顫動せんどう)” の例文
老教授の顳顬筋せつじゅきんはぴりぴりと顫動せんどうし、蒼ざめた顔には、さっと血の色がのぼった。それも無理もない、息子の生死のわかれ目なのだ。
予審調書 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
この問題に奥深く底の底まで頭を突ッ込むとき、そこに必ず私らの全身を顫動せんどうせしめるほどの価値に触れることができるだろうと思った。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
らちもない対話をしているのに、一一いちいちことばに応じて、一一の表情筋の顫動せんどうが現れる。Naifナイイフ な小曲に sensibleサンシイブル な伴奏がある。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
芝居じみた一刹那いっせつなが彼の予感をかすかにゆすぶった時、彼の神経の末梢まっしょうは、眼に見えない風になぶられる細い小枝のように顫動せんどうした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうなって始めて、右掌の無名指が不安定を訴えだしたことは云うまでもない。そうして、あの解しきれない顫動せんどうが起されたという訳なんだよ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その鉛筆の不規則な顫動せんどうによって彼の代表している犯人の内心の動乱の表識たるべき手指のわななきを見せるというような細かい技巧が要求される。
初冬の日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
よく見ると、それにはたらいのような眼玉が二つ、クルクルと動いていた。畳一枚ぐらいもあるようなはねがプルンプルンと顫動せんどうしていた。物凄い怪物だッ!
(新字新仮名) / 海野十三(著)
ぷんと薬の香のするへや空間あきま顫動せんどうさせつつつたわって、雛の全身にさっと流込むように、その一個々々が活きて見える……
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この歌は、志貴皇子の他の御歌同様、歌調が明朗・直線的であって、然かも平板へいばんおちることなく、細かい顫動せんどうを伴いつつ荘重なる一首となっているのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
すると、その顫動せんどうが電波のように心に伝わって刹那せつなに不思議な意味がほのかにささやかれる——いのちの呼応。
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
熱烈にとびかえり、ぴったりとよっても、まだその緊張の顫動せんどうはのこっているというわけなのです。
不思議ふしぎ顫動せんどうなに必死的ひつしてきかんじで二三分間ぷんかんつづくと、はちはやがてあなのそとへた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
ここではパートの崩壊、積重、綜合の排列情調の動揺若くはその突感の差異分裂の顫動せんどう度合の対立的要素から感覚が閃き出し、主観は語られずに感覚となって整頓せられ爆発する。
そうしてあのくびの、静かな、柔らかな、そうしてきわめてわずかなうねり方は、ロシア舞踊に満足すると全然異なった方向において、我々の心に鋭い顫動せんどうを呼び起こしはしないか。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
墜ちがけに、からかさのように拡がった隣りのトド松の枝をつき飛ばした。それは、ふるいのように揺すぶれ、弾力のあるかたい葉は顫動せんどうしつづける。雪はほこりのように降って来た。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
浄明寺じょうみょうじの出陳である。舟型光背ふながたこうはいにつつまれた、明快で優にたえなる御姿である。技巧は極めて繊細であるが、よく味ってみれば作者のゆるみなき神経が仏像を一貫して、活きて顫動せんどうしている。
八右衛門岳が立っている、東西は一里に足らず、南北は三里という薬研やげんの底のような谷地であるが、今憶い出しても脳神経が盛に顫動せんどうをはじめて来る心地のするのは、晶明、透徹のその水
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
うらなひ、禁呪まじなひ呪文じゆもん、そんなものの外に、或種の魔法の杖を持つて歩き、それが倒れた方角と角度と、顫動せんどうとで、地下の埋藏金を見出す方法をさへ、一般に信じられた時代があつたのでした。
いつか彼女が金か何か盗んだときに、みんなで捕まえようとしたが、彼女の肩や手に手をふれると、異様なエレクトリックの顫動せんどうをかんじると同時に、とくに変な悪寒さえ感じたのであった。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
信号が鳴らされた——マストの上にいる水夫やデッキにいるその仲間の耳にはあまりに低いが、それでも寺院の石がオルガンの低い音響にふるえるように、船のなかではその顫動せんどうを感じるのだ。
顫動せんどうし、波動し、光を力となし思想を原素となし、伝播でんぱして分割を許さず、「我」という幾何学的一点を除いてはすべてを溶解し、すべてを原子的心霊に引き戻し、すべてを神のうちに開花させ
互いの微苦笑が、頬の神経に細かい顫動せんどうを与えたことであろう。
