だち)” の例文
金吾ははかまのももだちを高くして、路傍から棟梁とうりょう屋敷の石塀にそって駆け、カサ、カサ……と落葉のふるえる暗やみへ姿を入れる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今のまゝの顔だちでよいから、表情と肉附にくづき生生いきいきとした活動の美を備へた女がえてしい。髪も黒く目も黒い日本式の女は巴里パリイにも沢山たくさんにある。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
机のかたわらに押立たは二本だち書函ほんばこ、これには小形の爛缶ランプが載せてある。机の下に差入れたはふちの欠けた火入、これには摺附木すりつけぎ死体しがいよこたわッている。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
何とも容子ようすのいい、何処かさみしいが、目鼻だちのきりりとした、帯腰おびごしがしまっていて、そしてなまめかしい、なり恰好は女中らしいが、すてきな年増だ。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
千載茲許ここもとに寄せては返す女浪めなみ男浪おなみは、例の如く渚をはい上る浪頭の彼方に、唯かたばかりなる一軒だち苫屋とまやあり。
片男波 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
小皿伏せたるやうなるふち狭き笠に草花くさばな插したるもをかしと、たずさへし目がねいそがはしくかなたこなたを見廻みめぐらすほどに、向ひの岡なる一群きはだちてゆかしう覚えぬ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
しやちほこだちや、棒上りや、金輪の使ひ分けや、をかしな踊りなどを、太鼓たいこをたゝきながらやるのです。
シャボン玉 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
唯顔だちから云ふと、此女の方が余程上等である。口に締りがある。眼が判明はつきりしてゐる。ひたひが御光さんの様にだゞつぴろくない。何となくい心持に出来上つてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
阿爺おとっさんは、亡児なきこ枕辺まくらべすわって、次郎さんのおさだちの事から臨終前後の事何くれとこまかに物語った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
換言すれば一人だちは固有の鹿舞系のものであって、二人立は獅子舞系のものと見るのである。
獅子舞雑考 (新字新仮名) / 中山太郎(著)
そのあかつきなにかいさゝか仕損しそこなゐでもこしらゆればれは首尾しゆびよく離縁りえんになりて、一ぽんだち野中のなかすぎともならば、れよりは自由じゆうにて其時そのとき幸福しやわせといふことばあたたまへとわらふに
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かの人々の弐千余円を失ひて馳違はせちがふ中を、梅提げて通るはが子、猟銃かたげ行くは誰が子、と車をおなじうするは誰が子、啣楊枝くはへようじして好ききぬ着たるは誰が子、あるひは二頭だちの馬車をる者
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
目鼻だちは十人並すぐれて整ふて居るが寂しい顔であるから、水晶の中から出て来たやうな顔をして明るい色の着物を着たつれの女に比べると、花の傍に丸太の柱がたつて居る程に見られるのであつた。
御門主 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
鯱鉾しゃちほこだちをしたってわかるこッちゃァあるめえて。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
元禄の頃の陸奥むつ千鳥には——木川村入口に鐙摺あぶみずりの岩あり、一騎だちの細道なり、少しきて右のかたに寺あり、小高き所、堂一宇いちう、継信、忠信の両妻、軍立いくさだちの姿にて相双あいならび立つ。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御相みさういとどしたしみやすきなつかしき若葉わかばだちなか盧遮那仏るしやなぶつ
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
何も聞かないふりをして、かわずが手をもがくがごとく、指でさぐりながら、松の枝に提灯を釣すと、謙斎が饒舌しゃべった約束のごとく、そのまま、しょぼんと、根にかがんで、つくばいだちの膝の上へ
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小夜具こよぎかぶって、仁王だち、一斗だるの三ツ目入道、裸の小児こどもと一所になって、さす手の扇、ひく手の手拭、揃って人も無げに踊出おどりいだした頃は、俄雨にわかあめを運ぶ機関車のごとき黒雲が、音もしないで
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)