うね)” の例文
痣のある武士、ムーッと呻くと、ポタリと刀を落としたが、全身を弓のようにうねらせると、ヒョロヒョロヒョロヒョロと前へ出た。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして時には甲板よりも高くうねってゆく長いうねりを息をひそめて見つめていたが、思わず知らず或時大きな声を上げてしまった。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
さらに、もう一息、山道を登ってゆくと、東山殿の泉は、余りに近すぎて足元の木蔭にかくれ、加茂川の白いうねりがずっと眼の下へ寄っている。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いいえ、今つたぢやないか、人の通るみちは廻り/\うねつて居るつて。だから聞くんですが、ほかに何か歩行あるきますか。」
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
カーブにつれて列車がうねり、幸子の振る手が見えなくなってから、朝子は歩き出した。すると、人ごみの中から
一本の花 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
浅虫の濃灰色の海は重くうねり、浪がガラスの破片のように三角の形で固く飛び散り、墨汁を流した程に真黒い雲が海を圧しつぶすように低く垂れこめて、ああ
善蔵を思う (新字新仮名) / 太宰治(著)
紅をしてゐる、日は少し西へ廻つたと見えて、崖の影、峯巒ほうらんの影を、深潭にひたしてゐる、和知川わちがはが西の方からてら/\と河原をうねつて、天竜川へ落ち合ふ。
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
それは、蒼味を帯びた透明な深さであるが、水面にうねりが立つと、たぶんさまざまな屈折が影響するのであろうか、その光明には奇異ふしぎな変化が起ってゆくのだった。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
日高川のみなもとが社の下をうねって流れて、村の谷間たにあいをかくれて行く。小半時こはんときも村の方を見下ろしていたが、村では別に誰も騒ぐものがない。それで、修験者は扉をあけて社の中へ入ってしまいます。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
両手を前にさし伸べて……手探りをするように身体からだをうねうねとうねらして……中心を取りかねているようであったが、そのうちに両手で夜具を押えつけると、スックリと寝床の上に立ち上った。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
道路だうろしゆのやうにうねつてゆく。
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
回教寺院モスク型の伽藍の方向へ向かって、波のうねるように押し出して行き、その回教寺院を破壊するべく、得物々々を揮っているのであった。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
町も場末の、細い道を、たらたらと下りて、ずッと低い処から、また山に向ってこみちの坂をうねって上る。その窪地くぼちに当るので、浅いが谷底になっている。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山の尾根から傳つて歩いてゐると、遠く渥美あつみ半島が見えた。またその反對の北の方には果もなく次から次とうねり合つた山脈が見えて、やがて雲の間にその末を消してゐる。
鳳来寺紀行 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
一度は金色こんじき飛沫しぶきが、へやいっぱいに飛び散ったかと思うと、次の瞬間、それが濃緑の深みに落ち、その中にうねりの影が陽炎かげろうのようにのたくって、そのきらびやかさ美しさといったら
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
うねつてあがつた段々畑の珊瑚樹に
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
うねくねった帯のように、町を横断しているのは、西村堀に相違ない。船が二三隻よっていた。寺々から梵鐘が鳴り出した。
天主閣の音 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
畑中の坂の中途から、巨刹おおでらの峰におわす大観音に詣でる広い道が、松の中をのぼりになる山懐やまふところを高くうねって、枯草葉のこみちが細く分れて、立札の道しるべ。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのおり、海は湧き立ち泡立って、その人たちにあらんかぎりの威嚇いかくあびせた。けあとの高いうねりが、岬の鼻に打衝ぶつかると、そこの稜角で真っ二つにち切られ、ヒュッと喚声をあげる。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
波のように背中をうねらせて追い、蜈蚣の大群は壁から下りて、床の上をさながらさざなみのように、騒ぎ立てながら追いかけた。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此方こなたふもとに薄もみじした中腹をゆるめぐって、の字の形に一つうねった青い水は、町中を流るる川である。町の上には霧がかかった。その霧をいて、青天にそびえたのは昔の城の天守である。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぼんやりともっている行燈あんどんの光で、背を波のようにうねらせながら伊太郎目掛けて飛び掛かって行く巨大な鼬の姿が見えた。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
うぢやの、もの十七八ちょうもござらうぞ、さしわたしにしては沢山たんともござるまいが、人の歩行あるみちは廻り廻りうねつて居るで、半里はんりもござりましよ。」と首を引込め、又揺出ゆりだすやうにして
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
香の煙りが流れて来て、屏風を越した衾の上で、淡くウネウネとうねって見せたが、はかないもののたとえかのように、次第に薄れて消えてしまった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ふもとの川の橋へかかると、鼠色の水が一杯で、ひだをうって大蜿おおうねりにうねっちゃあ、どうどうッて聞えてさ。真黒まっくろすじのようになって、横ぶりにびしゃびしゃと頬辺ほっぺたを打っちゃあ霙が消えるんだ。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
