びく)” の例文
袖なしの羽織を、ほかりと着込んで、腰に毛巾着けぎんちゃくのぞかせた……片手に網のついたびくを下げ、じんじん端折ばしょりの古足袋に、藁草履わらぞうり穿いている。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
以前変らぬ蝮捕り姿、腰にはびく、手にはかぎ、紺ずくめの裳束で、人を掻き分け境内を出たが、ションボリとして寂しそうだ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わたしの荷物の置いてある処に、きのう岩魚いわなを入れて貰ったびくがあります。あれをご苦労ながら持て来て下さい。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
そのため竹細工のわざにも見るべきものがあります。海辺でありますからつりで用いるびくなどにも美しい出来のを見かけます。竹細工の一つで「たけ子笠こがさ」と呼ばれているものがあります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
と五味君は少時しばらくうきを睨んでいて、一ぴきり上げた。それをびくに納めてから
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と今更ながらびくのぞくと、つめたいそにおいがして、ざらざらと隅に固まるものあり、方丈記にいわく、ごうなは小さき貝を好む。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「馬鹿なつらめ!」と叫んだが、叫んだ時には組紐のお仙、びくからまむしを引っ張り出し、ビューッとばかりに投げ付けていた。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
びくを拝見します」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あはれ、殊勝な法師や、捨身しゃしん水行すいぎょうしゅすると思へば、あし折伏おれふ枯草かれくさの中にかご一個ひとつ差置さしおいた。が、こいにがしたびくでもなく、草をしろでもない。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
呼吸いきを殺した組紐のお仙、びくから蝮を掴み出し、目付けられたら用捨はしない、投げ付けてやろうとひっ構えた。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
浜に引上げた船や、びくや、馬秣まぐさのようにちらばったかじめの如き、いずれも海に対して、われがおをするのではないから、もとより馴れた目をさえぎりはせぬ。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ポンとびくへ投げ込んだ。
隠亡堀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ガサリなどゝおとをさして、びく俯向うつむけに引繰返ひきくりかへす、と這奴しやつにしてらるゝはまだしものことつたうを飜然ひらりねて、ざぶんとみづはいつてスイとおよぐ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
きり田川たがわの水を、ほのじろい、ざるき/\、泡沫あわを薄青くすくひ取つては、細帯ほそおびにつけたびくの中へ、ト腰をひねざまに、ざあと、光に照らして移し込む。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
や、其時そのときびく足代あじろおつこちて、どろうへ俯向うつむけだね。其奴そいつが、へい、あしやしてぬま駆込かけこまぬがつけものだで、畜生ちくしやうめ、今夜こんやめをつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
分つた/\、えらいよおまいは——暗夜やみよの用心に月の光をすくつて置くと、ざるの目から、ざあ/\ると、びくから、ぽた/\流れると、ついでに愛嬌あいきょうはこぼれると、な。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それからびくに入れてある、あのしめじたけが釣った、沙魚はぜをぶちまけて、散々さんざ悪巫山戯わるふざけをした挙句が、橋のつめの浮世床のおじさんにつかまって、額の毛を真四角まっしかくはさまれた
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
片手にひっさぐべきびくは、十八九の少年の、洋服を着たのが、代りに持って、連立って、海からそよそよと吹く風に、山へ、さらさらと、あしの葉の青く揃って、二尺ばかりなびく方へ
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と言ふ、娘の手にしたびくあふれて、く影は、青いさゝがにの群れて輝くばかりである。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
綱もあり、立樹もあり、大きなびくも、またその畚の口と肩ずれに、船を見れば、苫いたり。あの位高かった、丘は近くかしらに望んで、崖の青芒あおすすきも手に届くに、婦人おんなたちの姿はなかった。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はじめのうち、……うをびくなか途中とちゆうえた。荻尾花道をぎをばなみち下路したみち茄子畠なすびばたけあぜ籔畳やぶだゝみ丸木橋まるきばし、……じやうぬますなどつて、老爺ぢゞい小家こやかへ途中とちゆうには、あなもあり、ほこらもあり、つかもある。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)