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疼
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うず
ふりがな文庫
“
疼
(
うず
)” の例文
姫は夜の闇にもほのかに映る
俤
(
おもかげ
)
をたどって、
疼
(
うず
)
くような体をひたむきに
抛
(
な
)
げ
出
(
だ
)
す。
行手
(
ゆくて
)
に認められるのは光明であり、理想である。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
離してみると、紙に
滲
(
にじ
)
んだ桃色の
唾
(
つば
)
——人にきらわれる
癆咳病
(
ろうがいや
)
みの血——。だが、彼女の目には若い血の
疼
(
うず
)
きがそこへ出たかと見える。
鳴門秘帖:01 上方の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
チクチク
疼
(
うず
)
かせるのが例であったが、今日も、眼をうすくとじて、よい気持そうにうなりながら、お京の幻影を胸にえがいていた。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
精神を低く屈しさせられれば屈しるほど、その息づきのせわしさが自覚される三分の魂をもって、自身のうちに
疼
(
うず
)
く内部反抗を自覚した。
現代の主題
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
が、その時、カサリという音が、十四郎の寝間の方角でしたかと思うと、滝人の心臓の中で、ドキリと
疼
(
うず
)
き上げたような脈が一つ打った。
白蟻
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
▼ もっと見る
しかも、それと同時に私の頭の痛みが、何となく神秘的な脈動をこめて、
新
(
あらた
)
に
活
(
い
)
き
活
(
い
)
きと
疼
(
うず
)
き出したように思えてならなかった。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
四肢がけだるく、腰は激しい
疼
(
うず
)
くような痛みを覚えた。昔は自分の肉体など、感じないほど、五体が自由に動いたものだった。
浮動する地価
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
下着まで水に濡れた翌朝、彼が眼を覚ますと、鼻の奥や耳の底が不快に
疼
(
うず
)
いていた。熱っぽい身体からは、かすかにどぶの臭いが立っていた。
黄色い日日
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
それから、ある日、
何故
(
なぜ
)
か分らないが、女の顔がこの世のなかで苦しむものの最後のもののように、ひどく
疼
(
うず
)
いているように彼にはおもえた。
火の唇
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
出来れば一つラヴ・ロマンス(お笑いになりましたね。)そいつを書いてみたいという思いが心のどこかの隅に、
幽
(
かす
)
かに
疼
(
うず
)
いていたようです。
風の便り
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
でもこの前の時と違うのは、おりおり胸が気味悪く
疼
(
うず
)
くことと、午後になると毎日のように疲労感が襲って来ることである。
鍵
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
だが、筋々が
断
(
き
)
れるほどの痛みを感じた。骨の節々の
挫
(
くじ
)
けるような、
疼
(
うず
)
きを覚えた。……そうして尚、じっと、——じっとして居る。
射干玉
(
ぬばたま
)
の闇。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
私は、そのときの自分の、芝田晴子という名の娘を思うたびに胸に
揉
(
も
)
みこまれた、奇妙な痛みに似た
閃
(
ひらめ
)
くような
疼
(
うず
)
きを、いまだに忘れてはいない。
軍国歌謡集
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
そしてまだ陽を見たことのないクリーム色の(十二
字
(
じ
)
削
(
さく
)
)そして彼女の完全な(それは、悲しい、思っただけでも胸の
疼
(
うず
)
くような)離反!
