行過ゆきす)” の例文
ある時には、途中で行過ゆきすがつた背嚢ルツクサツクを負うた一人の老翁がまた戻つて来て、私を呼止めて見舞の言葉を云つて呉れたりした。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
音を潜めたように、跫音あしおとを立てずに山際についてそのまま行過ゆきすぎるのかと思うと、ひったりと寄って、運転手の肩越しに糸七の横顔へ提灯を突出つきだした。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほんに御門ごもんまへとほことはありとも木綿着物もめんきもの毛繻子けじゆす洋傘かふもりさしたときにはす/\お二かいすだれながら、あゝせきなにをしてことかとおもひやるばかり行過ゆきすぎて仕舞しまひまする
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
渡邊も答礼して行過ゆきすぎるを見済みすまして
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
また出直でなほして、けば行過ゆきす
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その故郷ふるさと行過ゆきすぎつ
哀音 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
ともするとまた常盤木ときはぎ落葉おちばする、なんともれずばら/″\とり、かさかさとおとがしてぱつと檜笠ひのきがさにかゝることもある、あるひ行過ゆきすぎた背後うしろへこぼれるのもある
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ほんに御門の前を通る事はありとも木綿着物に毛繻子けじゆす洋傘かふもりさした時には見す見すお二階のすだれを見ながら、ああお関は何をしてゐる事かと思ひやるばかり行過ゆきすぎてしまひまする
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おっとそれ行過ゆきすぎたり
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
通らずともの事だけれど、なぜかまた、わざとにも、そこを歩行あるいて、行過ゆきすぎてしまってから、まだ死なないでいるって事を、自分でたしかめて見たくてならんのでしたよ。
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
流石さすが信如しんによそでふりりてゆきすぎることもならず、さりとてひとおもはくいよ/\らければ、手近てぢかえだ引寄ひきよせて好惡よしあしかまはず申譯まうしわけばかりにりて、なげつけるやうにすたすたと行過ゆきすぎるを
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
行過ゆきすぎたり
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
には小皿こざらちたり。四五軒しごけん行過ゆきすぎたる威勢ゐせい煮豆屋にまめや振返ふりかへりて、よう!とふ。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
まへさまお一人ひとりのおわづらひはお兩人ふたりのおなやみと婢女共をんなどもわらはれてうれしときしが今更いまさらおもへばことさらにはせしかれたものならず此頃このごろしは錦野にしきの玄關げんくわんさきうつくしくよそほふたくらべてれよりことばけられねど無言むごん行過ゆきすぎるとは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
なん約束やくそくもなく、おもひもけず行逢ゆきあつたのに、トながら行過ゆきすぎるうち、れなり何事なにごとしにはわかれまい。ぶか、めるか、きつくちくにちがひない、と坂上さかがみ不思議ふしぎにもおもつた。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
此はしからず、天津乙女あまつおとめの威厳と、場面の神聖をそこなつて、うやら華魁おいらんの道中じみたし、雨乞あまごいには行過ゆきすぎたもののやうだつた。が、何、降るものときまれば、雨具あまぐの用意をするのは賢い。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
折から人通りが二、三人——中の一人が、彼の前を行過ゆきすぎて、フト見返って、またひょいひょいと尻軽に歩行出あるきだした時、織次は帽子のひさしを下げたが、ひとみきっと、溝の前から、くだんの小北の店を透かした。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
といいずてにまなじりしわを寄せてさっさっと行過ゆきすぎぬ。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
といひずてにまなじりしわを寄せてさつさつと行過ゆきすぎぬ。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)