音信いんしん)” の例文
だが、技師も今は眠っているはずだし、無電でもあるまい。それでは何の音であろう。幽界からの音信いんしんでも、何かが触知するのか。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
返事を出し損なって、その中/\と思いながら、つい/\横着おうちゃくを極めていたら、今日母から少々不機嫌の音信いんしんに接した。けいと妹の件の催促だ。
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
きよは天保元年うまれで、この年四十三歳になっていた。当時善く保を遇したので、保は後年に至るまで音信いんしんを断たなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
下宿屋げしゆくや下婢かひかれあざけりてそのすところなきをむるや「かんがへることす」とひて田舍娘いなかむすめおどろかし、故郷こきやうよりの音信いんしんはゝいもととの愛情あいじやうしめして
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
お袋は田舎へ嫁入つた姉の処に引取つて貰ひまするし、女房にようぼは子をつけて実家さとへ戻したまま音信いんしん不通、女の子ではあり惜しいとも何とも思ひはしませぬけれど
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
内の都合で、生れると直ぐ音信いんしん不通の約束で他へ養女に遣わしたのが、年を経て風の便たよりに聞くと、それも一家いっけ流転して、同じく、左褄ひだりづまを取る身になったという。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すなはち従ひ来れる馬士まごを養ひて家人となし、田野を求めて家屋倉廩そうりんを建て、故郷京師けいし音信いんしんを開きて万代のはかりごとをなすかたわら、一地を相して雷山背振の巨木を集め
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼の襲撃が斯くも見事に効を奏したのは、桔梗の方の手引きに依ることは勿論であって、夫人と彼とは楓母子おやこを文の使いとして、例の地下道から絶えず音信いんしんを交していた。
何時いつまでもこんな姿なりをしていたくない……江戸へ知れては外聞が悪いからねえ……江戸へ行くったって親類は絶えて音信いんしんがないし、真実ほんとうの兄弟もないからなんだか心細くって
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それにしても余り音信いんしんがないので、土佐の方へ往く人に頼んで夫の消息を探って貰った。
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ふたつに破いておのおの別々に携帯せしめて敵地を通過させる戦陣音信いんしんの一法であった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なほ/\愚僧実家の儀に付きては、往年三縁山さんえんざん学寮出奔このかた、何十年音信いんしん不通に相なり候間、これまた別簡一封いっぷう認め置申候也。以上。南無阿弥陀仏なむあみだぶつ南無阿弥陀仏。慶応 年 月 日。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
致すべしと兩人は一間に入て内談ないだんするに小兵衞は三吉にむかひ貴樣はよくつもりても見られよ一人二三百兩分取わけとりなし此の上は各自家業かげふに有附べし因ては以後音信いんしん不通と云事を仁左衞門始三人かたく言葉を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ふのが情婦いろで、「一所いつしよにキヤツとつて、跣足はだし露地ろぢくらがりを飛出とびだしました。それつきり音信いんしんわかりませんから。」あわててかへつた。——知合しりあひたれとかする。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
爺が苔を掃つて香華かうげを供へるを待つて、わたくしは墓を拝した。そして爺に名刺を託して還つた。しかし新光明寺の住職は其後未だわたくしに音信いんしんを通じてくれない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
家も稼業もそつち除けに箸一本もたぬやうに成つたは一昨々年さきをとゝし、お袋は田舍へ嫁入つた姉の處に引取つて貰ひまするし、女房は子をつけて實家さとへ戻したまゝ音信いんしん不通
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
老爺が一人息子の碌でなし、到頭村内むらうちにもいられず今は音信いんしん不通になっている勘太でげす。
祝し合さて久藏言出けるにさて貴殿きでんには備前岡山なる城下によき奉公口ほうこうぐち有て主取なし給ふ由承まはりたるのみにて其後はえて音信いんしんも聞ず其中に我等は御當地へ引越ひきこしたれば猶以て御無沙汰ごぶさた打過うちすぎしに而て此の度如何なる故有て岡山より江戸には下り給ひしといふを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
不思議の縁で昨年来よりして手前店請たなうけになって駒形へ店を出させましたかどもございましたが、久しく音信いんしんもございません、銀座へ越します時もとんと無沙汰で越しました、しかる処
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
然るに定右衛門の長男亀蔵は若い時江戸へ出て、音信いんしん不通になったので、二男定助一人をたよりにしている。その亀蔵が今年正月二十一日に、襤褸ぼろを身にまとって深野屋へ尋ねて来た。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ごろには、それとなくかぜのたよりに、故郷こきやう音信いんしんいて自殺じさつしたあによめのおはるなりゆきも、みな心得違こゝろえちがひからおこつたこといてつてたので、自分じぶん落目おちめなら自棄やけにもらうが
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あれは親父の心得違いで女郎じょうろを呼ばったで、違った中だもんだから、いじめられるのが可愛そうでならなえから、跡目相続の惣領の正太郎だアけれど、わしほうへ引取り、音信いんしん不通になって
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ちょうど只今お話が出ましたから隠さずにお話し申します、何卒どうぞ叔父さんからおひまを頂いて巡礼にお出しなすって下さい、私は江戸に兄が一人有りまして、今では音信いんしん不通、縁が切れては居りますが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)