谷間たにあひ)” の例文
檜木ひのきさはら明檜あすひまき𣜌ねず——それを木曾きそはうでは五木ごぼくといひまして、さういふえたもりはやしがあのふか谷間たにあひしげつてるのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そこンとこ梅林ばいりんうへやまさくら名所めいしよで、そのした桃谷もゝたにといふのがあつて、谷間たにあひ小流こながれには、菖浦あやめ燕子花かきつばた一杯いつぱいく。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
谷間たにあひゆゑ雪のきゆるも里よりはおそくたゞ日のたつをのみうれしくありしに、一日あるひあなの口の日のあたる所にしらみとりたりし時、熊あなよりいで袖をくはへて引しゆゑ
信濃国大川原の深山みやまの中にいほりして住みはべりける谷間たにあひの月をみて〔李花集雑〕
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雪空に澄みつつ白き山ふたつその谷間たにあひの火縄銃の音
文庫版『雀の卵』覚書 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
伊香保は思つたほどの山の上でもなく、むしろ山の中腹の位置にあつて、直ぐにも親しめるやうな北向の谷間たにあひであるのもうれしかつた。
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
渠等かれらあへおにではない、じきたれば人心地ひとごこちになつて、あたかし、谷間たにあひから、いたはつて、おぶつてた。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かくてみち梢々やゝ半にいたるころ、日ざしは七ツにちかし、竹助しばしとてみちのかたはらの石にこしかけ焼飯やきめしをくひゐたるに、谷間たにあひ根笹ねさゝをおしわけてきたる者あり
雪空に澄みつつ白き山ふたつその谷間たにあひの火縄銃の音
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
なんといふふかやまたにとうさんのさきにありましたらう。とうさんは木曽川きそがはえる谷間たにあひについて、はやしなかあるいてくやうなものでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
かくてみち梢々やゝ半にいたるころ、日ざしは七ツにちかし、竹助しばしとてみちのかたはらの石にこしかけ焼飯やきめしをくひゐたるに、谷間たにあひ根笹ねさゝをおしわけてきたる者あり
ほどたつて、裏山うらやま小山こやまひとした谷間たにあひいはあなに、うづたかく、そのもちたくはへてあつた。いたちひとつでない。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其耳があてに成らないサ。君の父上おとつさんは西乃入にしのいりの牧場に居るんだらう。あの烏帽子ゑぼしだけ谷間たにあひに居るんだらう。それ、見給へ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
且水のこほりは地中にりても消易きえやすきものなり、これなし、水は極陰の物なるゆゑ陽にかんやすきゆゑなり。我越後に削氷けづりひを視ておもふに、かの谷間たにあひありといひしは天然てんねんの氷室なり。
かぜは……昼間ひるまあをんだやまかひからおこつて、さはつてえだ岩角いはかど谷間たにあひに、しろくものちぎれてとりとまるやうにえたのはゆきのこつたのか、……とおもふほど横面よこづらけづつてつめたかつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たしかに其は父の声で——皺枯しやがれた中にも威厳のある父の声で、あの深い烏帽子ゑぼしだけ谷間たにあひから、遠くの飯山に居る丑松を呼ぶやうに聞えた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
且水のこほりは地中にりても消易きえやすきものなり、これなし、水は極陰の物なるゆゑ陽にかんやすきゆゑなり。我越後に削氷けづりひを視ておもふに、かの谷間たにあひありといひしは天然てんねんの氷室なり。
木曾きそやまかこまれたふか谷間たにあひのやうなところですから、どうしてもたうげひとつだけはさなければらなかつたのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
参禅して教を聴く積りで、来て見ると、掻集めた木葉このはを背負ひ乍らとぼ/\と谷間たにあひを帰つて来る人がある。散切頭ざんぎりあたまに、ひげ茫々ばう/\。それと見た白隠は切込んで行つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)