やはらか)” の例文
ふくろ(がく)はからだ一尺いつしやくもあり、暗褐色あんかつしよく羽毛うもうあしまでかぶつてゐます。はね非常ひじようやはらかですからぶときにおとがしません。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
あひだかれたゞの一でもやはらかなめしこゝろよくくだしたことがない、勞働者らうどうしやおほむさぼらねばならぬ強健きやうけんなる到底たうていやはらかものところではない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
吾が近眼にはよくも見えねど、何やらん白繻子しろじゆすやはらかき白毛のふちとりたる服装して、牙柄がへいの扇を持ち、頭のうごく毎にきら/\光るは白光プラチナの飾櫛にや。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
低階の調にまじやはらかなる天使の聲は、男の胸よりも出でず、女の胸よりも出でず、こは天上より來れるなり。こは天使の涙の解けて旋律に入りたるなり。
風の温くやはらかきが袂軽き衣を吹き皺めて、人々の魂魄たましひを快き睡りの郷に誘はんとする時にだも、此花を見れば我が心は天にもつかず地にもつかぬ空に漂ひて
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
けやきの若葉をそよがすやはらかい風、輝く空気の波、ほしいまゝな小鳥の啼声……しかし彼は、それらのものにふるへあがり、めまひを感じ、身うちをうづかせられる苦しさよりも
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
ちながら、すつとしろもすそ真直まつすぐ立靡たちなびいて、なかばでふくらみをつて、すぢくぼむやうに、二条ふたすぢわかれようとして、やはらかにまたつて、さつるのが、かたえ、頸脚えりあしえた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
不意ふいをうたれてにげんとすればやはらかなる雪深くてはしりがたく、十人にして一人助るはまれ也。
これが、此の廢殘はいざんさかひにのさばつてもつとも人の目を刺戟しげきする物象ぶつしやうだ………何うしたのか、此の樹のこずえあかいと一筋ひとすじからむで、スーツと大地だいちに落ちかゝツて、フラ/\やはらかい風にゆらいでゐた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
深きところには、やはらかなる土に掘りこみたる道の行き違ひたるあり。その枝の多き、その様の相似あひにたる、おもなる筋を知りたる人も踏み迷ふべきほどなり。われは穉心おさなごころに何ともおもはず。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
温くやはらか冬眠とうみんの歌
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
夫人は友の手を握りて謝すと見えしが、そのやはらかき兩臂は俄に我うなじを卷きて、我唇の上には燃ゆる如き接吻を覺えき。
それといふのも、若葉わかば外部がいぶ丈夫じようぶかはもなく、しつやはらかよわいので、つよ日光につこうにあたるのをきらひます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
かの水面すゐめんつもりたる雪したよりとけこほりたる雪の力も水にちかきはよわくなり、ながれは雪にふさがれてせまくなりたるゆゑ水勢すゐせいます/\はげしく、陽気やうきて雪のやはらかなる下をくゞり、つゝみのきるゝがごとく
花卉くわきかをり、幽かなる樂聲、暗き燈火ともしびやはらかなる長椅は我を夢の世界にいざなひ去らんとす。に夢の世界ならでは、この人に邂逅すべくもあらぬ心地ぞする。
春陽の頃はつもりし雪もひるの内はやはらかなるゆゑ、夜な/\狐の徘徊はいくわいする所へむぎなど舂杵つくきねを雪中へさし入て二ツも三ツもきねだけのあなを作りおけば、夜に入りて此あなこほりて岩の穴のやうになるなり。