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まぶた
ふりがな文庫
“
眶
(
まぶた
)” の例文
兩手
(
りやうて
)
をわなわなふるはせて、肩で
息
(
いき
)
を切りながら、眼を、
眼球
(
がんきう
)
が
眶
(
まぶた
)
の外へ出さうになる程、見開いて、唖のやうに
執拗
(
しうね
)
く默つてゐる。
羅生門
(旧字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
わたしは
棉入
(
わたいれ
)
を著て丸一日火の
側
(
そば
)
にいて、午後からたった一人の客ぐらいでは
眶
(
まぶた
)
がだらりとせざるを得ない。するとたちまちどこやらで
孔乙己
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
哀れな小さい囚人はかうして泣き
疲
(
つか
)
れたあと、
何時
(
いつ
)
もその
潤
(
うる
)
んだ
眶
(
まぶた
)
に幽かな燐のにほひの沁み入る薄暗い空氣の氣はひを感じた。
思ひ出:抒情小曲集
(旧字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
疾
(
と
)
く行き給へと口には言へど、つれなき涙は
眶
(
まぶた
)
に餘りて、
頬
(
ほ
)
の上に
墮
(
お
)
ち來りぬ。われ。そは餘りに情なし。われはおん身の今不幸なるを知りぬ。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
すると両方の鼻の孔の中がむずむずかゆくなって、物がいて出て往くようであったが、しばらくして帰ってきて、また鼻の孔から
眶
(
まぶた
)
の中へ入って話しだした。
瞳人語
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
▼ もっと見る
常は慈愛、温厚、歓喜の色を湛へてゐた父の目が、例の
眶
(
まぶた
)
の隙間から、異様に光つてゐるのを見て、娘は本能的に恐怖心を発した。そしてニノチユカの小さい胸は波立つた。
板ばさみ
(新字旧仮名)
/
オイゲン・チリコフ
(著)
六十歳に近づくと、どんなに美しく、豊満な輪廓を持つた女形でも、まづ
眶
(
まぶた
)
が落ち皺み、次いで頬が
歪
(
ヒズ
)
み、どうしても若女形の役どころなどには、
適
(
ソグ
)
はぬやうになつて来る。
街衢の戦死者:――中村魁車を誄す――
(新字旧仮名)
/
折口信夫
(著)
それでもいつの間にか眠ったとみえて、アパートの主人に
喚
(
よ
)
び起された時には、正午近い太陽がベッドの裾の上にまで差込んでいて、ちょっと
眶
(
まぶた
)
が開けられない位眩しかった。
黒猫十三
(新字新仮名)
/
大倉燁子
(著)
當主は養子にて
此娘
(
これ
)
こそは家につきての一粒ものなれば父母が歎きおもひやるべし、病ひにふしたるは櫻さく春の頃よりと聞くに、夫れよりの晝夜
眶
(
まぶた
)
を合する間もなき心配に疲れて
うつせみ
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
眶
(
まぶた
)
が重くなって目が塞がりそうになる。その度にびっくりして目を開く。目を開いてはこの気味の悪い部屋中を見廻す。どこからか差す明りが、丁度波の上を鴎が走るように、床の上に影を落す。
白
(新字新仮名)
/
ライネル・マリア・リルケ
(著)
所が、それが分かつてゐたものでございますから、余り気味の悪さに、わたくしは目を
瞑
(
つぶ
)
りました。目を瞑つたといふよりは、
眶
(
まぶた
)
がひとりでに痙攣を起して閉ぢたといつた方が好いのでございます。
うづしほ
(新字旧仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
どうも思慮を
纏
(
まと
)
めることが出来ない。最早死の沈黙に鎖されて、死の寂しさをあたりへ
漲
(
みなぎ
)
らしている、鍪を被った、不動の白い形から、驚怖のために、
眶
(
まぶた
)
のひろがった我目を引き離すことが出来ない。
罪人
(新字新仮名)
/
ミハイル・ペトローヴィチ・アルチバシェッフ
(著)
涙
微紅
(
ほのあか
)
めたる
眶
(
まぶた
)
に
耀
(
かがや
)
きて、いつか宿せる
暁
(
あかつき
)
の
葩
(
はなびら
)
に露の
津々
(
しとど
)
なる。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
『尤も——』と奥様は
襦袢
(
じゆばん
)
の袖口で
眶
(
まぶた
)
を押拭ひ乍ら言つた。
破戒
(新字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
宛
(
あたか
)
もその常に閉さざる
眶
(
まぶた
)
の
下
(
もと
)
牧羊神
(旧字旧仮名)
/
上田敏
(著)
すると僕の
眶
(
まぶた
)
の裏に銀色の羽根を
鱗
(
うろこ
)
のように畳んだ翼が一つ見えはじめた。それは実際網膜の上にはっきりと映っているものだった。
歯車
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
老栓は忙しそうに
大薬鑵
(
おおやかん
)
を提げて一さし、一さし、銘々のお茶を
注
(
つ
)
いで歩いた。彼の両方の
眶
(
まぶた
)
は黒い輪に囲まれていた。
薬
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
