神輿みこし)” の例文
そこに神輿みこしが渡御になる。それに従う村じゅうの家々の代表者はみんなかみしもを着て、からかさほどに大きな菅笠すげがさのようなものをかぶっていた。
田園雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
漸く神輿みこしをあげた平次ですが、外の風に當るとはずみがついて、まだ晝をあまり廻らぬうちに、加州樣下屋敷隣の百草園に着きました。
そればかりか感激のあまり泣きだしそうにさえなったくらいだが、それと同時に、もうそろそろお神輿みこしをあげるころあいだと感じた。
のみならず、やがてそのあとからは、李逵が退治した虎四匹を、縄からげにして、村人三十人ほどが、神輿みこしのように肩架けんかかつ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
江州山王の祭りは神事に妄説を設けて、神輿みこしは人の血を見ざれば渡らずとて、見物人に喧嘩を仕掛け、必ず人をきるを例とす。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
そうすると、神輿みこしが重くなって少しも動かず、また一つの大きな青大将が、社の前にわだかまって、なんとしても退きません。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おどろく侍どもをしりめにかけて、押し入って来た蒲生泰軒は、この日からこのとんがり長屋にお神輿みこしをすえることになった。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
五月五日の祭には夜八つの神輿みこしが古式の行列をととのへ社殿の内外、氏子一同悉く消灯した暗黒のうちを御旅所へ渡御する。
府中のけやき (新字旧仮名) / 中勘助(著)
女一 (髪を束ね直しながら)さ、お神輿みこしを上げようかね、朝っぱらから据わり込んでいても、いい話もなさそうだし——。
そこにはいづれも田舎じみた男女が大勢佇んでをり、その中を小さいお神輿みこしが一台ワツシヨワツシヨとかつがれて行つた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
どこか神輿みこしめいたところがあって、何となく尊げに見受けられたが、一所に垂れている垂れぎぬの模様が、日本の織り物としてはかなり珍らしい。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
各村はほとんど競争の形で、神輿みこしを引き出そうとしていた。馬籠でさかんにやると言えば、山口でも、湯舟沢でも負けてはいないというふうで。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
親ゆずりでお祭りなんぞも好きな性分だから、父と一しょになって、神輿みこしの世話を手つだいだしているのかも知れない。
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
それから白鳥が小さい神輿みこしをかついであとから神主が行くわ、一列になって、あのお医者の石崖の下の道をとおって
歯ぎしりして口惜しがった僧兵達は白山中宮ちゅうぐう神輿みこしをふり立てると、山門に訴えようと、比叡山に行進を開始した。
沈み切っていた、職人頭の富さんが、運八に推遣おしやられて坐に返ると、一同みんなも、お神輿みこしの警護が解けたように、飲みがまえで、ずらりとお並びさ、貴方。
実をいふと、勝田氏が朝鮮銀行の総裁から、寺内内閣の次官として帰つた時から、氏はずつと木挽町八丁目の大蔵大臣官邸に神輿みこしを据ゑつ切りであつた。
宮をあげてのせう篳篥ひちりき浦安うらやすまひ。國をあげての日章旗、神輿みこし、群衆。祝祭は氾濫し、ああ熱情は爆發した。轟けと、轟けとばかりに叫ぶ大日本帝國萬歳。
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
「今年ゃ七海に神輿みこしを買うて、富来とぎ祭に出初めやさかい、大方家のお父様ねも飲ましとるに違いないねえ。」
恭三の父 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
と安子夫人は漸くお神輿みこしを上げて台所へ御出馬になった。成程、運送屋の半纒を着た男が坐り込んでいる。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
船には旗が飾り立ててあったが、その船が左右にゆれるたびに旗が仰山ぎょうさんに左右にゆれた。そんな船が前後に五、六そうもあって、かの神輿みこしの船を取り囲んでいた。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ここは山車や踊り屋台よりも各町内の神輿みこしが名物で、俗に神輿祭りと呼ばれ、いろいろの由緒つきの神輿が江戸の昔からたくさんに保存されていたのであるが
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
鍛冶町かじちょうは大太刀たちといったような取り合わせでしたが、それらが例年のごとく神輿みこしに従って朝の五つに地もとを繰り出し、麹町ご門から千代田のご城内へはいって
ワッショウワッショウワッショウと神輿みこしかつぐ声はたださえ汗ばんだ町中の大路小路に暑苦しく聞える。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
住吉祭すみよしまつり神輿みこしの行列を私の家へ見物に来て居る時などは人が皆表の道に立留つておさやんを眺めました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
無頼者ならずものの一隊は、早くも駕籠を奪ってそのままに、神輿みこしを担ぐように大勢してかつぎ上げたようです。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この頃になると、亭主どもばかりではなく、夫人連も、そろそろ神輿みこしをあげて、サービスを始める。コップが大分あいていると、「もう一杯如何いかがです」と、勧誘に来る。
パーティ物語 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
