喫驚びつくり)” の例文
んぼんでも、不意に二人でいんだら、うち喫驚びつくりしますがな。』と、お光は自家うちへ小池を伴なつて歸るのをしぶる樣子であつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
吾等われら喫驚びつくりして其方そなた振向ふりむくと、此時このとき吾等われらてるところより、大約およそ二百ヤードばかりはなれたもりなかから、突然とつぜんあらはれて二個ふたりひとがある。
其處へ以てマルコ・ポーロが殆ど見たこともない蒙古人の風をして歸つて來ましたから皆の者は喫驚びつくりして彼奴詐僞師に違ひないなど申す。
元時代の蒙古人 (旧字旧仮名) / 桑原隲蔵(著)
勘次かんじ例令たとひ品物しなものつたところで、自分じぶん現在いまちからでは到底たうていそれはもとめられなかつたかもれぬと今更いまさらのやうに喫驚びつくりしてふところれてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それで先方も驚いたが、こちらが一層喫驚びつくりして、倉皇と逃げ帰つたといふ牛乳屋の話を、お藤さんは面白さうに私にして聞かせるのだつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
高い桜のかれ枝を余念なく眺めて居た女は、急に三四郎の方を振り向く。あら喫驚びつくりした、ひどいわ、といふ顔付であつた。然し答は尋常である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
(やあ、御坊様ごばうさま、)といはれたから、ときときなり、こゝろこゝろ後暗うしろぐらいので喫驚びつくりしてると、閻王えんわう使つかひではない、これが親仁おやぢ
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
へやの戸をかるく叩く物音に自分は喫驚びつくりして夢から覚めた。ホテルのボオイが早や石油のランプを持ち運んで来たのである。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「さあ、裏から廻はりませう。さうすれば此の真つ暗に見える『天の岩戸』の中にどれ程の光りがたゝへられてあるか、貴方は喫驚びつくりなさるでせう。」
俺の母犬おふくろは俺を生むと間もなく暗黒やみの晩に道路わうらいで寝惚けた巡行巡査に足を踏まれたので、喫驚びつくりしてワンと吠えたら狂犬だと云つて殺されて了つたさうだ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
ところがその西瓜が仙蔵も次郎作もまだ見たこともない程のものでした。それは酒をこしらへるときの、大樽おほだるほどもありました。二人は大へん喫驚びつくりしました。
漁師の冒険 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
喫驚びつくりして「竿持ツて来るのは止めるから、早く降りて呉れ、旦那でも来れあ俺が叱られるから。」と云ふ。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
小樽は、冬子だな! と直ぐに気づいたにも拘はらず、その瞬間には飛びあがるほど喫驚びつくりした。
黄昏の堤 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
めたん子は愚鈍でのろのろしてゐるが、時と場合によると喫驚びつくりするくらゐ素早いことがあつた。
めたん子伝 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
まつたく喫驚びつくりしました。今まで全然氣のつかなかつた一大事を、いま突然教へられたやうな驚きであつたのです。忽ち胸はどきどきとしだしましたが、それもすぐ納りました。
金比羅参り (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
梅子は遽然きよぜん我に返へりつ、「あら、芳ちやん、喫驚びつくりしましたよ、どうなすつて」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
どうなと勝手にしおれいと。枕を取つて投げ棄てる、力は抜けても、中に立つ柱の際に嘉平は喫驚びつくり。ひやあ太一さうまでも怒らぬものじや。病気の毒じや勘忍せい。悪いはおれじや、ま、待てやい。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
さう漁夫が言つたから少年は喫驚びつくりした。そして突然泣き出した。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
初めは喫驚びつくりしても、文吾の小ひさな度胸は、もうスツカリ据わつてしまつた。矢でも鐵砲でも持つて來いといふ氣になつた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
彼の思想は、人間の暗黒面に出逢つて喫驚びつくりする程の山出やまだしではなかつた。かれの神経は斯様に陳腐な秘密をいで嬉しがる様に退屈を感じてはゐなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
午前ごぜん囘診くわいしんにおいでなすつた醫師せんせいが、喫驚びつくりなさいました。不思議ふしぎなくらゐ、ときからみやくがよくつたんです……
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おほきくなりましただんか。近々きん/\橄欖島かんらんたうでおひになつたら、そりや喫驚びつくりなさる』とまた兵曹へいそうした。
何とか先に手紙でも來れや、職業くちの方だつて見付けるに都合がいゝんだ。昨日は實際僕喫驚びつくりしたぜ。何にも知らずに會社から歸つて見ると後藤の肇さんが來てるといふ。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「田舎のお父つあん見やはつたら、喫驚びつくりしやはりまツせ。——矢つ張り機嫌ようしてはりまツか。」