春宵因縁談 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
絶えずビクビク……ビクビク……と顫動せんどうしているだけであった。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そはさえぎられたる風の静なる顫動せんどう
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
にほひ高き空気くうきはや顫動せんどう
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
單色たんしよく顫動せんどう
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
またそれから波打つような顫動せんどうが伝わってくるのも感ぜずに、ひたすら耳が鳴り顔が火のようにほてって、彼の眼前にある驚くべきもの以外の世界が
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ただし、潜水兜せんすいかぶととちがっているのは、その頂天てっぺんのところに、赤い一本の触角しょくかくのようなものが出ていて、これがたえず、ぷりぷりといや顫動せんどうをつづけているのだ。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そしてアムゼル鳥の朗かなこゑは、ときどき夕の空気を顫動せんどうさせてゐる。歩道にはところどころにベンチが据ゑてあつて、そこに人が群がつて腰をかけてゐる。
接吻 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ただその心臓は音するばかり、波立つごとく顫動せんどうせるに、溢敷こぼれしきたる黒髪ゆらぎて、千条ちすじくちなわうごめきぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふだん長い睫毛まつげをかむって煙っている彼女の眼は、切れ目一ぱいに裂けひろがり、白眼の中央に取り残された瞳は、異常なショックで凝ったまま、ぴりぴり顫動せんどうしていた。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
打ち崩されるたびにまた同じ順序がすぐ繰返された。自分はついに彼女のくちびるの色まで鮮かに見た。その唇の両端りょうはしにあたる筋肉が声に出ない言葉の符号シンボルのごとくかすかに顫動せんどうするのを見た。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして、それをれきつてしまふと、はち今度こんどぎやくにあとずさりしながら、自分じぶんしりはうあななかんだ。と同時どうじに、あなのそとにあたま前半身ぜんはんしん不思議ふしぎ顫動せんどうおこしはじめた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
声は無いが、強烈な、錬稠れんちゅうせられた、顫動せんどうしている、別様の生活である。
花子 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
下からぴりぴり響いて来る機関の顫動せんどうにも気を取られなくなった。ざぶんざぶんと船腹に砕ける浪の音にもおどろきを感じなくなった。一刻々々船に馴れているのだ。そして彼らはとろッとした。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
おいおい知覚されて来た刺戟によってピリピリと瞼や唇が顫動せんどうする。
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
最後の一句が終らぬうちに、ジナイーダの総身に細かい顫動せんどうおののいた。が、次の瞬間、彼女はカラカラと哄笑たかわらっって
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
旅人の歌は明快で、顫動せんどうが足りないともおもうが、「見し人ぞ亡き」に詠歎が籠っていて感深い歌である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そこには一種のアイロニーが顫動せんどうしていた。縕袍どてらは何かの象徴シンボルであるらしく受け取れた。多少気味の悪くなった津田は、お延に背中を向けたままで、兵児帯へこおびの先をこま結びに結んだ。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
舞台の端に「エジプト筋肉顫動せんどうダンス」と書いた札が出ていた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
その不安定な無名指に異様な顫動せんどうが起って、クリヴォフ夫人は俄然はしゃぎだしたような態度に変ったからだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
即ち憶良のこの歌の如きは、細かい顫動せんどうが足りない、而してたるんでいるところのあるものである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
兄さんの調子にも兄さんの眉間みけんにも自烈じれったそうなものが顫動せんどうしていました。兄さんは突然足下あしもとにある小石を取って二三間波打際なみうちぎわの方にけ出しました。そうしてそれをはるかの海の中へ投げ込みました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)