のの)” の例文
そして胃を病んで死んだのであるが、寝こんでから息をひきとるまで、半年以上ものあいだ彼を「不孝者」といってののしり続けた。
泥棒と若殿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ののしる者もあったが、それでも、万一の騒擾そうじょうを怖れてか、門扉もんぴは、固く閉じたまま、開きもしなければ、答えもしないのである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手枷てかせ足枷をして、面前にひき出し、「汝の違言に依って、北条家はほろんだではないか。主家を亡して快きか」と、ののしった。
真田幸村 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私達は、竹柵の外から、鮨詰すしづめに押し込まれている、ロスケをののしったり、石をほうり込んだりして、一時間ぐらい費やした。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
なんという不道徳漢と誰にののしられても仕方がない。その日、姉の家に移転してから、初めて、二つの雑誌社から、小説註文の編集者がみえた。
野狐 (新字新仮名) / 田中英光(著)
千代子にこうののしられた僕は、実際誰の目にも立派な腕白小僧として見えたろう。僕自身も腕白小僧らしい思いをした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、巻舌で息子をののしった。その見幕けんまくに、泣き出すかと思った子は、ちょこちょこといって箏の前へ坐ったのだった。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
我自ら我身を顧りみれば孑然げつぜんとして小虫の如く、車夫にののしられ馬丁に叱られ右に避け左にかがまりて、ようやくに志す浅草三間町へたどり着きたり。
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
「学校の先生なんテ、私は大嫌だいきらいサ、ぐずぐずして眼ばかりパチつかしているところは蚊をつかまそこなった疣蛙えぼがえるみたようだ」とはかつて自分をののしった言葉。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
いよ/\上手じょうずのように思われておよそ一年ばかりは胡摩化ごまかして居たが、何かの拍子ひょうしにツイばけの皮が現われて散々さんざんののしられたことがある、と云うようなもので
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
青眼は藍丸王のこのように荒々しい、狂気きちがいじみた姿を見たのはこれが初めてでした。又このように無慈悲な言葉で、嘲けられののしられた事も初めてでした。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
小翠はもうそれを知って扉を閉めて、二人が何といってののってもそのままにしてけなかった。王侍御は怒って斧で扉を破った。小翠は笑いを含んだ声でいった。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
浅間しさも浅間しい、が、人間何よりも餌食えじきだね。私も餌食さえふんだんなら、何も畜生が歯をくように、建具屋の甥や、妹の娘の婿か、その蒔絵屋まきえやなんかののしりやしない。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
親爺のののしり声も耳に入らぬ体で、熱心に、石膏像の芯の布みたいなものを検べていたが、やがて、こちらを向いて立上った時には、彼はハッする程けわしい表情になっていた。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
兵隊はいやなものでも、将校と云うものはいいものだろうと思っていたが、いつか練兵場で練兵するのを見ていたら、若い将校が一人の兵隊をつかまえて、何か声高にののしっていた。
枯菊の影 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「あかん、あかん、弾けるまで夜通しかかったかてりや」と激しく叱咜しったする声がしばしば階下の奉公人共をおどろかした時によるとこの幼い女師匠は「阿呆あほう、何で覚えられへんねん」とののしりながらばち
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして新吉原から始まった、あの狡猾こうかつで卑しい女や男たちに向って。かれらは昌平を軽侮し、騙し、裸に剥き、そしてののしり辱しめた。
七日七夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「くれぐれも、六波羅衆の息子などにかまうなよ。何とののしられても、耳をおさえて、走って行くのだぞよ。よいか」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「真正」だと判断した町の医者に、避病舎ひびょうしゃに入院を命ぜられると、女房はまるで間の悪さの全部が子供のせいででもあるように口汚なくののしるのだった。——
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
彼のののしる言葉は、人を罵しった経験を知らないような落ちつきをそなえた彼の声を通して、敬太郎の耳に響くので、敬太郎も強く反抗する気になれなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは俺を悩ますと同時に、あざけり恥しめののしっているのじゃ。あゝ俺は貴女のその笑顔にえない。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
