下衣したぎ)” の例文
夜分は自分の着て居る袈裟と下衣したぎとが夜着であって、その上に一枚の古毛布ふるけっとでもあれば余程よいのですが、それもないのが多い。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
辻の風説うわさ、会うものごとに申し伝えて、時計の針が一つ一つ生命いのちを削りますようで、皆、下衣したぎの襟を開けるほど、胸が苦しゅうござりましたわ。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのはよほど家柄いえがらうまれらしく、まるポチャのあいくるしいかおにはどことなく気品きひんそなわってり、白練しろねり下衣したぎうすうす肉色にくいろ上衣うわぎかさ
粗末そまつきれ下衣したぎしかてゐないで、あしにはなにかず、落着おちついてゐて、べつおどろいたふうく、こちらを見上みあげた。
芳村伊織は溺れそうになった人間のように、激しくあえぎながらおりうの帯を解き、着物をぬがせ下衣したぎいだ。しかし彼にはそこまでしかできなかった。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「杖一つのほかは何をも持たず、かてふくろも、帯の中に銭をも持たず、ただ草鞋わらじばかりをはきて、二つの下衣したぎをも着ざることを命じ給えり」とあります(六の八、九)。
四月八日の仏生日たんじょうびが来た。許宣はきょういたので承天寺しょうてんじへ往って仏生会たんじょうえを見ようと白娘子に話した。白娘子は新らしい上衣うわぎ下衣したぎを出してそれを着せ、金扇きんせんを持って来た。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼女が靴足袋くつたびしたる両足をば膝の上までもあらはし、其の片足を片膝の上に組み載せ、下衣したぎの胸ひろく、乳を見せたる半身をうしろそらし、あらはなる腕を上げて両手に後頭部を支へ
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
浮世を忍ぶ旅路たびぢなればにや、一人は深編笠ふかあみがさおもてを隱して、顏容かほかたちるに由なけれども、其の裝束は世の常ならず、古錦襴こきんらん下衣したぎに、紅梅萌黄こうばいもえぎ浮文うきあや張裏はりうらしたる狩衣かりぎぬを着け、紫裾濃むらさきすそごの袴腰
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
罌粟色けしいろ薔薇ばらの花、藥局やくきよくの花、あやしい媚藥びやくを呑んだ時の夢心地、にせ方士はうしかぶ頭巾づきんのやうな薄紅うすあかい花、罌粟色けしいろ薔薇ばらの花、馬鹿者どもの手がおまへの下衣したぎひださはつてふるへることもある
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
彼女のスカートには、まだ男喰いの獣性が、垢臭く匂っているかに思われたが、それはとうに外されていて、今ではコルセットも下衣したぎもなく、こうして彼女は、男の前で真裸にされたのである。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
おびのなかにきんぎんまたはぜにつな。たびふくろも、二枚にまい下衣したぎも、くつも、つえつな。よ、われなんじらをつかわすは、ひつじ豺狼おおかみのなかにるるがごとし。このゆえへびのごとくさとく、鴿はとのごとく素直すなおなれ。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その身に付けた下衣したぎまでが、殺戮者さつりくしゃに対する貢物として、自分の目の前にさらされているのを見ながら、なおその飽き足らない欲心は、さすが悪人の市九郎の目をこぼれた頭のものにまで及んでいる
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そのときふと見ると、私の下衣したぎのボタンに女の長い髪の毛がいっぱいにからみついているではありませんか。わたしはふるえる指さきで、一つ一つにその毛を摘み取って、窓の外へ投げ捨てました。
下衣したぎがせて地にひき伏せ、むちをあげて打ち据えるのである。
御召物おめしものは、これはまたわたくしどもの服装ふくそうとはよほどちがいまして、上衣うわぎはややひろ筒袖つつそでで、色合いろあいはむらさきがかってりました、下衣したぎ白地しろじで、上衣うわぎより二三ずんした
安二郎の手であらあらしく胸がひらかれ、伸ばした両足を左右にひろげて、裾がまくられ下衣したぎが捲られた。
榎物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
高品さん夫妻にさえ話さず、売り残って半ば不用の本の詰った四つの本箱や、机や、やぶれ蒲団ぶとんや穴だらけの蚊屋かや。よごれたまま押入へ突込んである下衣したぎや足袋類。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
よごれたまま押入へ突込んである下衣したぎや足袋類。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)