下僕しもべ)” の例文
ふたりの下僕しもべと、ひとりの童子をつれ、四人づれで今、四明しめいだけの谷道から上って来たのであるが、ふと光秀のすがたを見かけると
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旅よそおいをした若い娘を乳母うばらしい老女と下僕しもべらしい男とが、守護でもするように前後にはさんで、入り込んで来た一組であった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
摂政家の公子 ある時の事、私が天和堂の門口かどぐちに立って居りますと一人の貴族が下僕しもべを連れてこちらの方向に向いてやって来ました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
身のまわりの物をまとめた荷を下僕しもべに負わせて、花蔵院というところにある水野外記の別墅べっしょへ着いたのはその日のれがただった。
晩秋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
九時過になるまでもデザァトは出されなかつた。そして十時には、まだ下僕しもべたちがお盆だの珈琲コーヒーの茶碗だのを持つてあちこちしてゐた。
暫らく見ていた宇津木兵馬は、山田奉行の役人の下僕しもべとも見える男の傍へ寄って、その持っている槍をお貸し下されたしと申し入れます。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
坊主はかしづく下僕しもべであつた。さうして女優が身を投げたと思つたのは池ではなくて、神意によつて車軸を流す豪雨だつた。
わしなんぞも今はまだ、腰にあずさも張らぬものの、やがてはあの庭先で、箒木ほうきを取っている下僕しもべのように、ヨボヨボしてしまわねばならぬのじゃ
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
修道院の方では、フォーシュルヴァンに対する感謝の念は大なるものだった。フォーシュルヴァンは最良の下僕しもべとなり、最も大切な庭番となった。
つまらぬ下僕しもべなども主人に従って六条院へ来る時には、服装も身の取りなしをも晴れがましく思うのであったから
源氏物語:23 初音 (新字新仮名) / 紫式部(著)
下僕しもべを殺し、女房を殺し、大澤夫婦を殺し、その上妹のお山までも殺した極惡非道ごくあくひだう、それでも罪は無いといふか」
いや決してそんなことはあるまい。わしの安否あんぴまらぬうちに、自害する勇気はとてもあるまい。それに有王ありおうがついている。あの忠実な勇敢な下僕しもべが。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
これまで人をかす誑かすと言ひ慣らはして来た狸が、馴れてみると、決して誑かすものでないといふ事を知るのは、「真理」の下僕しもべだと言つてゐる学者が
下僕しもべたちが脳味噌を絞った挙句あげく、その四角な空気孔を、下から厚い紙で三重に目張りをしてしまった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
の聖人の忠実な下僕しもべであった。そして彼は、「マルシアス河の悲歌」の作者ユウリビデスを退けたストア学徒の血をけて、悲劇をわらい、ひたすら神と力を遵奉じゅんぽうした。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
ある日、長者がやぐらへあがつて沼の中を見渡すと、沼の中には一羽の白鳥が餌をあさつてゐたのぢや。長者は、急にその白鳥がほしくなつて、下僕しもべにいひつけて射らせたのぢや。
黄金の甕 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
君やわしらが、文字を使って書きものをしとるなどと思ったら大間違い。わしらこそ彼等文字の精霊にこき使われる下僕しもべじゃ。しかし、また、彼等精霊のもたらす害も随分ずいぶんひどい。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
教会と神学者は余を捨つるも余のいまだ聖書を捨つる能わざるは余はいまだ爾に捨てられざるの一徴候なり、余は爾の下僕しもべルーテルが我の福音なりとてすがりし加拉太ガラテヤ書に行かん
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
マリテレーズにおける下僕しもべレオナール惨殺犯人としてさきに検挙されたる両名中ボーシュレーなるものの素性は最近に至ってようやく判明したるが彼は極悪無道ごくあくぶどうなる前科者にて
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
下谷したや御門前ごもんぜんで行倒れになりかけているのを気の毒に思って連れ帰って下僕しもべにした。
「まあ、嬉しいやら、びっくりやら——何んと思うて、あの、下僕しもべの真似など?」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
たくさん使っていた下僕しもべの一人でもが、今かしずいていてくれればなどと思う。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
つくゑまへにマツチはつて、かれれをてゐながら、其癖そのくせ大聲おほごゑげて小使こづかひんでマツチをつていなどとひ、女中ぢよちゆうのゐるまへでも平氣へいき下着したぎ一つであるいてゐる、下僕しもべや、小使こづかひつかまへては
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
此処には仁兵衛という水兵上りの下僕しもべがねて居たのでした。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
「姫よ、我を爾の傍におけ、我は爾の下僕しもべになろう。」
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「はい。下僕しもべと二人で這入って参ります。」
