ぶり)” の例文
土地とちにて、いなだは生魚なまうをにあらず、ぶりひらきたるものなり。夏中なつぢういゝ下物さかなぼん贈答ぞうたふもちふること東京とうきやうけるお歳暮せいぼさけごとし。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この魚は寄生動物が居るとてかつおぶりを人々は斥くるであろうし、この雞肉は硬い、この牛肉は硬いとて人々は喜ばぬであろう。
貧富幸不幸 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
田辺の漁夫は大きさにってぶりを「つはだ、いなだ、はまち、めじろ、ぶり」と即座に言い別くる。しかるに綿羊と山羊の見分けが出来ぬ。
主な収入はぶりであって、冬の二月ごろ、一網に一万尾も二万尾もはいることがあり、それで殆ど一年間の収益があげられるという話であった。
大謀網 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
政「ぬるいからおあがり、お夜食は未だゞろうね、大澤おおさわさんから戴いたぶりが味噌漬にしてあるから、それで一膳おたべよ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
民家もと七戸、今は十戸あり、一家に数夫婦共に住む。畠はあれども米は無く又牛馬も無し。貢物はぶりとあるから、すなわち漁民の小村であった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ぶりまぐろでは体重の一万分の一にも足らぬほどゆえ、大脳の絶対の大きさの相違は、ここに掲げた図よりはさらに数倍も数十倍もはなはだしいのである。
脳髄の進化 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
ぶりの切り身より塩鮭のほうが高価ときては、この点の頭の切り換えだけが、いまだにどうしても私にはつかない。
わが寄席青春録 (新字新仮名) / 正岡容(著)
大物のこいをやる人は、その執拗な、稀な、強さと電力が、絶世の張りある美人に思へようし、ぶり松魚かつおへまで望みを延ばし、或は外国流なかわり種を捜して
魚美人 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
それはぶり梅餡うめあんで、鰤の身を上等にすれば蒸すのですが湯煮ゆでても構いません。それは梅干の餡をかけたのです。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ついさつきのまゆみの下あたりに来る頃には、麓の板橋から早川の漁村へかけて、あかりがちかちかと輝き出す。沖のぶり船にも灯が点る。かうして目が喜ぶ、目が喜ぶ。
蜜柑山散策 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
麦の畑にうる雑草を取ることは、彼の半日の仕事として、十分だった。が、午後からは海岸へ出て、毎日のようにぶりを釣った。糸は太いつるを用い、針は獣の骨で作った。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
風変りな俊寛は、鬼界ヶ島で鬼と化した謡曲文学の観念を吹きはらって、勇壮にぶり釣りを行い、耕作を行い、土人の娘を妻として子供を五人生み、有王を驚殺するのである。
「皆東京へ出てしまいまさあ。去年の冬はぶりが三万本捕れました。旦那、三万本ですぜ!」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
街頭の柳散尽ちりつくして骨董屋の店先に支那水仙の花開き海鼠なまこは安くぶりさわらに油乗って八百屋の店に蕪大根色白く、牡蠣フライ出来ますの張紙洋食屋の壁に現わる。冬は正に来れるなり。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
紀州の沖や土佐の沖ぢや、一網に何萬とぼらが入つたのぶりが捕れたのと云ふけれど、この邊の内海ぢや魚の種が年々盡きるばかりだから、次第に村同士で漁場の悶着が激しうなるんぢや。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
………チッツンチッツン、ツン、チンリン、チンリンやしょめ、やしょめ、京の町の優女やしょめ、………大鯛おおだい小鯛、ぶり大魚おおうおあわび栄螺さざえ蛤子々々はまぐりこはまぐりこ、蛤々、蛤召ッさいなと、売ったる者は優女やしょめ
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
西鶴の『永代蔵』であったか、『胸算用むねさんよう』であったか、台所に魚懸さかなかけというものがあり、年末にぶりでも懸けてあるのを見て、出入の者がもう春の御支度も出来ましたという条があったと記憶する。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
ぶりすずきのようにめきめきと大きく育つものではなく、生まれて四年目で漸く一尺二寸二百匁前後、五年目で一尺三寸余三百匁前後、六年目で一尺五寸余四百匁前後、七年目一尺七寸余六百三十匁
鯛釣り素人咄 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
この勢いで北は図満江とまんこうの鮭から、南は対州つしまぶりに到るまで、透きとおるように調べ上げる事十年間……今度は内地に帰って、水産講習所長の紹介状を一本、大上段に振りかぶりながら、沿海の各県庁
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それに、一度何より日本のぶりが食べてみたい。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
僧都 真鯛まだい大小八千枚。ぶりまぐろ、ともに二万びきかつお真那鰹まながつおおのおの一万本。大比目魚おおひらめ五千枚。きす魴鮄ほうぼうこち鰷身魚あいなめ目張魚めばる藻魚もうお、合せて七百かご
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
シイラを塩にしてわらで包んで貯蔵したもの。北陸ではぶりも同じ目途に供せられ、これをマキイナダといっている。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
同じお魚でもワラサやワカナゴの時は夏の方が味も好くってぶりになると寒中が美味おいしいとしてあります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
紀州の沖や土佐の沖じゃ、一網に何万とぼらが入ったのぶりが捕れたのと言うけれどこの辺の内海じゃ魚の種が年年尽きるばかりだから、しだいに村同士で漁場の悶着もんちゃくが激しゅうなるんじゃ。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
大味も程にこそよれ幾塩と薩摩のぶりよ塩つよく沁め
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
姿がいからといって、糸より鯛。——東京の(若衆)に当る、土地では(小桜)……と云うらしいが浅葱桜あさぎざくらで、萌黄もえぎ薄藍うすあいを流したぶりの若旦那。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのほか鱒、シビ鮪、鮭、カマス等の肉中には真田虫の原虫を含む。殊に鱒と鮭の生肉を長く食しおれば人の腹中に必ず真田虫を生ず。ふぐは卵巣に激毒あり、イナダ、ぶりあわび等は肝臓に毒あり。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
かぶらすしとて、ぶり甘鹽あまじほを、かぶはさみ、かうぢけてしならしたる、いろどりに、小鰕こえびあからしたるもの。ればかりは、紅葉先生こうえふせんせい一方ひとかたならずめたまひき。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ぶり 七五・四三 二一・九六 一・四五 一・一六
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
けれどもぶりではたしかにない、あのはらのふくれた様子やうすといつたら、宛然まるで鮟鱇あんかうるので、わたしかげじやあ鮟鱇博士あんかうはかせとさういひますワ。此間このあひだ学校がくかう参観さんくわんたことがある。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ぶり梅餡うめあん 春 第五十六 玄米のかゆ
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
けれどもぶりではたしかにない、あの腹のふくれた様子といったら、まるで、鮟鱇あんこうているので、私は蔭じゃあ鮟鱇博士とそういいますワ。この間も学校へ参観に来たことがある。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)