闖入ちんにゅう)” の例文
教師いよいよ仏頂面をして曰、「それはお断り申します。先達もここの寄宿舎へは兵卒が五六人闖入ちんにゅうし、強姦事件を惹き起した後ですから」
雑信一束 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
物騒なの富家大家は、家の内に上り下りを多くしたものであるが、それは勝手知らぬ者の潜入闖入ちんにゅうを不利ならしむる設けであった。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
事件のあったためか、一般の外客は禁足してあり、ただ数人の係員が、私達の闖入ちんにゅうに対して、好奇の眼をみはっていたに過ぎなかった。
デパートの絞刑吏 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
彼等は格太郎の顔を見ると、きまり悪相わるそうにそんなことを叫んで、向うへ逃げて行った。しまいには正一までが彼の部屋へ闖入ちんにゅうした。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ところが、やがて其の厳しい門を押し破って、和田わだ合戦の板額はんがくのように闖入ちんにゅうした勇者があらわれた。その闖入者は松居松葉まついしょうよう君であった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
新しい自分の生涯に過去が闖入ちんにゅうしてくる口は、わずか開いている一つのとびらがあるきりだった。がその扉も今や閉ざされてしまった。
こちらが闖入ちんにゅうして来たようにもなり、お雪ちゃんとしても、改まっての紹介のとっつき場に、ちょっと迷うのも無理はないと思いました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
七匹いる猫のうち、勇敢で忠実な数匹が、怪しい闖入ちんにゅう者に向かって、背の毛を逆立ちにし、歯をむきだして、唸りながら、対峙たいじしていた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
第一には内地からの安ものが無遠慮にこの島に闖入ちんにゅうしてきたからです。外来ものは新しさがあって、とかく美しく思えるのです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
天外の楽園にまどかな昼寝の夢を破られた彼等は、不意に闖入ちんにゅうして来た人間の声や姿に、どれ程驚かされたことであったろう。
大井川奥山の話 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
その際警官隊の行動は狼藉を極め、争って屋内に闖入ちんにゅうし、私や妻の室まで土足で踏み荒し、言語道断の暴れようをして行った。
小山嬢はひたいに青筋をたてて憤慨ふんがい面持おももちで突然闖入ちんにゅうしたる背の高い美女をにらみつけている。美貌の青年は、にやりと笑っている。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ゆるしも待たず、あるじ柴進さいしんの室へ闖入ちんにゅうして来た彼は、柴進の身に降って湧いた急な旅行がどんな心配事であるかなどは一こうに無頓着で
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう考えたからと言って自慢になるものではないが、しかしたなら彼はうにあの郵便局へ闖入ちんにゅうしていたのかも知れない。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
その私室へ闖入ちんにゅうすることは出来ないにしても、少なくとも彼が甲板にある限りは、私もかならず甲板にとどまっていることにしようと思った。
ある家では、乱暴にも女中部屋の窓を打ち破って闖入ちんにゅうした者があった。そこの家では、困り果てたので大きな犬を他家から貰って来て飼った。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
我々の闖入ちんにゅうしてきたのに神経をとがらせているこの国の人たちにとっては、決して嬉しい感情のものではなかったに違いない。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
夫を奪おうとした憎むべきリメイに断乎としてヘルリスを挑むべく、海盤車ひとでに襲いかかる大蛸おおだこの様な猛烈さで、彼女はア・バイの中に闖入ちんにゅうした。
南島譚:02 夫婦 (新字新仮名) / 中島敦(著)
教室全体がしんとしているのに、ひそかにぶつぶついう声がみなぎっているのだ。ところが突然その静粛を破って、黒人がひとり闖入ちんにゅうしてきた。
それは、はじらいながらも、彼の闖入ちんにゅうを許している微笑だった。彼の闖入というよりも、彼自身を許している微笑だった。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
天床ふすまにぴんと反響する叫び声、同時に座敷の三方から身ごしらえ厳重な捕方役人がばらばらと闖入ちんにゅうして来た。
「霊場を荒す狼藉者ろうぜきもの闖入ちんにゅうじゃッ。末院まついんの御坊達お山警備の同心衆どうしんしゅう! お出合い召されいッ、お出合い召されいッ」
同時に公が忍び込んだ地下道の方からも、五六人の小姓共が公の跡を追いながら、ひとかたまりになって闖入ちんにゅうした。
何より御詫びしておきたいのは、僕は貴女の御許しをたずに、心像奥深くを探って闖入ちんにゅうしていったのですから……
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
初めからこれは闖入ちんにゅう者であると知っていたならば今少し抵抗のしかたもあったのであろうが、こうなれば夢であるような気がするばかりの姫君であった。
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
けれども、にわかに荒くれた、彼等の仲間ではこんなに無慈悲で、不作法なものはなかった人間どもが、昔ながらの「仕合わせの領内」へ闖入ちんにゅうして来た。
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
次郎はむろんお祖母さんの闖入ちんにゅうによって、ひどく気分をみだされた。しかし彼はもう、彼がこれまで彼女からうけていたような強い圧迫を感じなかった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
