“夫子(ふうし)” の例文
こんな深刻味のあるものを一女性の繊手(せんしゅ)に委(まか)せて夫子(ふうし)自らは別の境地に収まっている。鴎外はなぜそんな態度を取っているのだろう。
予これを忖度(そんたく)す〉とは夫子(ふうし)の謂(いい)なり、我は自分で行(や)っておきながら、何の訳とも分らなんだに夫子よくこれを言い中(あ)てたと讃(ほ)めたので
論者その人の徳義薄くして、その言論演説、もって人を感動せしむるに足らざるか、夫子(ふうし)自から自主独立の旨を知らざるの罪なり。
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
伯夷(はくい)・叔齊(しゆくせい)、賢(けん)なりと雖(いへど)も、(七三)夫子(ふうし)を得(え)て名(な)益〻(ますます)彰(あら)はれ、顏淵(がんえん)、篤學(とくがく)なりと雖(いへど)も、(七四)驥尾(きび)に附(ふ)して行(おこなひ)益〻(ますます)顯(あら)はる。
主人は夢の裡(うち)まで水彩画の未練を背負(しょ)ってあるいていると見える。これでは水彩画家は無論夫子(ふうし)の所謂(いわゆる)通人にもなれない質(たち)だ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は、精を窮め、微に入り、面に睟れ、背に盎き白鹿洞(はくろくどう)の先生に非ず。彼は、宇宙を呑み、幽明を窮むる橄欖(かんらん)林の夫子(ふうし)に非ず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「ああ、夫子(ふうし)が、——古今無双(ここんむそう)の射の名人たる夫子が、弓を忘れ果てられたとや? ああ、弓という名も、その使い途(みち)も!」
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
子、南子(なんし)を見る。子路説(よろこ)ばず。夫子(ふうし)之(これ)に矢(ちか)いて曰く、予(われ)否(よからぬ)ところあらば、天之を厭(す)てん、天之を厭(す)てんと。(雍也、二八)
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
科学を呪(のろ)うこと迚(とて)もはなはだしく、科学的殺人の便宜を指摘する夫子(ふうし)自身(じしん)はいつか屹度(きっと)この「便宜(コンビニエンス)」の材料に使われて
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いかに籠城が北条の十八番(おはこ)でも、のびのびと屈托のない秀吉に対しては一向利き目がない。それどころか夫子(ふうし)自身、此のお家伝来の芸に退屈し始めて来た。
小田原陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
道義の頽廃を嘆くことのエゴイズムも同じこと、如何に嘆いてみたところで夫子(ふうし)自らの道義なるものゝエゴイズムをさとらなければ笑ひ話にすぎないだらう。
エゴイズム小論 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
くど/\二言(ふたこと)三言(みこと)云うかと思うと、「それじゃまた」とお辞儀(じぎ)をして往ってしまった。「弟が発狂した」が彼の口癖(くちぐせ)である。弟とは蓋(けだし)夫子(ふうし)自(みずから)道(い)うのであろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
それを知つて居る夫子(ふうし)自身もまた、塔のあたりを、深夜ウロウロする一人だつたのかも知れません。
夫子(ふうし)曰(のたまわ)く、『衆生かならず死す、死すればかならず土に帰す。これ、これを鬼という。骨肉下陰に斃(たお)れて野土(やど)となり、その気上に発揚して、昭明焄蒿悽愴(しょうめいくんこうせいそう)となると、云云』
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
門前の雀羅(じやくら)蒙求(もうぎう)を囀(さへづ)ると説く先生あれば、燎原(れうげん)を焼く火の如しと辯ずる夫子(ふうし)あり。
夫子(ふうし)が強(あなが)ちに爾(しか)き道義的誤謬(ごびう)の見解を下したるは、大早計にも婦人を以て直ちに内政に参し家計を調ずる細君と臆断(おくだん)したるに因るなり。婦人と細君と同じからむや、蓋(けだ)し其間(あひだ)に大差あらむ。
醜婦を呵す (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