自動車の使用が盛になってから、今日では旧式の棺桶かんおけもなく、またこれを運ぶ駕籠かごもなくなった。そして絵巻物に見る牛車ぎっしゃと祭礼の神輿みこしとに似ている新形の柩車きゅうしゃになった。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二百の谷々をうずめ、三百の神輿みこしを埋め、三千の悪僧を埋めて、なお余りある葉裏に、三藐三菩提さまくさぼだいの仏達を埋め尽くして、森々しんしんと半空にそびゆるは、伝教大師でんぎょうだいし以来の杉である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
客「お神輿みこしでも待ちゃアしめえし、お廻りになるってやアがる、殴るよ本当に、仲どんはめちまや、可愛相に青脹れで、頭髪あたまッちまいねえ、衣の勧化かんげぐれえはしてやらア」
なにしろおめえ一と晩も欠かさず五度ずつ神輿みこしのお渡りだてんだ、まるで搾木しめぎに掛けて種油をしぼるみてえに、うむを云わさねえてんだから、そしてちっとでもいやなそぶりをすると
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
もうなんぞといへば、朝から晩まで酒場に神輿みこしを据ゑてゐくさつたちふことだ!……
店のあきないを仕舞って緋の毛氈もうせんを敷き詰め、そこに町の年寄連が集って羽織袴で冗談を言いながら将棊しょうぎをさしている。やがて聞えて来る太鼓の音と神輿みこしを担ぐ若い衆の挙げるかけ声。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
さてお神輿みこしを上げようと思つたが、コニヤツクに湯ざましを割つたコツプの、飲み干さずにあるのが目に着いた。どうもまだ未錬みれんがある。そこでコツプを取り上げて、又一口がぶりと飲んだ。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
近村に傳染病があるから、この秋の祭禮には神輿みこしを出して騷いだりすることを禁ずるといふ父の方針が口汚なく攻撃されてゐた。若い漁夫れふしどもは鼻を鳴らしてうれしさうにその演説を聞いてゐた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
朝暗いうちから、大太鼓おおだいこの音がひびきわたり、神輿みこしが、揃いの祭着まつりぎに甲斐々々しく身がためした若者たちによって、海岸の方へかつぎ出される。浜辺から、遠浅とおあさの沖の方へ、ぐんぐん、入って行く。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
茶番にしよう、何處のか店を借りて往來から見えるやうにしてと一人が言へば、馬鹿を言へ、夫れよりはお神輿みこしをこしらへてお呉れな、蒲田屋かばたやの奧に飾つてあるやうな本當のを、重くても搆はしない
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼は大甕のとなりの腰掛けにお神輿みこしを据えて、やり始める。
天才 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
平気で済まして便々とお神輿みこしえていられる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
神輿みこしの臺をさながらの雲悲みてえんだちぬ。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
渡るお神輿みこし
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
「とんでもない、親分。それほどの悪気があるものですか、——でも、こうでも言わなきゃ、親分が神輿みこしをあげちゃ下さらないでしょう」
もう一つの道は、そのまま奥庭へ通じて、庭のむこうの壮麗をきわめた一棟——源三郎の留守を守る伊賀の連中が、神輿みこしをすえているのはここだ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
大講堂には、もう、人が蝟集いしゅうしていた。明日、かついで下山するばかりに用意のできている三社の神輿みこしは飾られてあった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども、本当にいつか、そんな母親の云うような縮緬ちりめんの揃の浴衣で自分が神輿みこしを担いだことがあったのかしら。
一太と母 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
たとえば祭礼の日にも宿老たちだけは、羽織はおりはかま扇子せんすをもってあるくが、神輿みこしかつぐ若い衆は派手な襦袢じゅばんに新しい手拭鉢巻てぬぐいはちまき、それがまった晴着であった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かたかたの床には白木造りの神輿みこし、かたかたには炊事の道具をならべ、畳のかびをふき、あたりのちりを払ってみれば思ったより住みごこちのいい住居になった。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
これについて思い出すのは、東京の著名な神社の祭礼に、街上で神輿みこしをかついで回っている光景である。
物質群として見た動物群 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
赤坂の氷川ひかわさまもお神輿みこしが渡っただけで、山車だしも踊り屋台も見合せ、わたくしの近所の天王さまは二十日過ぎになってお祭りをいたしましたが、そういう訳ですから
蜘蛛の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
牡丹屋の亭主の話によると、神輿みこしはもとより、山車だし手古舞てこまい蜘蛛くも拍子舞ひょうしまいなどいう手踊りの舞台まで張り出して、できるだけ盛んにその祭礼を迎えようとしている。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)