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顧
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かえ
ふりがな文庫
“
顧
(
かえ
)” の例文
丁度その途端、信一郎の肩を軽く
軟打
(
パット
)
するものがあった。彼は
駭
(
おどろ
)
いて、振り
顧
(
かえ
)
った。そこに微笑する美しき瑠璃子夫人の顔があった。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
「あれ、まだあると思ったに……。」と、ランプに火を
点
(
とも
)
していた母親は振り
顧
(
かえ
)
って言おうとしたが、
業
(
ごう
)
が沸くようで口へ出なかった。
足迹
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
官兵衛は、師のことばへ、耳を向けただけで、
御着
(
ごちゃく
)
の方をふり
顧
(
かえ
)
っていた。彼に
似気
(
にげ
)
なく、何かただならない顔色を現わしている。
黒田如水
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
何という懐かしい、久しぶりに
聴
(
き
)
く女の声であろう。振り
顧
(
かえ
)
って考えると、それは去年の五月から八、九カ月の間も聴かなかった声である。
黒髪
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
伝法院へ
這入
(
はい
)
り、庭を抜けて田圃を通り、前述の新門辰五郎のいる西門を、新門の身内のものに断わって通るまでに、後を振り
顧
(
かえ
)
って見ると
幕末維新懐古談:14 猛火の中の私たち
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
▼ もっと見る
詞
(
ことば
)
がよく通じないので諸君は
顧
(
かえ
)
りみずして去ったと言って、あとでまだ不安に思っているようでした。
青蛙堂鬼談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
また武蔵野の
味
(
あじ
)
を知るにはその野から富士山、秩父山脈
国府台
(
こうのだい
)
等を眺めた考えのみでなく、またその中央に
包
(
つつ
)
まれている首府東京をふり
顧
(
かえ
)
った考えで眺めねばならぬ。
武蔵野
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
誰でもそうであろうか余り度度出会すときは、意志のない振り
顧
(
かえ
)
りをやるものである。彼女はそのときも例によってかれの顔を凝視しながら忙しげに往来へ出て行った。
幻影の都市
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
顧
(
かえ
)
り見ると、安心して
浮標
(
うき
)
を見詰めている。おおかた
日露戦争
(
にちろせんそう
)
が済むまで見詰める気だろう。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
我この塔に銘じて得させん、十兵衛も見よ源太も見よと
宣
(
のたま
)
いつつ、江都の住人十兵衛これを造り川越源太郎これを成す、年月日とぞ筆太に
記
(
しる
)
しおわられ、満面に笑みを
湛
(
たた
)
えて振り
顧
(
かえ
)
りたまえば
五重塔
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
御者はきと振り
顧
(
かえ
)
りて
義血侠血
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
露八はつい
後方
(
うしろ
)
にばかり気を
奪
(
と
)
られているのだった。そのときも、
振
(
ふ
)
り
顧
(
かえ
)
っていた。そして思わず、あっ……と
佇立
(
たたず
)
んでしまった。
松のや露八
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「お連れさんがそこへ来ていらっしゃいやすよ。」と言ってその顎を
杓
(
しゃく
)
った。その時にお増が後を振り
顧
(
かえ
)
った。磯野も振り顧った。
足迹
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
「大分いろ/\な御意見が出たのですがね。
茲
(
ここ
)
にいらっしゃる
渥美
(
あつみ
)
君、確かそう
仰
(
おっ
)
しゃいましたね。」三宅は、
一寸
(
ちょっと
)
信一郎の方を振り
顧
(
かえ
)
った。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
すると女は、すぐこちらを振り
顧
(
かえ
)
りながら立って来て、「そんなもん見てはいけまへん」と、むっとしたように私の手からそれらの写真を奪いとった。
黒髪
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
そうして黒い眼を動かして、
後
(
うしろ
)
の
硝子壜
(
ガラスびん
)
に
挿
(
さ
)
してある水仙を
顧
(
かえ
)
りみながら、英吉利は曇っていて、寒くていけないと云った。花でもこの通り
奇麗
(
きれい
)
でないと教えたつもりなのだろう。
永日小品
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