自棄酒
(
やけざけ
)
。
自殺
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
そのとき、太った鈴木隆助の胸に阿賀妻謙の名が彫りきざまれたのである。
疼
(
うず
)
くような
羞
(
はず
)
かしめの感じを伴っていた。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
やがてまた音と、運動と、触覚——体じゅうにしみわたるぴりぴり
疼
(
うず
)
く感覚。次に思考力を伴わない単なる生存の意識、——この状態は長くつづいた。
落穴と振子
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
眼と鼻のあいだの寸が少しつまっていることだけが難といえば難であるが、しかし、内に
疼
(
うず
)
く肉体の若さは化粧をしていないだけにみずみずしかった。
本所松坂町
(新字新仮名)
/
尾崎士郎
(著)
マリアは一切を思い出させる力をもっている。既に
恢癒
(
かいゆ
)
したはずの傷までがまた
疼
(
うず
)
き出しそうだ。言うまでもなく私にとっては忘却の方が有難かった。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
お
生命
(
いのち
)
も
冥加
(
みょうが
)
なくらい、馬でも牛でも吸い殺すのでございますもの。しかし
疼
(
うず
)
くようにお
痒
(
かゆ
)
いのでござんしょうね。
高野聖
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
いくらよごれていても緊密に結ばれた男女の形には、若い身空の肉情に
疼
(
うず
)
き入る何物かゞあるのでございましょう。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
赤い電球が電柱の蔭に見え隠れして、
歪
(
ゆが
)
んだ十字架のような岐路の一方に、ひとり夜の心臓のように
疼
(
うず
)
いている。
あめんちあ
(新字新仮名)
/
富ノ沢麟太郎
(著)
お互いにあまり強く接吻し合ったものだから、二人ともその日一日じゅう前歯がズキズキ
疼
(
うず
)
いたくらいであった。
死せる魂:02 または チチコフの遍歴 第一部 第二分冊
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
それから彼が、脚を
捥
(
も
)
がれた昆虫が草の中をまごまごするように、お手前同様下らん連中の中を
疼
(
うず
)
くような悩みを背負って迷い歩くところを見てやろう。
決闘
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
水へ入るのは、まだいくらか肌寒く、歩くには暑いさんさんたる太陽の直射を浴びながらただもう夢中で、私は肉の
疼
(
うず
)
きだけをモテアマシ切っていたのです。
墓が呼んでいる
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
すでに幾度も苦い
汁
(
しる
)
を
呑
(
の
)
ませられた庸三の警戒の目の下に、やり場のない魂の
疼
(
うず
)
きを忍ばせている彼女は、すでにこの恋愛の前にすっかり打ち
踣
(
のめ
)
されていた。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
この二三年の月日でようやく
癒
(
なお
)
りかけた
創口
(
きずぐち
)
が、急に
疼
(
うず
)
き始めた。疼くに
伴
(
つ
)
れて
熱
(
ほて
)
って来た。再び創口が裂けて、毒のある風が容赦なく吹き込みそうになった。
門
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「そこがあたいの腕のあるところなのよ、ちゃんと療治していただいて、
疼
(
うず
)
きもとうに治っちゃった。」
蜜のあわれ
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
下腹や腰の
周囲
(
まわり
)
がズキズキ
疼
(
うず
)
くのさえ辛抱すれば、折々熱が出たり寒気がしたりするくらいに過ぎぬから、今のところではただもう
暢気
(
のんき
)
に寝たり起きたりしている。
深川女房
(新字新仮名)
/
小栗風葉
(著)
そして、彼女の胸はしだいに激しく
疼
(
うず
)
いてきた。彼女の両の目は、いつの間にか熱く潤んできていた。
恐怖城
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
根太が
疼
(
うず
)
いたり、匂いは花になくて鼻にあったりするのにくらべたら、いささか感情の上に一進歩を認めるべきであります。なおさらに数歩を進めている句の一例は
俳句とはどんなものか
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
わたくしは胸の底が
疼
(
うず
)
くような、なま温いような、
擽
(
こそばゆ
)
いような、……
小夜
(
さよ
)
ふけに寝床の中で耳を澄ましますと、わたくしの鼓動が優しくコトコトと鳴るのでございまス。
ノンシャラン道中記:01 八人の小悪魔
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
一足ごとに
疼
(
うず
)
く痛さ、それは全く弾傷よりも切り傷よりも烈しくて、果ては眼さえ
眩
(
くら
)
み出した。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
それも身内が
疼
(
うず
)
