蒙昧もうまい)” の例文
無知蒙昧もうまいな者ならそれへ、石でもつばでも投げられるかもしれないが、武士もののふの家に生れて、童学からその教養にしつけられて来た者には——
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
梟帥たけるは獣人の部落でも、取り分けドン底の貧乏人で、それだけに無智で蒙昧もうまいであったが、云うことにはちっとも掛け値がなかった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「これこれ斯様かようなる仕儀、無学蒙昧もうまいの後輩を、故実の詮議によって教えつかわそうと致したところ、無法とや言わん、乱暴とや言わん……」
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「さっき早水さんの云った、神社が超理論で存在するという点だけれど、超理論というと蒙昧もうまいという意味になりはしないかね」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
偽善や蒙昧もうまいや専横がのさばっているのは、何も商家や監獄にかぎらない。科学にも文学にも青年の間にも無いとは言えない。
後者が圧迫のために蒙昧もうまいなる山人の状態に退歩して行った趨勢すうせいも、このわずかなる共通の言語から想像し得らるるのである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
で最も論理的思想に富んで居るのは学者の中には多いですが、普通人民はやはりそういう教育を受けないから実に蒙昧もうまいなものでございます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
かの陋習ろうしゅうに縛せられて、いやいやながら結婚を執行するのは人間自然の傾向に反した蛮風であって、個性の発達せざる蒙昧もうまいの時代はいざ知らず
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
熱烈な軽率な反僧侶はんそうりょ主義をいだいていて、そのために、宗教を——ことにカトリック教を——蒙昧もうまい主義とみなし、牧師を明知の生来の敵と考えていた。
伊豆守の才覚が笑い物となり、猪突板倉が名将とうたわれる蒙昧もうまいな時代に、神童四郎の神童たる内容が何を指していたか、これは大いに疑ってよかろう。
安吾史譚:01 天草四郎 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
土が其のまゝ人になつたやうな農夫に、三人まで摺々すれ/\に行き逢つたが、無智と蒙昧もうまいとの諸相に險惡を加へて、ヂツと私を見る濁つた眼が凄いやうである。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
何事ぞ、この未熟、蒙昧もうまい愚癡ぐち、無知のから白癡たわけ、二十五座の狐を見ても、小児たちは笑いませぬに。なあ、——
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かの東方日出でてなお燈を点じ、天下公衆に向かってみずから蒙昧もうまい吹聴ふいちょうをなすものはもとより論ずるに足らず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
同一人類にしても、下等の蒙昧もうまいなるものはその光明なお薄く、知者、学者はこれに数倍せる知光を有す。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
(大正十五年九月八日記。蒙昧もうまいの民がいかに斧を重宝な物とし、これを羨んだかは、一八七六年板ギルの『南太平洋の神誌および歌謡』二七三頁註をみて知るべし。)
彼は決して無智蒙昧もうまいのけだものではなく、時限爆弾を極めて適確有効な箇所に設置した手際から察しても、見かけによらぬ頭脳を持った男であることは明かであった。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
、認識の蒙昧もうまいから錯覚している。芸術の不易性は個人主義で、流行だけが社会主義になるのである。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
いやしくも人生の最大事業をおこなう男女当事者が初対面とは——無智蒙昧もうまいな親に、売られてゆく、あわれな娘ならば知らず、一万円持参で、あの才色絶美、京都では
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
娼婦がまだ発生しなかった蒙昧もうまい時代の男は、腕力で多数の女を脅迫して、その強烈な性欲と性欲の好新欲とを満足させていた。それは現に動物界で見るような状態であった。
私娼の撲滅について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
その方どもの罪業ざいごうは無知蒙昧もうまいの然らしめた所じゃによって、天上皇帝も格別の御宥免ごゆうめんを賜わせらるるに相違あるまい。さればわしもこの上なお、叱りこらそうとは思うて居ぬ。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「ほんとに君は慾張りで身勝手のくせに蒙昧もうまいな男だなあ。だからバカにされるんだよ」
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
九州の方へは菱川だとか何だとか云ふ二三人の書生をつて奇激な演説などさせて、無智蒙昧もうまいな坑夫等を煽動せんどうさせ、自分は東京に居てすべての作戦計画をして居るので御座りまする
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そこには野蛮蒙昧もうまいな民族によく見かける怪奇異様への崇拝がない。所謂グロテスクの不健康な惑溺わくできがない。天真らんまんな、大づかみの美が、日常性の健康さを以て表現されている。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
ところが百姓連中ときたら、じつに単調で、無知蒙昧もうまいで、不潔きわまる暮しをしているし、インテリ連中はどうかというと、これまた、どうもりが合わない。頭が痛くなるんですよ。
積年ノ経験ヨリ得タル一種ノ精神科学的ノ暗示法ヲ口伝くでん心伝シオリ、コレヲ理智、理性ノ発達不充分ナル女子、小児、モシクハ無智、蒙昧もうまいナル男子等ニ応用シテ、ソノ精神作用ニ何等カノ変化
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
じ恐れて、ともすれば逃げ腰をしている土人たちを叱りつけ、また四マイルばかりの道を昨日の場所まで来てみて、さて驚いたことには! なるほど無智ではありながらも、蒙昧もうまいではありながらも