われ眼を閉ぢ耳を
掩
(
おほ
)
ひ、心に聖母を念じて、又
眶
(
まぶた
)
を開けば、怖るべき夫人の身は
踉蹌
(
よろめ
)
きて
後
(
しりへ
)
に
踣
(
たふ
)
れんとす。そのさま火焔の羽衣を燒くかとぞ見えし。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
半世紀を経た位の木ぶりが、一様に揃って見える。月の光りも薄い木陰全体が、
勾配
(
こうばい
)
を背負って造られた円塚であった。月は、瞬きもせずに照し、山々は、深く
眶
(
まぶた
)
を閉じている。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
当主は養子にて
此娘
(
これ
)
こそは家につきての一粒ものなれば父母が
歎
(
なげ
)
きおもひやるべし、病ひにふしたるは桜さく春の頃よりと聞くに、それよりの昼夜
眶
(
まぶた
)
を合する間もなき心配に疲れて
うつせみ
(新字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
こうして海洋の旅を続けるのは、私としては
小笠原
(
おがさわら
)
渡航以来十三年ぶりのことである。だが、かつての南の空は明るかったが、私の
眶
(
まぶた
)
は重かった。今の
潮
(
うしお
)
は暗いようでも、私の心は晴ればれしい。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
目を閉ぢて
聴
(
きき
)
ゐし貫一は
徐
(
しづか
)
に
眶
(
まぶた
)
を開くとともに
眉
(
まゆ
)
を
顰
(
ひそ
)
めて
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
すると僕の
眶
(
まぶた
)
の裏に銀色の羽根を
鱗
(
うろこ
)
のやうに畳んだ翼が一つ見えはじめた。それは実際網膜の上にはつきりと映つてゐるものだつた。
歯車
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
ようやくのことで單四嫂子の涙交りの宣告が終りを告げると、
眶
(
まぶた
)
の辺が腫れ上がって非常に大きくなっていた。あたりの模様を見ると実に不思議のことである。
明日
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
こは
分明
(
ぶんみやう
)
に
老女
(
おうな
)
の首なりしなり。我はこの
褐
(
かち
)
いろの顏、半ば開ける
眶
(
まぶた
)
、格子の外に洩れ出でゝ風に亂るゝ銀髮を凝視して、我脈搏の忽ち亢進するを覺えき。われは眼を壁に懸けたる石版に注げり。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
素
(
す
)
の額のまろい
眶
(
まぶた
)
の肉の垂れた、眼の柔和な、何か老いて
呆
(
とぼ
)
け
面
(
づら
)
の、耳の蔽い毛の
房々
(
ふさふさ
)
して、部厚い灰色の、
凸凹
(
でこぼこ
)
の背の、気の弱い緬羊は密集して、誰から、どの列から誘うとも誘われるともなしに
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
彼は
襦袢
(
じゆばん
)
の
袖
(
そで
)
の
端
(
はし
)
に
窃
(
そ
)
と
眶
(
まぶた
)
を
挲
(
す
)
りて
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
両手をわなわなふるわせて、肩で息を切りながら、眼を、
眼球
(
めだま
)
が
眶
(
まぶた
)
の外へ出そうになるほど、見開いて、唖のように
執拗
(
しゅうね
)
く黙っている。
羅生門
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
眶
(
まぶた
)
、眶、薄う
瞑
(
つぶ
)
つた眶を突いて、きゆつと
抉
(
え
)
ぐつて
兩眼
(
りやうがん
)
あける。
思ひ出:抒情小曲集
(旧字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
猪熊
(
いのくま
)
の
爺
(
おじ
)
は、
総身
(
そうみ
)
をわなわなふるわせながら、まだ生きているという事実を確かめたいために、重い
眶
(
まぶた
)
を開いて、じっとともし火の光を見た。
偸盗
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
額髪
(
ぬかがみ
)
のかなし
女童
(
めわらは
)
うつら読み
眶
(
まぶた
)
垂
(
た
)
りをり
燈
(
ひ
)
をあかく置き
夢殿
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
その中に、汗は遠慮なく、
眶
(
まぶた
)
をぬらして、鼻の側から
口許
(
くちもと
)
をまはりながら、頤の下まで流れて行く。気味が悪い事
夥
(
おびただ
)
しい。
酒虫
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
冷
(
ひや
)
やかに薄き
眶
(
まぶた
)
をしばたたく人にな馴れそ山の春の鳥
桐の花
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
弥三郎! わたしはただ幻のように、
倅