のみならずその
微
(
かす
)
かな身動きをすぐ気どったらしく、馬のそばから振り
顧
(
かえ
)
った跛行の若い侍は、伊織の顔を、ぐいと睨みつけて行った。
宮本武蔵:06 空の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
目が始終前の方へ
嚮
(
む
)
いていたが、そのころ時々幼い折の惨めな自分の姿や、
陰鬱
(
いんうつ
)
な周囲の空気を振り
顧
(
かえ
)
るようなことがあった。
黴
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
しばらくして後の方を振り
顧
(
かえ
)
って見ると、お宮は本当に
後戻
(
あともど
)
りをして、もう向うの方に帰ってゆく様子である。
うつり香
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
信一郎が、
暇
(
いとま
)
を告げたときには何とも引き止めなかった夫人が、玄関のところで、急に後から呼び止めたので、信一郎は一寸意外に思いながら、振り
顧
(
かえ
)
った。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
立籠って見て始めてわが計画の非なる事を悟った。夏は暑くておりにくく、冬は寒くておりにくい。案内者は朗読的にここまで述べて余を
顧
(
かえ
)
りみた。
真丸
(
まんまる
)
な顔の底に笑の影が見える。
カーライル博物館
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
振
(
ふ
)
り
顧
(
かえ
)
ってみて、何か、
薫
(
かお
)
り
木
(
ぎ
)
のような
香
(
にお
)
わしさが、その老梅のものではなく、自分のうしろに立っている
巫女
(
みこ
)
の
直美
(
なおみ
)
であることを知った。
牢獄の花嫁
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
十六、七時分から、妾にやられたり、商売をさせられたりして来た、友達のこの十五、六年間の暗い生活が、振り
顧
(
かえ
)
られた。
爛
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
彼は、立ち止って振り
顧
(
かえ
)
った。見ると、弥助が、息を切らしながら、追いかけて来たのであった。彼は弥助の顔を見たときに、
烈
(
はげ
)
しい
憎悪
(
ぞうお
)
が、胸の裡に
湧
(
わ
)
いた。
入れ札
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
振
(
ふ
)
り
顧
(
かえ
)
ってみると、母親にこそ近ごろたびたび会っているが、本人の顔を見たのは、もう、去年の七月の初め彼女のところから山の方に立っていった、あの時見たきり七
霜凍る宵
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
月が改って、役所の動揺もこれで一段落だと
沙汰
(
さた
)
せられた時、宗助は生き残った自分の運命を
顧
(
かえ
)
りみて、当然のようにも思った。また偶然のようにも思った。立ちながら、御米を見下して
門
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
一難をのりこえては、一難をふり
顧
(
かえ
)
るときの生命の大きな呼吸。あの愉快極まる人生の快味を、鹿之介は、みずから名づけて
新書太閤記:05 第五分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
母親は畳んでいた重い
四布
(
よの
)
蒲
団
(
とん
)
をそこへ積みあげると、こッちを振り
顧
(
かえ
)
って、以前より一層肉のついたお庄の顔を眺めた。
足迹
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
ふと振り
顧
(
かえ
)
ると、今まで見えなかった赤城が、山と山の間に、ほのかに浮び出ていた。
入れ札
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
私に語る言葉の端々が妙に
粗雑
(
ぞんざい
)
になってくるに反して、その死んだ人間のことをいう時にはひどく思いやりのある調子になりながら、火鉢の傍に坐っている若奴の顔を
振
(
ふ
)
り
顧
(
かえ
)
って
霜凍る宵
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
と、睨む真似をして、早足に五、六歩離れると、またふり
顧
(
かえ
)
って、ついと屋上に時計塔のある柳田商会の小売部へはいった。
かんかん虫は唄う
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
お作も振り
顧
(
かえ
)
って、正面から男の立ち姿を二、三度熟視した。お作は小柄の女で、歩く様子などは、坐っているよりもいくらかいいように思われた。
新世帯
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
私は、母親はどんな心持でいるのかと、そっちを振り
顧
(
かえ
)
ってみると、母親は次の間の火鉢の傍で人の好さそうな顔をして、微笑しながら娘のすることを黙って遠くから見ているばかりである。
狂乱
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
トム公は
