赤味あかみ)” の例文
それむかぎしいたとおもふと、四邊あたりまた濛々もう/\そらいろすこ赤味あかみびて、ことくろずんだ水面すゐめんに、五六にん氣勢けはひがする、さゝやくのがきこえた。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
長吉ちやうきちの時長命寺辺ちやうめいじへんつゝみの上の木立こだちから、他分たぶん旧暦きうれき七月の満月であらう、赤味あかみを帯びた大きな月の昇りかけてるのを認めた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
おもざし父ににて、赤味あかみがちなおまさは、かいがいしきたすきすがたにでてきて、いろりに火をうつす。てつびんを自在じざいにかける。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
やがて注射器の硝子筒ガラスとうの薬液は徐々に減ってゆきました。その代りに、兄の顔色が次第に赤味あかみびてきました。ああ、やっぱり、お医者さまの力です。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
卯平うへいれいごと豆腐とうふでコツプざけかたむけて晩餐ばんさんほつしなかつた。かれしわふかきざんだほゝにほんのりと赤味あかみびてた。かれ火鉢ひばちまへ胡坐あぐらいたまゝごんもいはない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あのおおきな身体からだひと非常ひじょうせてちいさくなってかおにかすかな赤味あかみがあるくらいでした。
夏目先生と滝田さん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
木曾きそ檜木ひのき材木ざいもくとして立派りつぱなばかりでなく、赤味あかみのあるあつかは屋根板やねいたかはりにもなります。まあ、あの一トかゝへも二擁ふたかゝへもあるやうな檜木ひのきそばへ、お前達まへたちれてつてせたい。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
赤くてまた黒い薔薇ばらの花、いやにたかぶつて物隱しする薔薇ばらの花、赤くてまた黒い薔薇ばらの花、おまへのたかぶりも、赤味あかみも、道徳がこしらへる妥協の爲にしらつちやけてしまつた、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
さあ大変たいへんと思ってタネリがいそいでをはなしましたがもうそのときはいけませんでした。そらがすっかり赤味あかみびたなまりいろにかわってい海の水はまるでかがみのように気味きみわるくしずまりました。
サガレンと八月 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
コノ数年来、予ハ白眼しろめガシバ/\充血スルコトガアリ、普通ノ時デモ赤味あかみガ強クナッテイル。瞳孔ノ周囲ヲ注意シテ見ルト、角膜ノ下ニ赤イ細イ血管ガ異様ニ幾筋モ走ッテイルノガ認メラレル。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
月よりはずっと大きく、もっと赤味あかみのある光りをはなっているんだが、附近の空間は地上で見るような青空でなく、暗黒の空間であることにかわりはない。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
くらおくから、黄金色こがねいろ赤味あかみしたくもが、むく/\と湧出わきだす、太陽たいやう其処そこまでのぼつた——みぎはあしれたにも、さすがにうすひかりがかゝつて、つのぐむ芽生めばえもやゝけぶりかけた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)