鼻緒はなを)” の例文
もつとも、店へ置いて、女達が皆んなで履くから、齒は摺りつてゐるし、鼻緒はなをゆるくなつて、誰でも突つかけられないことはありません」
午餐ひる勘次かんじもどつて、また口中こうちう粗剛こは飯粒めしつぶみながらはしつたあと與吉よきち鼻緒はなをゆるんだ下駄げたをから/\ときずつて學校がくかうからかへつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
黒縮緬くろちりめん羽織はおり唐繻子たうじゆすおびめ、小さい絹張きぬばり蝙蝠傘かうもりがさそばに置き、後丸あとまるののめりに本天ほんてん鼻緒はなをのすがつた駒下駄こまげたいた小粋こいき婦人ふじんが、女
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
後向うしろむきにりてなほ鼻緒はなをこゝろつくすとせながら、なかば夢中むちう此下駄このげたいつまでかゝりてもけるやうにはらんともせざりき。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
また今日こんにち下駄げたによく鼻緒はなをまへあな右足みぎあしひだりに、左足ひだりあしみぎにかたよつて出來できいし下駄げたることがあります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
引開ひきあけて直しける雪踏せつた鼻緒はなをいとふとき心を隱す元益が出てしづ/\進み入に店の者等は之を見ればとし三十路みそぢたらざれど人品じんぴん骨柄こつがらいやしからず黒羽二重くろはぶたへに丸の中に桔梗ききやうもんつきたる羽織はおり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
行春ゆくはるやゆるむ鼻緒はなを日和下駄ひよりげた
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
平次は鼻緒はなをの切れ相な下駄を引摺つて行くと、松と青桐の幹五尺ほど下にわらがこひをしてあり、一寸剥がして見ましたが、其處は誰の惡戯か
るにどくなるはあめなかかさなし、途中とちう鼻緒はなをりたるばかりはし、美登利みどり障子しようじなかながら硝子がらすごしにとほながめて、あれれか鼻緒はなをつたひとがある
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「少し氣が付けば、誰にでもわかる事だよ。あの女は、粗末乍ら身扮がキチンとしてゐるくせに、履物はきものが右と左が違つて居た——鼻緒はなをも、塗も——」
のぶさんうした鼻緒はなをつたのか、其姿そのなりどうだ、ッともいなと不意ふいこゑくるもののあり。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
平次はさう言ふうちにも手早く仕度を整へて、十手を一本ふところにブチ込むと、鼻緒はなをの堅い麻裏あさうらを突つかけるのです。
あねさま唐茄子とうなすほうかふり、吉原よしはらかふりをするもり、且那だんなさまあさよりお留守るすにて、お指圖さしづたまおくさまのふうれば、小褄こづまかた友仙ゆふぜん長襦袢ながじゆばんしたながく、あか鼻緒はなを麻裏あさうらめして、あれよ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これは名前だけはおつかない敵役のやうですが、ヒヨロヒヨロとした青白い四十男で、劍術よりは下駄の鼻緒はなをを直したり、障子を張つたり月代さかやきを當つたりすることのうまい人間です。
下女の話を大概たいがいにして、外へ出て見ると、昨日の雨で生乾なまかわきの大地には、斑々はん/\として足跡が入り亂れ、どれが曲者のやらわかりませんが、そのこと/″\くが女物の水下駄で、現に鼻緒はなをのゆるんだのが二足
傷は左の首筋、頸動脈を切つたのは心得た手口で、凄いほど切れる薄刄のやうですが、其處に落散つて居るのは離れ/″\に赤い鼻緒はなをの下駄だけ、刄物も下手人の殘したものも、何んにも見えません。
疊敷の店から降りて、そゝくさと赤い鼻緒はなをを突つかけます。
鼻緒はなをがなか/\足の指にはまりません。