珈琲コーヒー)” の例文
マカラム街の珈琲コーヒー店キャフェ・バンダラウェラは、雨期の赤土のような土耳古トルコ珈琲のほかに、ジャマイカ産の生薑しょうが水をも売っていた。
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
珈琲コーヒーとキュラソオとが運ばれた。日下部太郎は、婦人達に向って二言三言毒のない冗談を云い、子爵と愉快そうに酒の品評を始めた。
伊太利亜の古陶 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
朝飯あさはん珈琲コーヒーもそこ/\に啜り終つて書齋の襖をあけると、ぼんやり天井を眺めて卷煙草を遠慮なしにふかして居た黒川は椅子から立ち
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
せっかく、果物を食って珈琲コーヒーをのんでしまった読者の舌の上へ、しつこい豚料理か何かを出して、後味をのこさせるようなものである。
「陰獣」その他 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
が、彼らはみなこの辺の農民らしく、モンパルナスの珈琲コーヒー店で仕上げを済ましたはずの私の仏蘭西フランス語は、彼等には通じそうもなかった。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
そして私はイスカーキの持って来た冷たい珈琲コーヒーを息をもつかずに飲み下して、やっと獣の臭さ、息づまるような密閉した室の熱さ
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
されど濃厚なるビステキにてひたと打ち切りてはかへつて物足らぬ故更に附物つけものとして趣味の変りたるサラダか珈琲コーヒー菓物くだものの類を出す。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
と、青谷の近くへ来た時に、野村が突然、如何です、珈琲コーヒーを一杯さし上げたいから皆さんでお立ち寄り下さいませんか、と云い出した。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
サン・ティヤサント街へ行ってプログレー珈琲コーヒー店にはいり込み、あるいはマテュラン街へ行ってセー・ビヤール珈琲店にはいり込んだ。
九時過になるまでもデザァトは出されなかつた。そして十時には、まだ下僕しもべたちがお盆だの珈琲コーヒーの茶碗だのを持つてあちこちしてゐた。
食事のあとで、応接間に使っている部屋へ行って珈琲コーヒーすすっているところへ隣家の和田という神戸で貿易商をやっている男がやって来た。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
軽食ランチの後で上等の珈琲コーヒーとリキュー酒の振舞がすむと二人の客は庭と図書室とそれから家政婦——女は少なからざる威風を備えた
(河口は曲がりくねること蛇のごとく、市街は浅いなぎさに連なって建つ。埠頭のあたりの舟は、すべてが珈琲コーヒーを積んで行くのである。)
南半球五万哩 (新字新仮名) / 井上円了(著)
と、立ちとまつて珈琲コーヒー皿のやうにまん円く、おまけに珈琲皿のやうに冷たいお月様を見てゐるうち、野尻氏は何だか歌よみらしい気になつた。
無学なお月様 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
吾々が広幅布やリンネルやモスリンや、否むしろ茶や砂糖や珈琲コーヒーの、十分な供給を得るか否かは、比較的には全く大して重大な問題ではない。
つぶれた棘茎きょくけいや葉が泥水に腐り、その池のような溜りが珈琲コーヒー色をしている。しかし、そこから先は倒木もあって、わずかながら道がひらけた。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
先日の晩、私はある珈琲コーヒー店へはいりました。この種の珈琲店では、変なふうにではあるがかなりいい音楽がやられています。
そのすぐ近くには、日本で喜ばれるコナ珈琲コーヒーの産地、コナの部落があって、栽培はほとんど日本人の手でなされている。
黒い月の世界 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
眼の前に並んでいる四種の料理……「豆スープ」と「黒麺麭パン」と「ハムエッグス」と「珈琲コーヒー」をあつらえたのか……一つも頭の中に残っていなかった。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ウサギ屋のモナカを食い濃い珈琲コーヒーをよく呑んだ。そうして朝は大概カレーライスの食卓だったことを忘れない。食慾しょくよくなどはほとんどなかった記憶である。
青い絨毯 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
食事は路すがら麺麭パンと冷し肉ぐらいを買って来るのですから、唯だ瓦斯ガス珈琲コーヒーを煮るだけで簡単に済まされるのです。
麺麭パンを厚く切りそれに牛酪バタとジヤムとを塗つて、半々はんはんぐらゐの珈琲コーヒーを一わん飲ませた。その狭い台所兼食堂の卓の近くに、カナリヤが一羽飼つてある。
日本媼 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ミルクもバタもチーズもパンも珈琲コーヒーもない——今迄もかつて無かった——国ということを考えるのには骨が折れる。
避け難い危急が切迫しているかのように心をおののかせながら、珈琲コーヒーを注いでまわる。小さい丸い水溜りが光を反射し、そして、茶碗の中で湯気を立てる。
さうして重い緑色のペパミントと濃い珈琲コーヒーとを併せ飲んだ。欄千の日差はやがて正午に近いといふ事を知らした。
市街を散歩する人の心持 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
部屋一ぱいの男客、女客の姿態は珈琲コーヒーの匂いと軽い酒の匂いに捩れ合って、多少醗酵しかけている。弾む話。——
巴里のキャフェ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
オートミルとフライエッグスと一、二杯の珈琲コーヒー。どうにも洋式の朝飯は日本人にはしっくりゆかないものらしい。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
