耶蘇やそ)” の例文
耶蘇やそ教をチベット人に伝えようとして百折不撓ひゃくせつふとうの精神をもって、熱心に布教に従事して居られるのは実に感服の至りであるけれども
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
是より先、寛永十四年に島原の亂が起つた時、十太夫は高野山を拔け出て耶蘇やそ教徒の群に加つたが、原城の落ちた時亂軍の中で討たれた。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
私はもう、耶蘇やそ教から離れたいと思っていた時だった。それに河田さんのこの提案はまたと得られない機会だとさえ私は思った。
「宗教なんてものにろくなものは無い、そんなものを信じる奴は馬鹿ばかりだ、天理教だの日蓮にちれん宗だの耶蘇やそ教だのみんなきちがいのやることだ」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小町こまちの真筆のあなめあなめの歌、孔子様のさんきんで書いてある顔回がんかいひさご耶蘇やその血が染みている十字架の切れ端などというものを買込んで
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
世間で得意を極める人も、高き標準からはかったならば、最もいやしむべきものとなりはせぬか。耶蘇やそがその弟子でしに説いた言葉に
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
これをぶち砕くためには、信長のようなヨーロッパの思想の根源である耶蘇やそ教の信者でなければ、出来にくいにちがいない。
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
彼は其年の春千八百何年前に死んだ耶蘇やその旧跡と、まだ生きて居たトルストイの村居そんきょにぶらりと順礼に出かけて、其八月にぶらりと帰って来た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
避けるとするも行く先きの永い子供は可愛かわいそうだ一命に掛けても外国人の奴隷にさしたくないあるい耶蘇やそ宗の坊主にして
福沢諭吉 (新字新仮名) / 服部之総(著)
又亞米利加の合衆國にては宗教も自由にして、政府に人を用るに其宗旨を問はずと雖ども、武官に限りて必ず其國教なる耶蘇やそ宗門の人を撰ぶと云ふ。
帝室論 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
「旦那さまは家から耶蘇やその尼を出すなんて家名の恥辱だとたいへんなお腹立ちでした、もう杉浦の者ではない、親子の縁を切るとおっしゃったです」
花咲かぬリラ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかもそのような事態ではトテモ結婚式を挙げる訳に行くまいが……耶蘇やそ教の苅萱道心かるかやどうしんみたような事になりはしないか、という母親の懸念であったが
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
イサーク寺では僧正の法衣ほうえすそ接吻せっぷんする善男善女の群れを見、十字架上の耶蘇やその寝像のガラスぶたには多くのくちびるのあとが歴然と印録されていた。
北氷洋の氷の割れる音 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
福音書ノいづレノ部分ニモ耶蘇やそノ面貌ヲ記載シタルコトナシ。サレバ、後人、耶蘇ノ像ヲ描カントスルモノ、ソノ想像ノ自由ナルト共ニ、表現ノ苦心尋常ニアラズ。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
熱心な耶蘇やそ教徒であるので、信長は彼の師父オルガンチノを用いて、巧妙に高槻を開城させ、また中川清秀は元々、村重の挙に本心から同意していなかったので
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『パリサイの徒の如く、悲しき面もちをなすことなかれ。』耶蘇やそさえ既にそう云ったではないか。賢人とは畢竟ひっきょう荊蕀けいきょくみちにも、薔薇ばらの花を咲かせるもののことである。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いかなれば耶蘇やその穉子は一たびもこの群に來て、われ等と共に遊ばざるといひき。われさかしく答ふるやう。むべなり、耶蘇の穉子は十字架にかゝりたればといひき。
私はその話を聞いた時、たとひ私が耶蘇やそ教徒でないにせよ、バイブルは文學上必要の書物だから、さういふ課程をこしらへて、長い間に通讀したらさぞ有益だらうと思つて
『伝説の時代』序 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
彼は以前城内の耶蘇やそ学校に通学していたが、なぜかしらんまた日本へ行った。半年あとで彼がうちに帰って来た時には膝が真直ぐになり、頭の上の辮子が無くなっていた。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
それが耶蘇やそ教主義の学校でして、その教師のなかにまだ若い御夫婦の方でしたが、それは熱心な方がありましてね、この御夫婦が私のまあ先達せんだつになってくだすったのですよ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
近頃四谷見附内よつやみつけうちに新築された大きな赤い耶蘇やその学校の建築をば心の底から憎まねばならぬ。
仏教の方ぢや、髪なんぞ被らずに、凸凹でこぼこの瘤頭を臆面もなく天日に曝して居るし、耶蘇やその方ぢや、教会の人の沢山集ツた所でなけれあ、大きい声出して祈祷なんぞしない。これあ然し尤もだよ。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
釈迦と耶蘇やその合掌さも似たり
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
例えば耶蘇やそ教の神さんでも、その昔人民が罪悪におちいって済度さいどし難いからというて大いにいきどおり、大洪水を起してすべての罪悪人を殺し
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
お婆さんは首を振って、「捨さんの学校は耶蘇やそだって言うが、それが少し気に入らない。どうもあたしは、アーメンはきらいだ」
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
中学は東京の大学に似たれど、警察署は耶蘇やそ天主堂に似たり。ともかくも青森よりははるかによろしく、戸数も多かるべし。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ありがたきかな耶蘇やその聖教、気の毒なるかなパガン外教の人民、日本の人はあたかも盗賊と雑居するがごとし、これを