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
買収のきく監視人や蒙昧もうまいな監督、最もうまくいって謙遜けんそんな予審判事を使っているばかりでなく、さらに、ともかく上級および最高の裁判官連をかかえ、それとともに、無数の広範な、廷丁ていてい、書記
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
室内も北方ゴート風の玄武岩で畳み上げた積石造つみいしづくりで、周囲は一抱えもある角石で築き上げられ、それが、暗く粗暴な蒙昧もうまいな、いかにも重々しげなテオドリック朝あたりを髣髴とさせるものであった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「日本人である前に人間であれ」と、無知蒙昧もうまいな政治家は説く。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
結婚生活の習俗だか、蒙昧もうまいだか、ごたごたしたものの大掃除だ。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それはもう実に蒙昧もうまいなる人民でも神と仏の違い、即ち神は怖いもの仏はありがたいものということをちゃんと知って居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それに蒙昧もうまいの野蛮人を帰服させるための道具として数千粒の飾り玉やけばけばしい色の衣服きもの類や無数の玩具やを箱に入れてこの天幕に隠して置いたが
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼はこの西欧派的な開かれたをもって、ロシアの現実の蒙昧もうまい暗愚あんぐと暴圧とを、残るくまなく見きわめ見通し
「はつ恋」解説 (新字新仮名) / 神西清(著)
「ばかなことだ、ばかげたことだ」と兵部が云った、「それは狂気の沙汰だ、そんな蒙昧もうまいな人間がおろうとは思われない、それは船岡の臆測ではないのか」
単簡たんかんなる猿股を発明するのに十年の長日月をついやしたのはいささかな感もあるが、それは今日から古代にさかのぼって身を蒙昧もうまいの世界に置いて断定した結論と云うもので
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
北海道は開けない、当時の人の心では日本内地だか、外国だかわからないような蒙昧もうまいさがある。
「いや、それがしは、あなたの無智蒙昧もうまいをひらいてやるのだ。教えるのだ。坐れ」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たゞ醫者いしやとして、邊鄙へんぴなる、蒙昧もうまいなる片田舍かたゐなかに一しやうびんや、ひるや、芥子粉からしこだのをいぢつてゐるよりほかに、なんこといのでせうか、詐欺さぎ愚鈍ぐどん卑劣漢ひれつかん、と一しよになつて、いやもう!
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
真に蒙昧もうまい愚劣、憫殺びんさつすべきの徒輩であるが、ただ彼等の中にあって一奇とすべきは、巨頭の斎藤茂吉である。彼は医者の有する職業的の残酷さと唯物観とで、自然を意地悪くゆがんで見ている。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
さて裸体はだかのままでは文明の婦人とはいわれない、それは禽獣きんじゅうと雑居していた蒙昧もうまいな太古にかえるものですから、お互にどうしてもその裸体はだかを修飾して文明人の間に交際つきあいの出来るだけの用意が必要です。
女子の独立自営 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
ゆえに蒙昧もうまい未開の上古より第十九世紀の今日に至るまで
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
なにしろ患者はのみしらみのたかった、腫物はれものだらけの、臭くて蒙昧もうまいな貧民ばかりだし、給与は最低だし、おまけに昼夜のべつなく赤髯あかひげにこき使われるんですからね
日本の智慧ちえの火がこの国の蒙昧もうまいなるくらがりを照すところの道具となる縁起えんぎでもあろうかなどと、馬鹿な考えを起してうかうか散歩しながらある店頭みせさきへ来ました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
きわめることだ。自分が神になることだ。……お前達には図書館がない。お前達には書物がない。お前達には知識がない。お前達は無知蒙昧もうまいだ、結局劣った人間だ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
文明と蒙昧もうまいの両極端がこのペンキ塗の青い家の中で出逢であって、一方が一方へ影響を及ぼすと、蒙昧がますますぴんぴん蒙昧になってくる。下手へたに食い違った結果が起るもんだ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただに医者いしゃとして、辺鄙へんぴなる、蒙昧もうまいなる片田舎かたいなかに一しょうびんや、ひるや、芥子粉からしこだのをいじっているよりほかに、なんすこともいのでしょうか、詐欺さぎ愚鈍ぐどん卑劣漢ひれつかん、と一しょになって、いやもう!
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
偽善や蒙昧もうまいや専横がのさばっているのは、何も商家や監獄にかぎらない。科学にも文学にも青年のあいだにもそれはある。だから憲兵も肉屋も学者も文士も、青年もべつだん、贔屓ひいきにしてはやらない。
ほとんど多くの詩人等は、何が真に自由詩であり、何が散文であるかの、判別さえも持っていない。そしてこの認識的蒙昧もうまいから、詩の質と価値とは次第に低下し、しかもこれを破邪顕正はじゃけんしょうすべき正見がない。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
人間どもの救いがたい蒙昧もうまい、恥知らず、愚鈍、……だからこそわしは遁世したのだ、世の中にも人間にもあいそをつかしたればこそ、俗世をのがれて山中に隠れたのではないか
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「しかし人間となると東京よりひどい、狡猾こうかつ貪欲どんよくで無恥なこと、まして宗教的な偏見の根強さとなると、蒙昧もうまいそのものです、むしろ蒙昧であることにしがみついているようなものです」
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)