一団ひとかたまり)” の例文
旧字:一團
六月下旬すゑ日射ひざしが、もう正午ひるに近い。山国さんごくの空は秋の如く澄んで、姫神山の右の肩に、綿の様な白雲が一団ひとかたまり、彫出された様に浮んでゐる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
つけはしないけれど、……(しょうじょう)よりもっと小さくってけむのようだね。……またここにも一団ひとかたまりになっている。何と言う虫だろう。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
近くにいた支那人の一団ひとかたまりが、やかましくがやがや言って席を代えさせまいとしたが、祖母はグングンそばを通っていった。
一団ひとかたまりになって息を殺している人影が、通りかかる道庵を認めて声を立てないで、手を上げてしきりに招くのが道庵の眼に留ったから、道庵もひょいとそちらを向きました。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
するうちに、る夜中のこと、村の真中まんなかで大騒動が起りました。犬が一匹え出したのをきつかけに沢山の犬がえ出して、やがて一団ひとかたまりになつて、激しい争ひを初めました。
犬の八公 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
見れば中の間から南の間へかけて、男女をとこをんなの信徒、あそこに一団ひとかたまり、こゝにも一団、思ひ/\に挨拶したり話したりする声は、忍んではするものゝ、何となく賑に面白く聞える。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
自分はまた籠のそばへしゃがんだ。文鳥はふくらんだ首を二三度竪横たてよこに向け直した。やがて一団ひとかたまりの白い体がぽいと留り木の上を抜け出した。と思うと奇麗きれいな足の爪が半分ほど餌壺えつぼふちからうしろへ出た。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
右側に嫩葉わかばをつけたけやきの大木が一団ひとかたまりとなっているところがあった。そこは八幡宮の境内であった。広巳はそこへ入った。華表とりいのしたに風船玉売の老婆がいた。広巳は見むきもしないで華表をくぐった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
群雀の一団ひとかたまりが飛んで来て
都会と田園 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
「晩のおかずに煮て食おう。」と囃しざま、糸につながったなり一団ひとかたまりになったと見ると、おおきひさしの、暗い中へ、ちょろりと入って隠れてしまった。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
前の方の四五人は、甲高い富江の笑声を囲んで一団ひとかたまりになつた。町帰りの酔漢よひどれが、何やら呟き乍ら蹣跚よろよろとした歩調あしどりで行き過ぎた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ぼっぼっと汽車が置いて行った煙は、一団ひとかたまりずつ桑畠の間をって、風の為に消えた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一旦逃げ散った穢多どもは、また一団ひとかたまりになったけれども、今度は別に文句も言わずに、門前に斬り倒された数名の手負ておいを引担いで、そのままいずこともなく引上げて行く模様であります。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この騒ぎが一団ひとかたまり仏掌藷つくねいものような悪玉あくだまになって、下腹から鳩尾みずおちへ突上げるので、うむと云って歯を喰切くいしばって、のけぞるという奇病にかかった。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは、私共が皆一団ひとかたまりになつて、障子際に火鉢を囲んで居たから、御膳の据場所が無かつたからで。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
御存じでせう、其穢多は今でも町はづれに一団ひとかたまりに成つて居て、皆さんの麻裏あさうらつくつたり、靴や太鼓や三味線等をこしらへたり、あるものは又お百姓して生活くらしを立てゝ居るといふことを。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そこへお米の姿が、足袋たびまで見えてちょこちょこと橋がかりを越えて渡ると、三人のふところへ飛び込むように一団ひとかたまり
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
低くなつた北岸きたぎしの川原にも、円葉楊まるばやなぎの繁みの其方此方そちこち、青く瞬く星をちりばめた其隅々くまぐまには、やみに仄めく月見草が、しと/\と露を帯びて、一団ひとかたまりづゝ処々に咲き乱れてゐる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
十月下旬の日の光は玻璃窓ガラスまどから射入つて、煙草のけぶりに交る室内の空気を明く見せた。彼処あそこの掲示板の下に一群ひとむれ、是処の時間表のわき一団ひとかたまり、いづれも口から泡を飛ばして言ひのゝしつて居る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「待て、」といいつつ両人、懐をおさえ、つまを合わせ、羽織のひもめなどして、履物を穿いてばたばたとおかあがって、一団ひとかたまりになると三人言い合せたように
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雲の白さが一団ひとかたまり残って、底にかすか蒼空あおぞらの見える……はるかに遠い所から、たとえば、ものの一里も離れた前途さきから、黒雲を背後うしろいておそい来るごとく見て取られた。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
脊高せだかく車掌台へ出かけて、ここにも立淀む一団ひとかたまりの、弥次の上から、大路へ顔を出した……時であった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
木戸のかた一団ひとかたまりになりて、数百すひゃくの人声推合おしあえり。われはただ茫然としてせむすべを知らざりき。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
橋がかりの下り口に、昨夜帳場に居た坊主頭の番頭と、女中がしらか、それとも女房かと思う老けたおんなと、もう一人の女中とが、といった形に顔を並べて、一団ひとかたまりになってこなたを見た。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どっ吶喊ときを上げて、小児がみんなそれを追懸けて、一団ひとかたまりに黒くなって駆出すと、その反対の方へ、誰にも見着けられないで、澄まして、すっと行ったと云うが、どうだ、これも変だろう。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一番橋手前のをかしらにして、さかり時は毎日五六十本も出来るので、またあっちこっちに五六人ずつも一団ひとかたまりになってるのは、千本しめじッて、くさくさに生えている、それは小さいのだ。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ながいのだの、一番いちばん橋手前はしてまへのをかしらにして、さかりどき毎日まいにち五六十ぽん出来できるので、また彼処此処あつちこつちに五六人づゝも一団ひとかたまりになつてるのは、千本せんぼんしめぢツて、くさ/\にへてる、それはちひさいのだ。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
引返ひっかえして壁のくずれを見ると、一団ひとかたまりおおいなる炎の形に破れた中は、おなじ枯野かれのの目もはるか彼方かなた幾百里いくひゃくりといふことを知らず、犇々ひしひし羽目はめを圧して、一体こゝにも五六十、神か、鬼か、怪しき人物。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ひらりと雪の一団ひとかたまり
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)