へえ)” の例文
「そっちの来るのが遅いために、船から玉を上げていると、この先の河原で、飛んだ無茶な侍が邪魔にへえってしまったじゃねえか」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お道どん、お前のまいだけれどもう思い切ってるんだからね、人のへえらねえ処だし、お前、対手あいてはかよわいや。そこでもってからに
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
子供じゃあるが、ペンキみてえにはしっこい。それは君が初めてへえって来た時に俺にゃあちゃんとわかってるんだ。で、こういう訳だよ。
おいらが若え時分にはな、日がへえって寺の鐘が鳴るまじゃあ、仕事を止めなかったもんだ。坊様がなんで鐘をつかさるか、お前は知るめえ。
土地 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
正坊が中学へへえるっていうのにいつまで親父が……いつまでそんな親父が飲んだくれてばかりいられる? ——それを思って俺ァ止めたんだ。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
吝嗇漢しは(わ)んぼに茄子は買は(わ)すな日本橋——か、ハッハッハッハ、こいつは面白い、逆さに読んでも同じだ、落首もこれ位になると点にへえるよ」
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「おい、だれか見とるといけんから、早く、早く! だれも見とらんか、見とらんか? さ、急いでへえれ!急いで!」
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ティンなんて(7)あいつにゃあちっともへえっていねえんでがす、ウィル旦那。わっしはめえから言ってるんでがすが」
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
まえさんは知らないのだから、おい兄イそんな事を云っても仕方がねえ、人間を打殺して下手人になっても人がへえれば内済ねえせいにしねえものでもねえから
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ぶく/\やりたけりやへえつたはうがえゝや」船頭せんどうはそつけなくいつておもむろにさをてる。船底ふなぞこさはつてつて身體からだがぐらりとうしろたふさうつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
よウし! なにがへえってるか、一つ見てやれ——と与吉は、本郷への途中、壺を開きかけると、あ! いけねえ!
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あアお午後ひるからぶらぶらと向を出て八時なら八時に数寄屋橋までけろと云や、ちゃんと其時間にへえったんでさ。……ああ、面白えこともあった。苦しいこともあった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「なぜってべら棒め、あの侍は盗難保険にへえってるんだ、ここで脱いでゆきゃあ三千両取れる」
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「うぬは、もう、素浪人だぞっ。土足のまま人の家へへえりゃあがって、この泥棒め。勝手に、人の宅へ入りゃあ、引っ捕えて、自身番へ渡されるのを知らねえか。この野郎」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
おい熊吉! へえつてならんいふ田圃さなぜへえつた? 田圃さ入つてならんといふ法律なぜ破つた? 松本の旦那あお前から土地を引上げるいうてゐなさるんぢや。畦さ立つとる札を
黎明 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
「あの男なんかにゃあ弁護の口なんざ一つも手にへえりっこねえってことにゃ、わっしは半ギニー賭けたっていいでさあ。一つだって手にへえりそうな奴にゃ見えやしねえ。そうでしょう?」
「この前きてくれた日本手づまの鈴川伝之丞さんのほうがよっぽどへえったよ」
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「さあ、いけねえ、友様、面倒だから、そこらへへえってしまおう」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
道理こそ、いまし方天幕へ戻って来た時に、段々塗の旗竿はたざおを、北極探検の浦島といった形で持っていて、かたりと立掛けてへえんなすった。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「奴らはたった今ここにいたんだ、——俺がへえろうとした時に戸に閂をさしていやがったんだ。おい、みんな、散らばって、奴らを見つけ出せ。」
「それに、お客様は跣足はだしだ。大玄関からは上がられませんよ——さア、遠慮はいらねえ、そこからへえって来るがいい」
甚「ナニ、油紙がある、そりゃア模様物や友禅ゆうぜんの染物がへえってるから雨が掛ってもいゝ様に手当がしてあるんだ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「俺の耳へへえったのは、この春頃からだが、村の奴は寄ると触ると、ヒソヒソそういう噂ばかりしとる……」
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そこがいまの大部屋と違うところで、その時分そんなことをいおうものなら、生意気な野郎だ、ふざけた畜生だで折角辛苦してへえった一座をたちまちクビだ。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