老僧はなおも父が病中母をののしったこと、死際しにぎわに大塚剛蔵に其一子いっしを托したことまで語りました。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
するとたちま背後うしろの森の中に人音が聞えて、女の追手とおぼしき荒くれ男の数名が口々に『素破すわこそ淫仙よ』『殺人魔よ』『奪屍鬼だっしきよ』とののしりつつ立ち現われ、前後左右を取り巻いて
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして伊藤公は——かなりな我儘わがままをする人だというので憎みののしるものもあればあるほど、畏敬いけいされたり、愛敬あいきょうがあるとて贔屓ひいきも強かったり、ともかくも明治朝臣のなかで巍然ぎぜんとした大人物
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ある者は警察の無能をののしり、東京中の私立探偵を総動員せよと論じた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
降ればぬかり照ればほこりだつ道や、往来の人びとのけたたましくののしり喚くこえなど、すべてがうるおいのない暴あらしい感じだったから
日本婦道記:おもかげ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
自分は彼に対しておこり得るほどの勇気を持っていなかった。怒り得るならば、この間ののしられて彼の書斎を出るとき、すでに激昂げっこうしていなければならなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もし富岡先生にののしられたばかりなら彼は何とかして思切るほうにもがいたであろう、その煩悶はんもんも苦痛には相違ないが、これたたかいである、彼の意力はくこの悩にえたであろう。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ののしった。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
だがそうではないかもしれない、「やい」とか「しゃらくせえまねをするな」というようなののしり声は、たしかに床下のほうから聞えて来た。
泥棒と若殿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そればかりでなく、松本は田口をつらまえて、役には立つが頭のなっていない男だとののしった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それを藤吉が人知れず苦にしていた矢先、またもやこういうてののしられたものですから言うに言われぬ不平が一度に破裂したのでございます、よけいなお世話だ、親方のお古ならどうした
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
いきなり弥六の胸ぐらへつかみかかり、「この大嘘つき」「ろくでなし」「恥知らずのぺてん師」「おっちょこちょい」「唐茄子とうなす野郎」など、すさまじい勢いでののしりたてた。
ゆうれい貸屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
同時に、そう云う訳なら、自分がじかに宗助から相当の値で譲って貰えばよかったに、惜しい事をしたと云った。最後に横町の道具屋をひどくののしって、しからんやつだと云った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「——まあ、なんて人を馬鹿にする木念仁だろう」嬢はとんと足踏みをし、眼をつり上げてののしった、「あたしの美しさなんかてんでわからない木偶でくの坊だわ、ええ口惜しい」
贈り物あらば、われも十日を、二十日はつかを、帰るを、忘るべきに、ののしるはいや
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
下からはまた二十本も三十本もの手を一度にげて、みんな仙太郎さんの方を向きながら、ろんじだのがれんだのという符徴ふちょうを、ののしるように呼び上げるうちに、しょうが茄子なすとう茄子のかご
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ばかなことをした、と彼は自分をののしった。ことによるとこれで七重との長い友情もだめになるかもしれない。おそらくもう七重は自分とは会わなくなるだろう。彼はそんなふうにも思った。
艶書 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その女の夫となった男の軽薄をののしってかなかった。しまいにこう云った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
股引ももひきだの寝衣だのおしめだの下帯だのが干してあり、その下ではちょうど雑魚でも群れているように、襤褸ぼろを着た子供たちが泥溝板どぶいたを踏鳴らしながら、喚いたり泣き叫んだり、ののしり合ったり
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「ワハハハハハサヴェジ・チーだ、サヴェジ・チーだ」と口々にののしる。主人はおおい逆鱗げきりんていで突然ってステッキを持って、往来へ飛び出す。迷亭は手をって「面白い、やれやれ」と云う。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「なんという恰好だ」銀之丞はあたまごなしにこうののしる
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
とわざわざののしった事がある。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)