退(の)っぴきならぬ退歩説の実例を得るためには、夫子(ふうし)それ自身、そういう下層の日常の中で生活する必要があるという痛烈な決心をし、荷物をひき纏(まと)めて静寂閑雅なパッシイの高等下宿(パンション・ド・ファミイユ)から
犂氏の友情 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
小川秋明は社会主義かぶれしておると言っとるが、夫子(ふうし)自身、無産党の連中を利用して、大衆を踊らせようとしている。それこそ社会主義者の手だが、笛吹けどもということになりはせんかな
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
此(これ)は是れ伊川(いせん)みずから此(この)説を造って禅学者を誣(し)う、伊川が良心いずくにか在(あ)る、と云い、管(かん)を以て天を窺(うかが)うが如しとは夫子(ふうし)みずから道(い)うなりと云い、程夫子(ていふうし)崛強(くっきょう)自任(じにん)す、聖人の道を伝うる者
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
尤(もっと)も夫子(ふうし)自(みずか)ら神学博士だった。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
こう勢(いきおい)に乗じてぬすっとうを追い懸ける以上は、夫子(ふうし)自身がぬすっとうに成っても追い懸けるつもりと見えて、引き返す気色(けしき)もなく垣の根元まで進んだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夫子(ふうし)自身は青酸などと関係のありそうな存在ではありませんから、これは全く問題外です。
死の予告 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
昔孔子老耼(ろうたん)を見て帰り三日談(かた)らず、弟子問うて曰く、夫子(ふうし)老耼を見て何を規(ただ)せしか、孔子曰く、われ今ここにおいて竜を見たり、竜は合(お)うて体を成し散じて章を成す、雲気に乗じて陰陽は養わる
吾(われ)聞(き)く、君子(くんし)は己(おのれ)を知(し)らざる者(もの)に(五二)詘(くつ)して、己(おのれ)を知(し)る者(もの)に信(の)ぶと。吾(われ)・縲紲(るゐせつ)の中(うち)に在(あ)るに方(あた)り、(五三)彼(かれ)、我(われ)を知(し)らず。(五四)夫子(ふうし)既(すで)に(五五)感寤(かんご)し、我(われ)を贖(あがな)へり、是(こ)れ己(おのれ)を知(し)るなり。
宰我曰く、予を以て夫子(ふうし)を観るに、堯舜より賢(まさ)れること遠し。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
後、冉有が子路の所へ行って夫子(ふうし)の言葉を告げた。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
私は私を代表している、私以外の者は一人も代表しておらない。親も代表しておらなければ、子も代表しておらない、夫子(ふうし)自身を代表している。否(いな)夫子自身である。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
したがって浅井君はいっこう知らない。ただ断われば済むと思っている。淋しい小夜子の運命が、夫子(ふうし)の一言(いちごん)でどう変化するだろうかとは浅井君の夢にだも考え得ざる問題である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
で公徳と申すと何か新しく外国から輸入して来たように考える諸君もあるかも知れんが、そう思うのは大(だい)なる誤りで、昔人(せきじん)も夫子(ふうし)の道一(みちいつ)以(もっ)て之(これ)を貫(つらぬ)く、忠恕(ちゅうじょ)のみ矣(い)と云われた事がある。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「何にもない。時々(とき/″\)論文を書く事はあるが、ちつとも反響がない。あれぢや駄目だ。丸で世間が知らないんだから仕様がない。先生、僕の事を丸行燈だといつたが、夫子(ふうし)自身は偉大な暗闇(くらやみ)だ」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「何もない。時々論文を書く事はあるが、ちっとも反響がない。あれじゃだめだ。まるで世間が知らないんだからしようがない。先生、ぼくの事を丸行燈(まるあんどん)だと言ったが、夫子(ふうし)自身は偉大な暗闇だ」
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)