振
(
ふ
)
り
顧
(
かえ
)
って、ぎょっとしたように外の闇を見つめた。からたちのいばらを
透
(
す
)
かして華やかな
友禅
(
ゆうぜん
)
ちりめんと
緋鹿
(
ひが
)
の
子
(
こ
)
の
帯揚
(
おびあげ
)
が見えた。
かんかん虫は唄う
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
どうかすると振り
顧
(
かえ
)
って見たりなどしたことが、三人連れ立って出歩いている時の、お増の心に寂しく浮びなどした。
爛
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
振り
顧
(
かえ
)
って指を折ってみると、もうあの時から足かけ五年になる。
黒髪
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
お甲は、気がついて、薄ぐらい土間の片隅を振り
顧
(
かえ
)
った。そこの
床几
(
しょうぎ
)
には
菰
(
こも
)
をかぶった在郷の若者が、さっきから
鼾
(
いびき
)
をかいてよく眠っていた。
宮本武蔵:07 二天の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
静子の後向きになって、人形に着物を着せたり脱がしたりしている姿が、しんとした部屋の
襖
(
ふすま
)
の蔭から見られた。その目が、時々こっちを振り
顧
(
かえ
)
った。
爛
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
そっちを振り
顧
(
かえ
)
って
霜凍る宵
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
庭さきから、ふと、陽あたりのよい小書院の縁をふり
顧
(
かえ
)
って、
丹女
(
たんじょ
)
はあわてて、そこにいる老母のそばへ、起しに行った。
日本名婦伝:小野寺十内の妻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
これまで長いあいだいやいや執着していた下宿生活の
荒
(
さび
)
れたさまが、一層明らかに振り
顧
(
かえ
)
られた。
黴
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
橋の途中からも、向うへ渡ってからも、お通のすがたを、何度も不遠慮に
振
(
ふ
)
り
顧
(
かえ
)
って、すたすたと
山間
(
やまあい
)
に隠れて行った。
宮本武蔵:08 円明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
お銀は長いあいだ
異
(
ちが
)
った水に
馴
(
な
)
らされて来た自分の姿を振り
顧
(
かえ
)
られるようであった。いつも女らしく着飾ったこともなしに、笑ったり泣いたりしているうち、もう二人の子の母になった。
黴
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
その側に添ってゆく
夫人
(
マダム
)
のお槙は、今観覧席で足をつかまれた時に気づいたとみえて、時折トムの方をふり
顧
(
かえ
)
りながら
かんかん虫は唄う
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
腕車
(
くるま
)
を降りると、お作はちょいと嫂を振り
顧
(
かえ
)
って
躊躇
(
ちゅうちょ
)
した。
新世帯
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
人馬三千の列が、
下加茂
(
しもかも
)
の河原まで来て
立
(
た
)
ち
淀
(
よど
)
んだとき、人々は期せずして、うしろを振り向いた。光秀も振り
顧
(
かえ
)
った。
新書太閤記:07 第七分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
今更のように、彼等は、平治の乱や保元の頃の
憶
(
おも
)
い
出
(
で
)
を、新たに語りだして、二十年の歳月をふり
顧
(
かえ
)
り、
遽
(
にわか
)
に、世の中の
変貌
(
へんぼう
)
に目をみはり出した。
源頼朝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
自分が叱られたのかと思ってふり
顧
(
かえ
)
ったが、見ると玄関の前に、今門からはいって来たらしい細っこい老婆が、杖をたてて、きかない顔を、じっと
宮本武蔵:07 二天の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
脇玄関をあがり、そこの役部屋を、そっと覗くと、まだ起きて、何かの
吟味書
(
ぎんみがき
)
を調べていた小林勘蔵がふり
顧
(
かえ
)
った。
大岡越前
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
道が、山陰に曲がる時、玉枝は、もういちど含月荘の方をふり
顧
(
かえ
)
って見たが、大村父子の姿はもう見えなかった。
牢獄の花嫁
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
“顧”の解説
顧(こ)は、漢姓のひとつ。『百家姓』の93番目。
(出典:Wikipedia)
顧
常用漢字
中学
部首:⾴
21画
“顧”を含む語句
顧盻
顧客
顧眄
回顧
顧慮
振顧
相顧
後顧
一顧
眷顧
右顧左眄
左顧右眄
四顧
愛顧
顧視
贔顧
見顧
顧愷之
右顧
反顧
...