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
新約聖書に、耶蘇やそみのらぬ無花果いちじくを通りかゝりにのろうたら、夕方帰る時最早枯れて居たと云う記事がある。耶蘇程の心力の強い人には出来そうな事だ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
……人間の舎利甲兵衛しゃりこうべえに麦の黒穂くろんぼを上げて祭るのは悪魔を信心しとる証拠で、ずうと昔から耶蘇やそ教に反対するユダヤ人の中に行われている一つの宗教じゃげな。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
耶蘇やその伝を見ても世人の望むがままに身を処し、言いたいこともいわず、潔しと思わぬこともおこない、時の政府の意に反かずにいたなら、あのような不自由もせず
自由の真髄 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
もっともそういえば仏教でも耶蘇やそ教でもフイフイ教でも同じになるかもしれないし、そうなればいったい何をおがんだらよいかわからなくなって困るかもしれない。
俳諧瑣談 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
初め旧幕に阿諛あゆし、恐多おそれおほくも廃帝之説を唱へ、万古一統の天日嗣あまつひつぎあやううせんとす。かつ憂国之正士を構陥讒戮こうかんざんりくし、此頃外夷ぐわいいに内通し、耶蘇やそ教を皇国に蔓布まんぷすることを約す。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「ほんとにあの方はいいかたでございますねエ。あれでも耶蘇やそでいらッしゃいますッてねエ」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
その懷かしきは何ぞ、その騁するは何をあてぞといはば、われ自ら答ふるところを知らず。されど夢に吾夫わがつまたるべき耶蘇やそを見、又聖母マドンナを見るときは、我心はこれに慰められたり。
例外として、「奉教人ほうけうにんの死」と「きりしとほろ上人しやうにん伝」とがその中に這入はいる。両方とも、文禄ぶんろく慶長けいちやうの頃、天草あまくさ長崎ながさきで出た日本耶蘇やそ会出版の諸書の文体にならつて創作したものである。
風変りな作品に就いて (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その頃まだ横浜はまの子ども達は、親達の伝統的な異端視をうけて、聖書を手にしながら歩いてゆく牧師や、花屋の軒先に立っている黒いバテレン・マントを着た耶蘇やその尼さんを見ると
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
支那の少年金椎キンツイが説いて、駒井甚三郎ほどのものが解釈しきれなかった耶蘇やその教えというものも、この書物が是とも非とも教えていないではないか——そのほか、白雲はまだ風馬牛ふうばぎゅうではあるが
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ここには耶蘇やその新教の大きな会堂もあり、学校もありまた病院もあり仏教の寺院もありその他宗教の小さな祭り所は余程あります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「お金ほど難有ありがたいものが今日の世の中にあるものかね……お金が無くて今日どうして生きて行かれるものかね……あたいは耶蘇やそ大嫌だいきらいだ……」
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
新五郎さんは耶蘇やそ信者しんじゃで、まことに善良な人であるが、至って口の重い人で、疎遠そえん挨拶あいさつにややしばし時間をうつした。それから新五郎さんは重い口を開いて
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
孔子こうし釈迦しゃか耶蘇やそもいろいろなちがった言葉で手首を柔らかく保つことを説いているような気がする。
「手首」の問題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
論語の中で会参は日に三度みたびおのれをかえりみると云った。基督キリストは一日の苦労は一日にて足れりと云ったが、俺は耶蘇やそ教ではないが其日暮そのひぐらしが一番性に合っているようだね。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
高井たかゐ殿に信任せられて、耶蘇やそ教徒を逮捕したり、奸吏かんり糺弾きうだんしたり、破戒僧を羅致らちしたりしてゐながら、老婆豊田貢とよだみつぎはりつけになる所や、両組与力りやうくみよりき弓削新右衛門ゆげしんゑもんの切腹する所や
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
たびたび言うとおり聖人君子でないわれわれ凡人ぼんじんに訓戒を与えることははなはだむずかしいし、また与えたところが釈迦しゃか孔子こうし耶蘇やその訓戒でさえもいちいち反応ないのに
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
依て一策を案じて内君を耶蘇やそ教会に入会せしめ、其目的は専ら女性の嫉妬心を和らげて自身の獣行をたくましゅうせんとの計略なりしに、内君の苦情遂に止まずして失望したりとの奇談あり。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
上品で行儀よく、知性に富んだ子は、南蛮寺の附属耶蘇やそ学校でならったミサの歌や讃美歌も知っていた。第一期生のような乱暴者や野性の横溢おういつはいまの小姓部屋には見られなかった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
最も高き石壁の頂に、幼き耶蘇やそを抱ける聖母マドンナ御像みざうありて、この荒涼なる天地を眺め居給ふ。水の淺きところは、別に一種の鴨緑あふりよく色をなして、一面深き淵に接し、一面は黒き泥土の島に接す。
耶蘇やそがみんなあんな方だとようございますがねエ、あなた。でも——」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
耶蘇やそ「我笛吹けども、汝等なんじら踊らず。」
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その中には岸本の旧い学友で、耶蘇やそ信徒で、二十一年ばかりも前に一緒に同じ学校を卒業した男の遺骸いがいが納めてあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)