄こもりうたをうたっていました。
海からきた使い (新字新仮名) / 小川未明(著)
くち子守唄こもりうたをうたいながら、なおも、ぼうやの脊中せなかをトン、トンと、かるくたたいていました。昨夜ゆうべから、よくねむらなかったので、つかれたとみえて、しょうちゃんは、ほんとうに、よくついたようです。
幼き日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ははあ、どこのくにも、子守唄こもりうたは、かわらないんだね。」
クラリネットを吹く男 (新字新仮名) / 小川未明(著)