傲然がうぜん)” の例文
大膽な執念深しふねんぶかい、傲然がうぜんとした一個の紳士が、何だか、自分の雇人の中でも一番いやしいものに左右せられてゐるやうに思はれるのだ。
左に雛妓すうぎを従へ、猥褻わいせつ聞くに堪へざるの俚歌を高吟しつつ、傲然がうぜんとして涼棚りやうはうの上に酣酔かんすゐしたる、かの肥大の如き満村恭平をも記憶す可し。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
旦那だんな徐羣夫じよぐんふ田舍大盡ゐなかだいじん忘其郡邑矣そのぐんいうをわする、とあるから何處どこのものともれぬが、あんずるに金丸商店かねまるしやうてん仕入しいれの弗箱どるばこ背負しよつて、傲然がうぜんひかへる人體じんてい
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
平たきおもてに半白の疎髯そぜんヒネリつゝ傲然がうぜんとして乗り入るうしろより、だ十七八の盛装せる島田髷しまだまげの少女、肥満ふとつちようなる体をゆすぶりつゝゑみかたむけて従へり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
薄菊石うすあばたの五十格好の男のやうに、吊皮に揺られて居る老婆を傲然がうぜんと睥睨しながらふんぞり返つて居る方が、何れほど男らしいか分らないと思つた。
我鬼 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
もう大ていいゝだらうと思ってうしろをちょっと振り返って見たらその若者はみちのまん中に傲然がうぜんと立ってまるでにらみ殺すやうにこっちを見てゐた。
税務署長の冒険 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
あの立派なひげやして傲然がうぜんと構へてゐるパリの紳士が、信仰のことで奥さんにたしなめられてゐるのです。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
彼れは其学識をてらひて、ミル、スペンサー、ベンダム、ハックスレー、何でも御座れと並べ立てゝ傲然がうぜんたることなほ今の井上博士が仏人、独逸人、魯人、以太利人
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
昔者むかしはカーライル、弊衣を着、破帽をいたゞいて、一日馬車を竜動ロンドン街頭にる。一市民見て声をあげて笑ふて曰く、かの乞丐かたゐの如くして傲然がうぜん車上にあるは誰ぞ、と。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そして、傲然がうぜんと、河岸のアラビア人の家をたゝきおこし、トルコ軍の火薬庫へ重要貨物をはこぶについて、数人の人夫がいる、すぐにそろへ集めろと命令しました。
船橋せんけううへにはビールだるのやうに肥滿ひまんした船長せんちやうが、あか頬髯ほゝひげひねりつゝ傲然がうぜんと四はう睥睨へいげいしてる。
小豆澤小六郎は八五郎に見護られながら、それでも肩をそびやかして、傲然がうぜんと平次に從ひます。
斯う言つて、音作は愚しい目付をしながら、傲然がうぜんとした地主の顔色をうかゞひ澄ましたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ふところ手して傲然がうぜんとかまへてゐる大親分のやうにさへ見えたのであるが、私は、さう富士に頼んで、大いに安心し、気軽くなつて茶店の六歳の男の子と、ハチといふむく犬を連れ
富嶽百景 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
すべての惨事は人間の愚かさと不注意と無自覚とに帰せしめてゐるかのやうに起重機は傲然がうぜんと突つ立つてゐた。丸田は急いで通り過ぎた。嘉吉は其の先の石段を下りて小船に飛び乗つた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
運よくして思ふこと図に当りなば傲然がうぜんとして人をしのぎ、運あしくしてきはまりなば憂悶して天を恨む。凌がるゝ人は凌ぐ人よりも真に愚かなりや、恨まるゝ天は恨む人の心を測り得べきや。
哀詞序 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
傲然がうぜんとただでましかへつてはいつてゆくやうになる。
むぐらの吐息 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
一方ブロクルハースト氏は、手を後に組んで、爐邊ろへんに立ち、傲然がうぜんと全生徒を見渡してゐた。
道連みちづれになつた上人しやうにんは、名古屋なごやから越前えちぜん敦賀つるが旅籠屋はたごやて、いましがたまくらいたときまで、わたしつてるかぎあま仰向あふむけになつたことのない、つま傲然がうぜんとしてものないたち人物じんぶつである。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この時、我が帽子も亦我と共にこの名誉なる一商船の機関長閣下をもはばからず、傲然がうぜんとして笑へるが如くなりき。その夜、マストにかゝる亥中ゐなかの月の、淋しくも凍れるが如き光にも我と共に浴びぬ。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
わたしに向つて傲然がうぜんと構へてゐるのを見た時に——今になつて何もかもわたしの愚かさを正直に云ふのだが——わたしは三十余年前に、わたしがまだ私立大学の聴講生で下宿屋にゴロ/\してゐた頃
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
よそ/\しい會釋ゑしやくか冷淡な一瞥をくれたきりで、傲然がうぜんとして冷やかに私の傍を行き過ぎてしまふこともあつたし、また紳士らしい愛想あいそのよさで、會釋ゑしやくしたり微笑したりすることもあつた。
ねずみはしらかくれた。やがて、のろへるの、七日前なぬかまへに、傲然がうぜんた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とほり。」と傲然がうぜんとして、坊主ばうず身構みがまそでかゝげた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
るものか。』と傲然がうぜんとした調子てうしつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)