貴賤きせん)” の例文
そのうわさを聞き伝へ、近隣諸国の人々貧富貴賤きせんかちなく南蛮寺に群集し、つは説教を聴聞ちょうもんし、且つは投薬の恵みにあづかる。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
貴賤きせん上下の別なく、その国を自分の身の上に引き受け、智者も愚者も目くらも目あきも、おのおのその国人たるの分を尽くさざるべからず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかるに南方なんぱう文帝ぶんてい元嘉げんか年中ねんちう京洛きやうらく婦女子ふぢよしみなこと/″\愁眉しうび泣粧きふしやう墮馬髻だばきつ折要歩せつえうほ齲齒笑うしせうをなし、貴賤きせん尊卑そんぴたがひおよばざるをはぢとせり。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
始めから、貴賤きせんの別も、階級の別ちのあろう筈がない。こうした矛盾から生ずる対立と反目を除去することが急務だ。
日本的童話の提唱 (新字新仮名) / 小川未明(著)
歌は平等無差別なり、歌の上に老少も貴賤きせん無之これなく候。歌よまんとする少年あらば老人などにかまわず勝手に歌を詠むが善かるべくと御伝言可被下くださるべく候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
貴賤きせん貧富ひんぷの外にあるむなしさ、渋さと甘さと濃さと淡さとを一つの茶碗に盛り入れて、あわしるも一緒に溶け合ったような高い茶の香気をかいで見た時は
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこで花嫁が花聟の家に持って行く財産は貧富貴賤きせんによって一定しないが、富貴な者は自分の荘田しょうでんを送り貧賤なる者はその度に従って多少の衣服等を持って行く。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ねがわくは、貴賤きせん道俗の助成によって、高雄山たかおさんの霊地に、一院を建立こんりゅうし二世安楽の勤行ごんぎょう成就じょうじゅさせ給え
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
思ふ事貴賤きせん上下の差別さべつはなきものにて俚諺ことわざにも燒野やけの雉子きゞすよるつるといひて鳥類てうるゐさへ親子の恩愛おんあいにはかはりなしかたじけなくも將軍家には天一坊はじつの御愛息あいそく思召おぼしめさばこそかく御心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
善悪貴賤きせん、さまざまの音響のなかに私はひっそり閑と生きている一粒のアミーバアなり。母を田舎へ戻して二日。もう、何事もここまでで程よい生き方なりと心にきめる。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
ちょうど我々骨董品こっとうひんに何らの心得なき者が、物品そのものの貴賤きせんの程度はさらに分別つかぬが、道具屋どうぐやだまかされて高価を出せば良品が手に入ると思うのと少しも変わらぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
これ、拙者ばかりでなく、貴賤きせん貧富の別を論ぜず、人間一般の希望ならんと考えます。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
と美代子さんはもう納得なっとくが行った。理窟は知っている。職業に貴賤きせんのある筈はない。
心のアンテナ (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
工学者が好まれる事もあり、実業家が望まれる事もあります。これには決して可否を申す事が出来ません。職業に高下こうげ貴賤きせんの別がないと同様に良人にしてわるいという区別もありません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
妾は愛に貴賤きせんの別なきを知る、智愚ちぐ分別ふんべつなきを知る。さればその夫にして他に愛を分ち我を恥かしむる行為あらば、我は男子が姦婦かんぷに対するの処置を以てまた姦夫かんぷに臨まんことを望むものなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
乗客は貴賤きせん公私の別にかかわらず乗組切手の等級に従い取扱候こと、——なるほど、それで殿は、さきほどあれをお断りなされたのだな——第二条、乗組切手は船中会計役へ相渡すこと、第三条
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
それは貴賤きせんの別なく、貧富の差なく、すべての衆生しゅじょう伴侶はんりょである。これに守られずば日々を送ることができぬ。あしたも夕べも品々に囲まれて暮れる。それは私たちの心を柔らげようとの贈物ではないか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
学校の規則もとより門閥もんばつ貴賤きせんを問わずと、表向おもてむきの名にとなうるのみならず事実にこの趣意をつらねき、設立のその日より釐毫りごうすところなくして
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そして今や、政権威令も、おん手にあつめて、こうあることは、その善悪、凡非凡は、ともかく、上下貴賤きせん、人間自然のじょうは、変りのないものとるほかはない。
くばりて所々尋ね廻りしが頃は三月十五日梅若祭うめわかまつりとて貴賤きせん老若のわかちなく向島のにぎはひ大方ならず然るに此日は友次郎腹痛ふくつう故忠八一人向島へゆきて隅田川のつゝみを彼方此方と往來の人に心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
交通の持ち来たす変革は水のように、あらゆる変革の中の最も弱く柔らかなもので、しかも最も根深く強いものと感ぜらるることだ。その力は貴賤きせん貧富を貫く。人間社会の盛衰を左右する。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
貴賤きせん貧富の別あるも、生老病死の無常なるも、みなこの業因業感のしからしむるところと説き、われわれが人間となりてこの世にあるは、おのおの人間となるべき原因を修めたるゆえであり
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
機嫌きげんをとるために負けてさしあげるのは主君をあざむくへつらい武士です。風上かざかみにおけん。しかし、内藤君、君心あれば臣心あり。すべて君臣主従しゅじゅう貴賤きせん上下しょうかの別をわすれるものは乱臣らんしんぞく子ですぞ。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
女史と相別れしのちしょう土倉どくら氏の学資を受くるの資格なきことを自覚し、職業に貴賤きせんなし、ひとしく皆神聖なり、身には襤褸らんるまとうとも心ににしきの美を飾りつつ、しばらく自活の道を立て、やがて霹靂へきれき一声いっせい
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
生まれながら貴賤きせん上下の差別なく、万物の霊たる身と心との働きをもって天地の間にあるよろずの物をり、もって衣食住の用を達し、自由自在
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「手がかりになる者とあらば、貴賤きせんを問う場合ではない、鴻山、まずそちが口をかせてみい」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
要するに、社会の貧富貴賤きせん、幸不幸の万般の人に満足、安心を与うる法は、霊魂不滅論に限ると信じます。なかんずく多苦多患の人には、この説をほかにして安心を営む道なきは明らかであります。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
枕に付せけるが翌日長庵は早々支度をし麹町を立出吉原さしていそぎけり爰に吉原江戸町二丁目の丁字屋ちやうじや半藏と云る遊女屋いうぢよやは其頃での繁昌はんじやうの家にて貴賤きせん客人まろうどひききらされば此丁字屋方へ賣込うりこまんと傳手つて
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その約束に従いて一国の人をして貴賤きせん上下の別なくいずれもその権義を逞しゅうせしめざるべからず、法を正しゅうし罰を厳にして一点の私曲あるべからず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
でも、九条家の施主せしゅで、簡素な法要だけは営まれた。勅使もあり、院の代参も見えた。貴賤きせん、雑多な会衆で、鳥羽はずれのいなかびた草庵への道を、織るような人や牛車であった。
万葉のむかしから、和歌の道には、貴賤きせんのへだてはない。