短夜みじかよ)” の例文
短夜みじかよの明けぎわにざっと一降ひとふり降って来た雨の音を夢うつつのうちに聞きながら、君江は暫くうとうとしたかと思うと、たちまち窓の下の横町よこちょうから
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と仙太郎の慈悲なさけから図らざることで親子主従が無事に助かりましたが、短夜みじかよゆえたちまちに明けまして、翌朝よくあさ仙太郎が子分に手紙を持たしてやり
這般この、好色の豪族は、はやく雨乞のしるしなしと見て取ると、日のさくの、短夜みじかよもはやなかばなりししゃ蚊帳かやうちを想ひ出した。……
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
商家の小僧が短夜みじかよ恨めしげに店の大戸がらがらとあくれば、寝衣ねまき姿すがたなまめきてしどけなき若き娘が今朝の早起を誇顔ほこりがお
銀座の朝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
短夜みじかよの明けやすく、四時半には弁公引き窓をあけて飯をたきはじめた。親父もまもなく起きて身じたくをする。
窮死 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
短夜みじかよのさらに短い一ときも、あるいは、百年のちぎりを一瞬のかたらいに込めて夫婦の二世までをその純朴な情愛の仲ではかたく信じ合えていたかもしれない。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの高輪の縁側で、萩の葉の暗い庭に向ったところで、二人あることを楽みながら夜遅くまで互に蚊にわれて起きていた短夜みじかよの空が、た自分を憂鬱ゆううつにする。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一、長閑のどかあたたかうららか日永ひながおぼろは春季と定め、短夜みじかよすずしあつしは夏季と定め、ひややかすさまじ朝寒あささむ夜寒よさむ坐寒そぞろさむ漸寒ややさむ肌寒はださむしむ夜長よながは秋季と定め、さむし、つめたしは冬季と定む。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ほそくのみ月の見え來る短夜みじかよをまだ最中さなかなり落ちしきるもの
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
短夜みじかよに敵のうしろを通りけり 几董
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
短夜みじかよの碁を打分うちわけ名残なごりかな 喜重
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
まだ短夜みじかよも明けない逢坂山おうさかやまの木立の上に、鉄砲を構えて、信長のすがたを待っている怪僧があった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふもとの出張った低いかわらの岸に、むしろがこいの掘立小屋ほったてごやが三つばかりやなの崩れたようなのがあって、古俳句の——短夜みじかよや(何とかして)川手水かわちょうず——がそっくり想出された。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この頃の短夜みじかよとはいへど病ある身の寐られねば行燈あんどんの下の時計のみ眺めていと永きここちす。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
油紙で張った雨傘にかど時雨しぐれのはらはらと降りかかるひびき。夕月をかすめて啼過なきすぐかりの声。短夜みじかよの夢にふと聞く時鳥ほととぎすの声。雨の夕方渡場わたしばの船を呼ぶ人の声。夜網よあみを投込む水音。荷船にぶねかじの響。
虫の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と酒が始まりましたが短夜みじかよのことゆえ、大きに遅くなりました。
ほそくのみ月の見え来る短夜みじかよをまだ最中さなかなり落ちしきるもの
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
短夜みじかよ鉦鼓しょうこにまじるけいの音
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
短夜みじかよだ」
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「梅松論」がいう——当夜、矢矧ヤハギ御着ゴチヤクアツテ、京都鎌倉ノ両大将御対面、久々ナル御物語リ、尽クトモ見エズ——とある一条の短夜みじかよは、こうして、あわただしいまにすぐ白む。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれが寝られぬ短夜みじかよに……疲れて、寝忘れて遅く起きると、祖母としよりの影が見えぬ……
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
物一たび去れば遂にかえっては来ない。短夜みじかよの夢ばかりではない。
雪の日 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
短夜みじかよはいまだ暗きに小嵐さあらしほほの木のうれを搖りぬまさしく
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
短夜みじかよ露領ろりょうに近き旅の宿
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
短夜みじかよや同心衆の川手水かわちょうず
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
眠り落ちた短夜みじかよの真夜中過ぎ——部屋の窓から、ひらりと、外庭へ跳びおりた小六は、ややしばらく姿を隠していたが、再び窓口へ顔を出して、低い——聞きとれないほどな声で
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
コトコトとはしを鳴らし、短夜みじかよの明けた広縁には、ぞろぞろおびただしい、かば色の黒いのと、松虫鈴虫のようなのが、うようよして、ざっと障子へ駆上かけあがって消えましたが、西瓜のたねったんですって。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
短夜みじかよはいまだ暗きに小嵐さあらしほほの木のうれを揺りぬまさしく
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
短夜みじかよや同心衆の川手水かはてうづ
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
明けやすい短夜みじかよである。五こうといえばもう有明ありあけの色がどこにもほのかである。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて短夜みじかよが……嬉しや、もう明けそうに、窓から白濁りの色がして、どんよりと光って、卓子テエブルの上へ飜った、と見ると、跫音あしおとが、激しくなって、ばたばたばた、とそこいらをけたが、風か
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
短夜みじかよゑんじゆの虹に鳴く蝉の湿しめりいち早し今日も時化しけならむ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
短夜みじかよいとま賜はる白拍子しらびょうし
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
お蔭で、夏の短夜みじかよを、日吉の寝る間は、なお僅かだった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
短夜みじかよの馬込なりしか梟と木菟みみづくのこゑのかたみにはして
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
夏の短夜みじかよなのでどこに明かすも、夜はすぐに白みかけた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
短夜みじかよの馬込なりしか梟と木菟みみづくのこゑのかたみにはして
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
短夜みじかよの墓地になるのだ。
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)