寂しがりまして……それに、だんだん産月うみづきも近づいて参りますと、気がふさぐと見えまして、もう自分で穴掘ってへえるようなことばかり言っておるでござります。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
『そこじゃあ暑うござんす。こっちへおへえいんなすって、麦湯むぎゆでも召上っておくんなさい』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうしたんべ、へえつちやせめえか」船頭せんどうはういてかれはいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
へえったら——」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
元気な小僧だし、己の若くっていい男だった時に生写いきうつしだからよ。いつも己はお前が仲間にへえってくれて、紳士で死んでもれえてえもんだと思ってた。
「それに、お客樣は跣足はだしだ。大玄關からは上られませんよ——さア、遠慮はいらねえ、其處からへえつて來るが宜い」
浮舟さんが燗部屋かんべやさがっていて、七日なぬかばかり腰が立たねえでさ、夏のこッた、湯へへえっちゃあ不可いけねえと固く留められていたのを、悪汗わるあせひどいといって
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長「それも知らねいのだが、この拇指のへえるくれえの穴がポカンといていて、暑さ寒さに痛んで困るのよ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「その代りには、あの男、生れてはじめて二千と三千まとまったものを握ったんだ。——門のある家へへえって急に三人と書生を置いたんだ。——いっそ思い置くことはあるめえ。」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
「じゃ船へへえるものはこれだけかい。何も他に忘れ物はあるめえな利助」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
めえ、滝の処はやっぱり真暗まっくらだっさ。野郎とうとう、めんないちどりで、ふんづかめえて、口説こうと、ええ、そうさ、長い奴を一本引提ひっさげてへえったって。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
權「他に心得はねえが、夜夜中よるよなか乱暴な奴がへえるとなりませんから、わしゃア寝ずに御殿の周囲まわり内証ないしょうで見廻っていますよ、もし狐でも出れば打殺ぶっころそうと思ってます」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あわてるなよ、八、これから話が本筋にへえるんだ、——叔母さんもそう言ったぜ、同じことなら八五郎の気に入ったのがよかろうと、な。よく解った話じゃないか。
幾ら相場が狂ったって、日本橋から馬車に乗って、上野をてくで、道端の井戸で身体からだを洗って、蟋蟀きりぎりすの巣へへえってさ、山出しにけんつくを喰って、不景気な。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
男「おい/\番頭さん見てやれ/\、長く湯にへえっていたものだから眼がまわって顛倒ひっくりかえったのだろう」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ね、親分、この不景気に、十二文の木戸を払ってこれだけへえるんだから——」
やつこへえれ、さあ、なにあつい、なにあついんだい。べらぼうめ、よわくねえ、小僧こぞううだ。」
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あい、はアー……あい/\……何だとえ、泥坊がへいったとえあれま何うもはア油断のなんねえ、庭伝えにへえったか、なんにしろ暗くって仕様がねえ、店の方へってあかり
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「まアへえんな、——お富、お富、俺の古馴染の東作さんだ。挨拶をするがいい」
病院長の奥様より、馬小屋へへえっても、早瀬と世帯が持ちたいとよ。お菅さんにも聞いて見ねえ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此方からお手当を戴き嚊をうちへ置いて看病をすると、わっちも堅気の職人ですから、そんな事が親方の耳へでもへえれば、手前てめえあすんでいて他から銭を貰う、飛んでもねえ奴だ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「まアへえんな、——お富、お富、俺の古馴染の東作さんだ。挨拶をするがいゝ」
何でも徳川様瓦解がかいの時分に、父様おとっさんの方は上野へへえんなすって、お前、お嬢さんが可哀かわいそうにお邸の前へ茣蓙ござを敷いて、蒔絵まきえの重箱だの、お雛様ひなさまだの、錦絵にしきえだのを売ってござった
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おらが手にへえるのはばちだ、しかしこれも世間へ出せねえ文、己ア娘の書いた此の文も世間へ出せねえ文だから、此の二通とも一緒にして囲炉裏の中へ投焚つッくべて反故ほごにすべえじゃねえか
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
仰せの通りだが、湯へへえっても、髪結床へ行っても、米の高え話を聴かされると、あっしのような不自由を知らねえ人間も、ツイ人付き合いに、同じせりふが言ってみたくなるじゃありませんか。
おれが草を刈って来て喰わせる時も毒な草がへえって居ちゃアいけねえからと思って、茅草かやぐさばかり拾って喰わせるようにしたから、われでかい坂をこえるにもつれえ顔を一つした事はねえで
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)