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
ときわたしもどうかしてとおもつてね、それだがおつぎが度胸どきようのあるのぢやわたし喫驚びつくりしたよ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
早速友人に遲刻を責めつつ事情を聞くと、その友人がうとうと車中で居睡をして居る間に、馬車が泥濘の裡に顛覆して、否やといふ程、頭を打ち付けた。喫驚びつくりしたが、車内のこととて身動きが出來ぬ。
大師の入唐 (旧字旧仮名) / 桑原隲蔵(著)
も一人のは喫驚びつくりして振り迎つた。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
あの時は、ほんとに喫驚びつくりしたよ。東京の何家どつかの女將おかみにしては野暮臭やぼくさくもあるし、第一言葉が違ふし、それにフイと下駄を見ると、ヒドいやつ
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
獅子しゝとら猛狒等ゴリラなどいづれもこの不思議ふしぎなる鐵檻てつおりくるま一時いちじ喫驚びつくりしたのであらう、容易ようゐいださない。
何とか先きに手紙でも来れや、職業くちの方だツて見付けるに都合がいいんだ。昨日は実際僕喫驚びつくりしたぜ。何にも知らずに会社から帰ツて見ると、後藤の肇さんが来てるといふ。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
お秋さんは右の手を拔いて左の肩で背負子を支へて左の膝を曲げてそつと地上へ卸した。持つてゐて呉れといふので自分は背負子を支へてゐる。一寸引つ立てて見たら重いのに喫驚びつくりした。
炭焼のむすめ (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
要するに行ける所迄行つて見なかつたから、見当が付かない。思ひ切つてもう少し行つて見るとかつた。けれども恐ろしい。別れ際にあなたは度胸のない方だと云はれた時には、喫驚びつくりした。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
この現實の暴露に狼狽し喫驚びつくりしたのは無理でない。
支那猥談 (旧字旧仮名) / 桑原隲蔵(著)
「なんや、おまはんか——おゝ、喫驚びつくりした!」
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
此方こつち喫驚びつくりしてだまつてながめる。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「此處や、此處や。」と叫ぶと、千代松は喫驚びつくりした顏をして、竹丸と同じやうに其の白い字の標札を仰いだ。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
新坊は、常にない智惠子の此擧動に喫驚びつくりして、泣くのははたと止めて不安相に大きく目を睜つた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
猪之介は喫驚びつくりした顏をして、かう言ひながら背後うしろを振り向いた。旦那は尖つた口をいよ/\尖らして
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
新坊は、常にない智恵子の此挙動に喫驚びつくりして、泣くのははたと止めて不安相におほきく眼をみはつた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
茫然ぼんやり立つてゐる小児でもあれば、背後うしろからそつと行つて、目隠しをしたり、唐突いきなり抱上げて喫驚びつくりさしたりして、快ささうに笑つて行く。千日紅の花でも後手に持つた、腰曲りの老媼ばばあでも来ると
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「あゝ喫驚びつくりした。……やけんど、めんたと間違へてけつかる。」
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
『病人が突然やつて來て、喫驚びつくりしたらう? 夜になつても矢つ張り暑いね。』
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「ずツと前にてもろた醫者が、リョーマチやいうて、其の藥ばかり呉れてたんがわるおましたんや。子宮だしたんやもんなア、此處の院長さんがやはつて、餘ツぽどわるなつたるいうて、喫驚びつくりしてゐやはつた。」
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
二三日前でした、由松は先生と然うしてゐて、突然眼を瞑つて背後うしろに倒れました。先生は靜かに由松を抱いて小使室へ行つて、頭に水を掛けたので子供は蘇生しましたが、私共は一時喫驚びつくりしました。
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
二三日前でした、由松は先生と然うしてゐて、突然眼をつぶつて背後うしろに倒れました。先生は静かに由松を抱いて小使室へ行つて、頭に水を掛けたので小供は蘇生しましたが、私共は一時喫驚びつくりしました。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そして、『罷めましたよ。貴方が喫驚びつくりするから。』
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
其麽そんな喫驚びつくりする事はねえさ。』
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)