月世界競争探検 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
光悦はその時から、灰屋の門の前に立って、そこの鳴子に訪れを通じ、ほうきを持って出て来た下僕しもべに案内されて、前栽せんざいの中へ入っていた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その仏堂の向いにまた小さな離れ家があって博士はそこに住んで居ります。で博士と私との御膳をこしらえるために一人の下僕しもべを置きました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
自分を追ひ廻して、手籠にまでしようとした下僕しもべに對して、斯んな眞劍な同情を持つのは何んとしたことでせう。
特に異常な性質を持つてゐるといふしるしになる畸形きけいな點があるわけでもない。まつたく、この子供が、既に惡魔の下僕しもべで、その身代みがはりであらうとは誰が思ひ得ようか。
「お嬢様!」とそれを聞くと下僕しもべの小平が、まずたくましい顔の上へ、敵がい心をムラムラとだした。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
黄金こがねの甕を下僕しもべしよはせて、今もこの村の真中に流れてゐるあの川の岸まで落ちのびて来たのぢやが、毎日の五月雨さみだれで水は増してゐるし、橋も舟もないし、困り切つてゐると、車の庄の家来は
黄金の甕 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
すこしもものをいわせないことにし——しゃべれば隆夫は日本語しか話せなかった——治明博士はその忠実ちゅうじつなる下僕しもべとして仕えているように見せかけ、そのキラマン号の下級船員の信用を得て
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
つくえまえにマッチはあって、かれはそれをていながら、そのくせ大声おおごえげて小使こづかいんでマッチをっていなどとい、女中じょちゅうのいるまえでも平気へいき下着したぎ一つであるいている、下僕しもべや、小使こづかいつかまえては
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
老公としては、家臣とか下僕しもべとかいう以上に、自分のたましいをふきこみ、自分の信条をもって訓育してきた子弟でもある。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其家そこへ泊って一両日ちますとギャア・ラマの好意で送られた下僕しもべは、まあこの塩梅あんばいなら大丈夫でございましょうといって帰ってしまいました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
天道てんたう樣が許して置く筈は無い、それに、女房や下僕しもべを殺したのは何んとしても勘辨出來ない
私は、あなたのお父様に、お仕えしていたいやしい下僕しもべの、その家内なのでございます。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は、自分の確かなむくいと、汚れなき榮冠を期待してゐた。この次には誰か知らぬ人の手が、善良な信仰深い神の下僕しもべは、遂に主のよろこびの内に召されたと云つて寄越すだらうと思ふ。
また日をふるに従い、長官公邸の下役から下僕しもべにまで、お髯さん、お髯さん、と朱同を呼ぶ愛称はその人柄への好意とともにたかまっていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……アッハッハッ、これくらいでよかろう。……当家の総領でありながら、玄関にもかからず下僕しもべかのように、コソコソと裏口からあがり込んだ心状、察してこの辺で勘弁してくれ。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それ以来、彼は、岡崎の草庵へ来て、草庵のき掃除やら裏方の用やら、夜の番人やら、なにくれとなく忠実に下僕しもべの勤めをしていたのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこへ下僕しもべが二、三人、おくればせに走って来て、兵衛を介抱し歩ませた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
(彼は何を血迷っているのか。自分の下僕しもべであるあの小童こどもを、頭上に差し上げて、あれを一体どうするつもりだろう?)
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六十近い下僕しもべらしい男が、汗を拭き拭き走って来た。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
御存じやも知れませぬが、蜂須賀村の小六と申す者の屋敷に、わずかながら下僕しもべ働きしていた縁故などもござりまして
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——ここへは、許しなくば下僕しもべの者も参りませぬ。見らるる通り塗籠ぬりごめ一間ひとま、外にお声のもれることもない」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なあに、あれで気がいいやっこだから、なにもこわがることはない。といって、子飼こがいからのわが家の下僕しもべさ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
箭四郎やしろうでございます」日野の家を移る時からいてきた下僕しもべは、この箭四郎と、若党のすけだけであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、台所の下婢かひどもや、下僕しもべなどから、自分たちの仲間のように思われて、人気のあることだけだった。
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)