(
せがれ
)
の曝し首を眺めました。首はやや
仰向
(
あおむ
)
いたまま半ば
開
(
ひら
)
いた
眶
(
まぶた
)
の下から、じっとわたしを見守って居ります。
報恩記
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
そはまた
眶
(
まぶた
)
の汗のごとくに
顫
(
ふる
)
へやすし。
東京景物詩及其他
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
慎太郎は
険
(
けわ
)
しい顔をしたまま、始めて話に口を挟んだ。博士はそれが意外だったように、ちらりと重そうな
眶
(
まぶた
)
の下から、慎太郎の顔へ眼を注いだ。
お律と子等と
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
しかし彼の
眶
(
まぶた
)
の裏には、やはりさまざまな母の記憶が、乱雑に漂って来勝ちだった。その中には嬉しい記憶もあれば、むしろ
忌
(
いま
)
わしい記憶もあった。
お律と子等と
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
眶
(
まぶた
)
の赤くなった、肉食鳥のような、鋭い眼で見たのである。それから、皺で、ほとんど、鼻と一つになった唇を、何か物でも噛んでいるように動かした。
羅生門
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
わたしは少女に目を
注
(
そそ
)
いだ。すると少女は意外にも
幽
(
かす
)
かに
眶
(
まぶた
)
をとざしてゐる。年は十五か十六であらう。顔はうつすり
白粉
(
おしろい
)
を
刷
(
は
)
いた、
眉
(
まゆ
)
の長い
瓜実顔
(
うりざねがほ
)
である。
わが散文詩
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
それは僕の母と二人で
箪笥
(
たんす
)
を買いに出かけたとか、
鮨
(
すし
)
をとって食ったとか云う、
瑣末
(
さまつ
)
な話に過ぎなかった。しかし僕はその話のうちにいつか
眶
(
まぶた
)
が熱くなっていた。
点鬼簿
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
最後に貝殻のような
眶
(
まぶた
)
が落ちると、もうそこには電柱ばかりで、何も怪しい物の姿は見えません。
妖婆
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
星でも数えるようでしたが、やがて皮のたるんだ
眶
(
まぶた
)
を挙げて、ぎょろりと新蔵へ眼をくれると、「成らぬてや。成らぬてや。大凶も大凶よの。」と、まず大仰に
嚇
(
おど
)
かして
妖婆
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
ところが、式がだんだん進んで、小宮さんが
伸六
(
しんろく
)
さんといっしょに、
弔辞
(
ちょうじ
)
を持って、柩の前へ行くのを見たら、急に
眶
(
まぶた
)
の裏が熱くなってきた。僕の左には、
後藤末雄
(
ごとうすえお
)
君が立っている。
葬儀記
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
「
生憎
(
あいにく
)
出まして留守でございますが。」と、さも自分が悪い事でもしたように、
眶
(
まぶた
)
を染めて答えましたが、ふと涼しい眼を格子戸の外へやると、急に顔の色が変って、「あら。」と
妖婆
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
彼女は心もち
眶
(
まぶた
)
を上げて、「さう思つて?」と問ひ返した。問ひ返して、すぐに後悔した。照子は一瞬間妙な顔をして、姉と眼を見合せた。その顔にも
亦
(
また
)
蔽ひ難い後悔の心が動いてゐた。
秋
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
わたしは
何
(
なん
)
とも返事をしずに
匀
(
にほひ
)
のない
珈琲
(
コオヒイ
)
を
啜
(
すす
)
つてゐた。けれどもそれは断髪のモデルに何か感銘を与へたらしかつた。彼女は赤い
眶
(
まぶた
)
を
擡
(
もた
)
げ、彼女の吐いた煙の輪にぢつと目を
注
(
そそ
)
いでゐた。
雪
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
その拍子に
氷嚢
(
ひょうのう
)
が辷り落ちた。洋一は看護婦の手を借りずに、元通りそれを置き直した。するとなぜか
眶
(
まぶた
)
の裏が突然熱くなるような気がした。「泣いちゃいけない。」——彼は
咄嗟
(
とっさ
)
にそう思った。
お律と子等と
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
まだ夢の中の
異類異形
(
いるゐいぎやう
)
が、
眶
(
まぶた
)
の後を去らないのでございませう。
地獄変
(旧字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
眶
(
まぶた
)
の後を去らないのでございませう。
地獄変
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
眶
部首:⽬
11画
“眶”を含む語句
眼眶
眶毛
腫眶
御眶
目眶
眶越