浪打際なみうちぎわ)” の例文
拂曉ふつげう目醒めさめて、海岸かいがん飛出とびだしてると、櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさ日出雄少年ひでをせうねん武村兵曹等たけむらへいそうらすで浪打際なみうちぎわ逍遙せうえふしながら、いづれも喜色滿面きしよくまんめんだ。
きゃッ、と云うと、島が真中まんなかから裂けたように、二人の身体からだは、浜へも返さず、浪打際なみうちぎわをただつぶてのように左右へ飛んで、裸身はだかで逃げた。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浪打際なみうちぎわあるいたようにかんじたのはホンの一瞬間しゅんかん私達わたくしたちはいつしか電光でんこうのように途中とちゅうばして、れいのおみや社頭しゃとうっていました。
にぎやかで面白おもしろそうな海水浴場のほうは素通りにして、荒涼こうりょうとした砂っ原に降りると、大学生は上原の腕をとって、浪打際なみうちぎわのほうへゆきます。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
潟と北海の浪打際なみうちぎわとの間、広きは百間狭きは五十間ばかり、高潮の時は外波が湖中に打ち入り、駅路の交通ができなかった。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
伊豆の港々へ寄って行く船だ。二人は旅舎の前のがけを下りて、浪打際なみうちぎわの方まで下りた。踏んで行く砂は日を受けて光るので、お新は手にした洋傘こうもりをひろげた。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それが静かな潮風しおかぜに、法衣ころもの裾を吹かせながら、浪打際なみうちぎわを独り御出でになる、——見れば御手おてには何と云うのか、笹の枝に貫いた、小さい魚を下げていらっしゃいました。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
日が暮れてあたりが薄暗くなるといよいよ朔風さくふうが強く吹きつけ、眼をあいていられないくらいの猛吹雪になっても、金内は、鬼界きかいしま流人俊寛るにんしゅんかんみたいに浪打際なみうちぎわを足ずりしてうろつき廻り
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
浪打際なみうちぎわ綿わたをばつかねたような白い波、波頭なみがしらあわを立てて、どうとせては、ざっと、おうように、重々おもおもしゅう、ひるがえると、ひたひたと押寄せるが如くに来る。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
せてはかえす七はま浪打際なみうちぎわ貝拾かいひろいもわたくしなによりきなあそびのひとつでございました。
峠から見る、霧の下だの、やみ浪打際なみうちぎわ、ぼうとあかりうつところだの、かように山の腹を向うへ越したの裏などで、聞きますのは、おかしく人間業にんげんわざでないようだ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もなく良人おっと姿すがたがすーッと浪打際なみうちぎわあらわれました。服装ふくそうその不相変あいかわらずでございますが、しばらくいくらか修行しゅぎょうんだのか、何所どことなく貫禄かんめがついてりました。
其処そこへ来ると、浪打際なみうちぎわまでもかないで、いた草臥くたびれたさまで、ぐッたりと先ず足を投げて腰をおろす。どれ、貴女あなたのために(ことづけ)の行方ゆくえを見届けましょう。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浅黄あさぎの帯に扱帯しごきが、牛頭ごず馬頭めず逢魔時おうまがとき浪打際なみうちぎわ引立ひきたててでもくように思われたのでありましょう——わたくしどもの客人が——そういう心持こころもちで御覧なさればこそ
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
婦人おんなただ御新姐ごしんぞ一人、それを取巻く如くにして、どやどやと急足いそぎあしで、浪打際なみうちぎわの方へ通ったが、その人数にんずじゃ、空頼そらだのめの、余所よそながら目礼どころの騒ぎかい、貴下あなた、その五人の男というのが。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人は此処ここでもあとになり先になり、脚絆きゃはんの足を入れ違いに、かしらを組んで白波しらなみかつぐばかり浪打際なみうちぎわ歩行あるいたが、やがてその大きい方は、五、六尺なぎさはなれて、日影の如く散乱ちりみだれた、かじめの中へ
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
町を離れてから浪打際なみうちぎわまで、およそ二百歩もあった筈なのが、白砂しらすなに足を踏掛ふみかけたと思うと、爪先つまさきつめたく浪のさきに触れたので、昼間は鉄のなべで煮上げたような砂が、皆ずぶずぶにれて、ひやっこく
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)