彼はそれが自分自身への口実の、珈琲コーヒー牛酪バターやパンや筆を買ったあとで、ときには憤怒のようなものを感じながら高価な仏蘭西香料を買ったりするのだった。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
珈琲コーヒー店の軒には花樹が茂り、町に日蔭のある情趣を添えていた。四つ辻の赤いポストも美しく、煙草屋の店にいる娘さえも、あんずのように明るくて可憐かれんであった。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
茶碗へ顔を突つ込むやうにして珈琲コーヒーすすりながら、俺は母を憎んでゐるのではないと自分に言ひきかせた。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
が、絶望的な勇気を生じ、珈琲コーヒーを持って来て貰った上、死にもの狂いにペンを動かすことにした。二枚、五枚、七枚、十枚、——原稿は見る見る出来上って行った。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
志士やごろつきでにぎわいかえる珈琲コーヒー店、大道演説、三色旗、自由帽、サン・キュロット、ギヨティン、そのギヨティンの形になぞらえて造った玩具や菓子、囚人馬車
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「では一度おびしたらどう。」と彼女が答へた。道助はすぐに同意した。彼女はその折りに食卓に並べる珈琲コーヒー茶碗や小皿のことなどに就て細々こま/\と彼に相談し初めた。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
何しろ昼飯もわすれて、五時間ちかくガラス棚をのぞき廻つてゐたのだからね。僕は大急ぎでトーストと珈琲コーヒーをたのむと、誰もゐないサロンで満洲日報を読みはじめた。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
暫時しばし、三人は黙した。ケンチャンが白いものを着て、髪の毛にもくしの歯を見せて、すましかえって熱い珈琲コーヒーをはこんで来た。三人はだまって角砂糖を入れて掻廻かきまわした。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そこでは休憩室で、珈琲コーヒーとカステイラを頂戴する。立派な椅子にも腰かけられる。バザアものぞく。
私を見るや彼女の情熱死物狂い(その頃喫茶店インタナショナルの芸術家は珈琲コーヒーとフランス菓子に驚歎きょうたんして昆虫類が今後人間に代ってエゴイズムと排他主義、実行する。)
恋の一杯売 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
ごろに、坪井博士つぼゐはかせられたが、發掘はつくつよりは、焚火たきびはうさかんで格別かくべつことはなく、談話だんははうにばかり熱中ねつちうしてると、兒島邸こじまてい侍女じぢよ牛乳入ミルクいり珈琲コーヒー持運もちはこんでた。
ふと、彼は、彼をみつめている一つの眼眸まなざしに気づいた。生温なまぬるくなった珈琲コーヒーにゆっくりと手をのばして、彼は、同じ窓ぎわの、五、六メートル先きのテーブルのその女をみた。
十三年 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
それから菊の話と椿つばきの話と鈴蘭すずらんの話をした。果物の話もした。その果物のうちでもっとも香りの高い遠い国から来たレモンのつゆしぼって水にしたたらして飲んだ。珈琲コーヒーも飲んだ。
ケーベル先生 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
本郷通りにある田村というがらんとした喫茶店の奥の方のテーブルに三人がすわって珈琲コーヒーすすった。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
大塚さんはその食卓の側に坐って、珈琲コーヒーでも持って来るように、と田舎々々した小娘に吩咐いいつけた。廊下を隔てて勝手の方が見える。働好きな婆さんが上草履うわぞうりの音をさせている。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ぼんやり傍へ来た小さなウエトレスに一碗の珈琲コーヒーを註文すると更にもう一度鏡を見た。
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
寒そうにたぼがそそけ立っていた。巨大な建物の前を過ぎた。明治銀行に相違なかった。地下室へ下りて行く夫婦連があった。食堂で珈琲コーヒーを啜るのだろう。また巨大な建物があった。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこへ私を連れ込んで、彼は直ぐに高粱コーリャンを焚いて湯を沸かした。珈琲コーヒーに砂糖を入れて飲ませてくれた。前方では大砲や小銃の音が絶え間なしにきこえる。雨はいよいよ降りしきる。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おそろしく熱い珈琲コーヒーへ、くちびるを近づけただけで、理平は、ふきげんに下へおいて
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歸路に珈琲コーヒー店に立寄りしに、幸にベルナルドオに逢ひぬ。羨むべき友なるかな。彼はアヌンチヤタに近づき、アヌンチヤタともの語せり。友のいはく。アントニオよ。奈何いかなりしぞ。
薄暗い珈琲コーヒー店の片隅で考える事はにもつかない外遊の空想などばかりであった。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
人に睡眠があり、夜の次には朝が来るという自然の摂理は妙にして有難いものに思われます。散歩から帰って朝食というわけです。私はこの下宿には朝の珈琲コーヒーとパンだけを頼んでいます。
聖アンデルセン (新字新仮名) / 小山清(著)
かつ子のお店と云ふのは、珈琲コーヒー店でも酒場でもないその中途を行つた茶房と称するもので、銀座で盛大に経営してゐた。茶房なんていやな名前だ。高い店なので、自分なぞは余り行けない。
現代詩 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)