くような大きな歓びであったことはたしかだ、——子のためにはどんな辛労も
厭
(
いと
)
わないという、母親の愛とはこういう感動のなかから生れてくるのに違いない
菊屋敷
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
私はまたさらに寂しい
心地
(
ここち
)
に
滅入
(
めい
)
りながら、それでもやっぱり今柳沢に毒々しく侮辱された憤怒の
怨恨
(
うらみ
)
が、
嬲
(
なぶ
)
り殺しに
斬
(
き
)
り
苛
(
さいな
)
まされた深手の傷のようにむずむず五体を
疼
(
うず
)
かした。
うつり香
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
独り居室にいるときでも、夜、
牀上
(
しょうじょう
)
に横になったときでも、ふとこの屈辱の思いが
萌
(
きざ
)
してくると、たちまちカーッと、
焼鏝
(
やきごて
)
をあてられるような熱い
疼
(
うず
)
くものが全身を
駈
(
か
)
けめぐる。
李陵
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
無智とも
不憫
(
ふびん
)
とも言いようのない感じではないか。それにつけても、
呪
(
のろ
)
われた運命の子こそ哀れだ……悩ましさと自責の念から、忘れかけていた脊部肋間の神経痛が、また
疼
(
うず
)
きだした。……
死児を産む
(新字新仮名)
/
葛西善蔵
(著)
しかも、シュンシュンとその水は、自分の身体中で冷たく
漣
(
さざなみ
)
立てて
疼
(
うず
)
くのだ。
寄席
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
心の古傷も
疼
(
うず
)
き出すことがあったが、何事も過去のことゝ諦めて、研究に邁進し、やっと近頃悲しい記憶を下積にすることが出来、君たちの結婚の日取までうっかり忘れるところであったが
恋愛曲線
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
大地は雪に蔽われて、死んだように
寂然
(
ひっそり
)
している。彼女はいきなりその素足を氷のように冷たい、柔かな粉雪のなかへ一歩踏み
込
(
こん
)
だ。と、傷のように痛く
疼
(
うず
)
く冷感が、心臓のところまで上って来た。
初雪
(新字新仮名)
/
ギ・ド・モーパッサン
(著)
しだいしだいに悩ましさを増して彼の心を
疼
(
うず
)
かせていったのである。
カラマゾフの兄弟:01 上
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
並行して血を
滲
(
にじ
)
ませた幾条かの打ち創のあるものはひそやかに血潮を吹いてゐた。定は静かに
頭
(
こうべ
)
を垂れると次々にその創痕に唇を当てて行つた。その
味
(
あじわ
)
ひは塩辛く彼の胸には
苦艾
(
にがよもぎ
)
に似た悔恨が
疼
(
うず
)
いた。
水に沈むロメオとユリヤ
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
暑さ寒さに
疼
(
うず
)
きやまぬその傷跡から
原爆詩集
(新字新仮名)
/
峠三吉
(著)
その底に
疼
(
うず
)
きくるしむ
邪宗門
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
「だめだのう、まだおれは。あれを思い、これを思い。……ちょうどそちが
煩
(
わずら
)
っていた歯痛みとおなじような
疼
(
うず
)
きに終夜悩まされての」
私本太平記:09 建武らくがき帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
云い知れぬ神秘的な悩みに全身を
疼
(
うず
)
かせつつ、鎮守の森の行詰まりの細道を、降るような蝉の声に送られながら、裏山の方へ登って行った。
笑う唖女
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
殊
(
こと
)
に右の
腋
(
わき
)
の下が
疼
(
うず
)
いて、
肋膜
(
ろくまく
)
にでもなるのではないかと云う不安を感じたが、好い
塩梅
(
あんばい
)
にそれも数日間で直ってしまった。
細雪:02 中巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
と頭上にある青空が、さっと透き徹って光を放つ。(この心の
疼
(
うず
)
き、この幻想のくるめき)僕は眼も
眩
(
くら
)
むばかりの美しい世界に
視入
(
みい
)
ろうとした。
火の唇
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
(その時俺は高城を射つか黙って射たれるか、どちらを取るだろう?)彼はその事を考えたとき何故か
疼
(
うず
)
くような快感を苦痛と一緒に感じていた。
日の果て
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
時やんは、まだ、馬に乗って、郵便配達をしているのか知らん?——マンの胸の奥の奥で、ちくちく
疼
(
うず
)
くものがあった。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
もはや何の心労もなく、望みもなく
疼
(
うず
)
きもしない彼女には、額に触っている、冷たい手一つだけを覚えるのみであった。
白蟻
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
疼
漢検1級
部首:⽧
10画
“疼”を含む語句
疼痛
疼々
疼出
疼痛疼痛
疼通
疾疼
痛疼