茅萱ちがや)” の例文
咲き乱れている山神の錫杖しゃくじょう、身を隠すばかりな茅萱ちがやなどの間をザクザクとかき分けて、やがて小高い瘤山こぶやまの洞窟へ這い寄った四人——。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
茅萱ちがやの音や狐の声に耳をそばたてるのは愚かなこと,すこしでも人が踏んだような痕の見える草の間などをば軽々かろがろしく歩行あるかない。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
たけより高い茅萱ちがやくぐって、肩で掻分かきわけ、つむりけつつ、見えない人に、物言いけるすべもないので、高坂は御経おきょうを取って押戴おしいただ
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
老松の間に在つてこの木のようやく染まる頃からこの松原はよくなつて来る。茅萱ちがやが美しい色に枯れ、万両や藪柑子の実の熟れて来る冬もいゝ。
沼津千本松原 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
かれまた野茨のいばらかぶうつつて、其處そこしげつた茅萱ちがやいてほのほが一でうはしらてると、喜悦よろこび驚愕おどろきとの錯雜さくざつしたこゑはなつて痛快つうくわいさけびながら
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
蛇に逢いて蛇がにげぬ時「天竺の茅萱ちがや畑に昼寝して、蕨の恩を忘れたか、あぶらうんけんそわか」と三遍称うべし。
それに、黒地のついへ大きく浮き出している茅萱ちがや模様のさきが、まるで磔刑槍はりつけやりみたいな形で彼女のくびを取り囲んでいる。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
恰度ちょうど人間の丈ほどの茅萱ちがや其他の雑草が両方から生い茂って、前途をふさいでいるから、ステッキや洋傘で草を分け分け足では途を探って、一歩一歩注意して上って行く。
武甲山に登る (新字新仮名) / 河井酔茗(著)
赤い茅萱ちがやの霜枯れた草土手に腰掛け、桟俵さんだわらしりに敷き、田へ両足を投出しながら、ある日、私は小作する人達の側に居た。その一人は学校の小使の辰さんで、一人は彼の父、一人は彼の弟だ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
奇雲の夕日を浴ぶるもの、火峰の如く兀々然こつこつぜんとして天をき、乱焼の焔は、茅萱ちがやの葉々をすべりて、一泓水こうすいの底に聖火を蔵す、富士山その残照の間に、一朶いちだ玉蘭はもくれん、紫を吸ひて遠く漂ふごとくなるや
山を讃する文 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
青すすき茅萱ちがやおしなべ吹く風に鴉は啼けり空を仰ぎて
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
行手に茅萱ちがやの斜面があった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
茅萱ちがやの根
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
旗桜の名所のある山越の捷陘しょうけいは、今は茅萱ちがやに埋もれて、人の往来は殆どない、伊東通い新道の、あの海岸を辿って皈った、その時も夜更よふけであった。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
住民とても殆んど無かったと伝えらるる当時のこの小さな島の事を心に描いて来ると、あたりに立っている松の木も茅萱ちがやの穂も全く現代のものではない様な杳かな杳かな心地になって来るのであった。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
茅萱ちがや、野菊、其他種々な雑草が霜葉を垂れる畦道あぜみちを憶出した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
岩菊、浜菜、もるちの花叢はなむらあかざ茅萱ちがや
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
すすきの霜に入残る、有明月の消え行くさまのぞいている顔が彼方かなたへ、茅萱ちがやの骨に隠れんとした、お鶴は続けさまに呼び留められ、あえてあやぶむ様子もなく
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
沼辺には茅萱ちがや、葦、髪がやつり。
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
茅萱ちがやのうへに
小さな鶯 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
それからは茅萱ちがやの音にも、うおかえりかと、待てど暮らせど、大方いつものにへにならつしやつたのでござらうわいなう。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
沼邊には茅萱ちがや、葦、髮がやつり。
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
たけなす茅萱ちがやなかばから、およ一抱ひとかかえずつ、さっくと切れて、なびき伏して、隠れた土が歩一歩ほいっぽ飛々とびとびあらわれて、五尺三尺一尺ずつ、前途ゆくてかれを導くのである。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぬしあるものですが、)とでもささやいて居るやうで、頼母たのもしいにつけても、髑髏しゃれこうべの形をした石塊いしころでもないか、今にも馬のつらが出はしないかと、宝のつるでも手繰たぐる気で、茅萱ちがやの中の細路ほそみち
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と時節が早かつたと見えて、三島の山々からひとなだれの茅萱ちがやたけより高い中から、ごそごそと彼処此処あっちこっち野馬のうまが顔を出して人珍しげにみつめては、何処どこへか隠れてしまふのと、蒼空あおぞらだつたが
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
中に一条ひとすじ、つるくさ交りの茅萱ちがや高く、生命いのちからむと芭蕉の句の桟橋かけはしというものめきて、奈落へおつるかと谷底へ、すぐに前面むこうの峠の松へ、蔦蔓かずらで釣ったようにずる故道ふるみちの、細々と通じているのが
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)