彼理ペリー江戸湾に闖入ちんにゅうするに際し、蒼皇そうこう措置を失したる、またべならずや。外交の紛雑、幕閣に責なしとせんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
何気なにげなくじたる目を見開けば、こはそも如何いかに警部巡査ら十数名手に手に警察の提燈ちょうちん振り照らしつつ、われらが城壁とたのめる室内に闖入ちんにゅうしたるなりけり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
クリストフがやって来るときには、いつも二人の間にいて客間を去りたがらなかった。あるいは二人がいっしょにいる室へ突然闖入ちんにゅうするように振る舞った。
しばらくは、次の動作に移る考えも浮ばず、ぼんやり湯気の中に闖入ちんにゅうして来た八五郎を眺めて居りましたが、次の瞬間、何を考えたか、立上って柱の上の手燭てしょく
三蔵は鉢巻、襷がけ、草鞋ばきで抜刀し、入口から闖入ちんにゅうする者に備えている。雨戸を叩く音が激烈になる。
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
その異様な声は、争ひながら古島さんが夢中で立てた悲鳴だつたらしいのです。のこる三人は思はず棒ブラシを捨てて、その不意の闖入ちんにゅう者のそばへ走せ寄りました。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
三斎屋敷闖入ちんにゅうを決心、がに股のちび助、吉公に打ちあけて、いさめるのを振り切って、忍び込んだのだったが、その晩、あの雪之丞に見咎みとがめられ、それがきっかけで
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
暫くしてから、朝井刑事が猛烈に手を振ったので部下の警官は応接室へ闖入ちんにゅうして二人を引き離した。
呪われの家 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
成経 野武士らはわしの懇願こんがん下等かとう怒罵どばをもって拒絶した。そして扉を破って闖入ちんにゅうし、武者草鞋むしゃわらじのままでわしのやかた蹂躪じゅうりんした。わしはすぐに飛び出て馬車に乗った。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
それをいやらしいと思い、ひどいと思い、たかが窓を開けのぞいたぐらいのことで私に闖入ちんにゅうされたと非難するのは、すべて相手の事情であり、私の知ったことではない。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
そこで二万銭の賞金を懸けて二人の自衛団が危険を冒してやっとこさと垣根を越えて、内外相応じて一斉に闖入ちんにゅうし、阿Qをつまみ出しておみやの外の機関銃の左側に引据えた。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
そのいずれか、とフト胸がせまって、涙ぐんだ目を、たちまち血の電光のごとく射たのは、林間の自動車に闖入ちんにゅうした、五体個々にして、しかもうねつながった赤色の夜叉やしゃである。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この状態において民衆の暴動の起こるのは当然である。彼らは徒党をくんで富家に闖入ちんにゅうし、手当たり次第に飲み食った。あるいは銭米を強請ごうせいしてそれを徒党の間に分配した。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
これは友人が警告したにもかかわらず、江戸へ向く途中の薩摩の大名の行列に闖入ちんにゅうして殺された、一人の高慢きわまる英国人の、かたきをとるためにやったことなのである。
「どこの何者かわからん奴が垣を越えて邸内に闖入ちんにゅうするのを、そう容易たやすく許されると思うか」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
敲音ラップもって一字ずつ書き綴るのはわずらわしきに過ぎ、又入神状態にゅうしんじょうたいおいて口でしゃべるのは、その全部を保存し難く、又潜在意識の闖入ちんにゅうを、充分に防止し得るとは保証し難い所がある。
すでにそこにはお艶の姿はなく、この狂気めいた武士の闖入ちんにゅうに、家の内外に人の立ちさわぐのが、聞こえるばかり……ポカンとした源十郎が、血走った眼でそこらを見まわす!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
岡田の空想の領分に折々この女が闖入ちんにゅうして来て、次第に我物顔に立ち振舞うようになる。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
ラサ府にうろついて居るところのごろつき壮士坊主というような無頼漢ならずものも沢山に混って居て、セラの壮士坊主と共にパルポ商人の店々に闖入ちんにゅうし夜の明けるまで乱暴狼藉ろうぜきを働いて
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
半裸体はんらたいの女が幾人となくごろごろ寐転ねころがっている部屋へ、無断で闖入ちんにゅうしても、風紀を紊乱びんらんすることの出来るような体力は既に持合もちあわしていないものと、見做みなされていたと言ったなら
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「うん。おまえは二十七日の晩ファゼーロと連れだって村の園遊会へ闖入ちんにゅうしたなあ。」
ポラーノの広場 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
紅葉はこれに反して、腹の中には鉄条網を張って余人の闖入ちんにゅうを決して許さなかったが、表面うわばは城門を開放して靴でも草鞋わらじでも出入しゅつにゅう通り抜け勝手たるべしというような顔をしていた。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
闖入ちんにゅうして来た四人の者は小屋に向ってまっすぐに突進し、走りながら喚き声をあげた。すると樹立の中にいる連中もわあっと喚き返して彼等を声援した。こちらからは数発撃った。