プーッと頬をふくらせた。全身をウネウネとうねらせた。真っ直ぐに体を押っ立てた。長い蝋燭ろうそくが立ったようであった。俄然六匹は食い合いを始めた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ひとうねつてあがるのを、肩で乱して払ひながら
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
間もなくうねる長い紐が、板壁を伝って、床へ下り、薄蒼く月光の射している中を、鎌首を立て尾を揺すり、頼春と浮藻との方へ泳いで行くのが見えた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
頭はおおかた禿げているが諸所ところどころ白髪しらががある。河原に残った枯れすすきと形容したいような白髪である。黄色い色のしなびた顔。蛇のようにうねっている無数の皺。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一匹の奇形な動物が、背をうねらして走り廻っていた。犬のように大きな鼬であったが、口に手箱を銜えていた。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は鳥獣をいつくしみ鰐魚わにをさえもなずけた。彼には鳥獣の啼き声やあるいはその眼の働きやもしくは肢体のうねらし方によってその感情を知ることが出来た。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まんざらそうでもござんすまいと、そう云いたげに今度は梶子は、グラリと躰を右の方へうねらせ、ムーッとするような濃厚な色気をまた腰のつがいに見せた。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その桜並木の遙か彼方むこうの、斜面をなしている丘の上の、諏訪神社の辺りでは、火祭りの松明たいまつの火が、数百も列をなし、うねり、渦巻き、揉みに揉んでいるのが
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
坐っている腰から股のあたりへかけて、ねばっこいうねりが蜒っていて、それだけでも男を恍惚うっとりさせた。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ここ奥まった部屋の中へ、見事なうねりを見せながら、さもゆるやかに紫煙が立ち、末拡がりにひろがった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もし空想を許されるなら、何者か紙帳の中で屠腹とふくし、はらわたを掴み出し、投げ付けたのが紙帳へあたり、それがうねり、それが飛び、瞬時にして描出したような模様であった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ひざのある所と思われる辺へ、うねりをつくりひだをつくり、しずしずと先へすべって行く様子は、白衣を頭からスッポリとかずいた、上﨟じょうろうが歩いて行くのと変わりがなかった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
胴から腰へのうねり具合と来ては、ねばっこくてなだらかでS字形をしていて、爬虫類などの蜒り具合を、ともすると想わせるものがあった、で、どのような真面目な男でも
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
野道はウネウネとうねっていた。飛び飛びに農家が立っていた。それを避けながら歩いて行く。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
櫓に連れてうねる波に揺れて、湖面の月は折り畳まれたり、延び縮みしたり砕けたりした。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
仏国船や独逸ドイツ船が、国々の趣味を現わした、さまざまの船体に浮かんでい、それのマストや甲板から、河上へ投げている電燈の光が、波のうねりに従って、縄のようになわれるのも
腰のあたりのうねりに見せ、さてそれからヤンワリと、民弥に近々と寄って坐った。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その時、山の一所ひとところから、一筋真っ直ぐに白い煙りが空に向かって立ち上った。煙りは忽ち火光を纏い、金竜雲にうねるがように次第次第に弧形を画き、どこまでもどこまでも上って行く。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大岩を畳んで築かれた幅三間の階段が無間むげん地獄の地の底眼掛け、螺旋形らせんけいうねっていたが、四人の者は一歩一歩それを下へ下へ下って行く。行くに従い様々の音が地の底から聞こえて来た。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、ノロノロと身をうねらした。軈て幽に眼を開いた。一つ大きな欠伸をした。
天主閣の音 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
土に喰い付き草をむしりあたかも断末魔の蛇のように体をうねらせノタ打った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ドッとおろして来た御岳嵐おんたけあらし、なびくは雑草、波をうねらし、次第に拡がり、まるで海だ! 泡となって漂うのは、咲き乱れている草の花! 掻き立てられた薬草の香が、プーッと野っ原を吹き迷う。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かぎのような鼻が盛り上っているし、牛のようにも太い頸筋には静脈が紐のようにうねっている、半白ではあったがたっぷりとある髪を、太々しく髷に取り上げている、年の格好は六十前後であったが
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と帳がうねをつくり、がんの灯がそこだけ暗くなった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は体をうねらせた。鎖が肉へ食い込んだ。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)