楽屋がくや)” の例文
旧字:樂屋
不義の密通をした奥女中なにがしの顔となり、また柳絮と思ったその首は幾年の昔堺町さかいちょう楽屋がくや新道辺じんみちあたり買馴染かいなじんだ男娼かげまとなっていた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
やがて拍子木ひょうしぎって、まくがりますと、文福ぶんぶくちゃがまが、のこのこ楽屋がくやから出てて、お目見めみえのごあいさつをしました。
文福茶がま (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
いえいえ、うそでもゆめでもござんせぬ。あたしゃたしかに、このみみいてました。これからぐに市村座いちむらざ楽屋がくやへお見舞みまいってとうござんす。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
次の幕合まくあひにお糸さんは、子供にと云つておもちやの箱を買つて来てくれた。そして此楽屋がくや裏にお岩様を祭つてあるからお参りにいらつしやいと誘つた。
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
が、実際に文庫の編輯にあずかっていたのは楽屋がくや小説の「紅子戯語こうしけご」に現れる眉山びざんさざなみ、思案、紅葉、つきまどか香夢楼緑かむろみどり、及び春亭九華しゅんていきゅうかの八名であった。
舞台ぶたい花道はなみち楽屋がくや桟敷さじきのるゐすべて皆雪をあつめてそのかたちにつかね、なりよくつくること下のを見て知るべし。
そして開演中の竜宮劇場の楽屋がくやへノコノコと入っていった。赤星ジュリアの主演する「赤いいちご」が評判とみえて、真昼から観客はいっぱい詰めかけていた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ただその徳川が開国であると云うのは、外国交際のしょうあたって居るから余儀なく渋々しぶしぶ開国論にしたがって居たけの話で、一幕まくっ正味しょうみ楽屋がくやを見たらば大変な攘夷藩だ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
熱海を去ッたのち、一時の寄るべに窮して、江戸にいたころ贔屓ひいきにしていた染之助一座ののぼりを見かけ、その楽屋がくやへ身を頼って旅をいて歩いたのが因縁でありました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見せかけのこの親子連が成功するかしないかと楽屋がくやを見抜いた商売女たちや店の連中、定連じょうれんのアパッシュまでがひそかに興味をもって明るい電気の下で見まもっていた。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
二十分の後此楽屋がくやから現われ出た花嫁君はなよめぎみを見ると、秋草の裾模様すそもようをつけた淡紅色ときいろの晴着で、今咲いた芙蓉ふようの花の様だ。花婿も黒絽紋付、仙台平の袴、りゅうとして座って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それを耳にも入れないで、印度人は、槍を突いて跛足びっこを飛ばして楽屋がくやの方へ逃げ込みます。
水色の肩衣をつけ、袴をはいて、手に扇を持った金五郎は、楽屋がくやで、そういって笑った。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
その奥に楽屋がくやのような部屋があり、そこに八人の少年がサルの毛皮をきて、ゴリラ大王のけらいになって、ジャングルへ出ていくということも、すっかりわかってしまったのです。
魔法人形 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
高座には明るいつりランプの下に、白い鉢巻をした男が、長い抜き身を振りまわしていた。そうして楽屋がくやからは朗々と、「踏み破る千山万岳の煙」とか云う、詩をうたう声が起っていた。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
禰宜 ああ、いやいや、さような斟酌しんしゃくには決して及ばぬ。料理かた摺鉢すちばち俎板まないたひっくりかえしたとは違うでの、もよおしものの楽屋がくやはまた一興じゃよ。時に日もかげって参ったし、大分だいぶ寒うもなって来た。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「誰がこんなことを、冗談に言うものですか。兵二郎さんが殺された晩も、太之助さんが眼を廻した晩も、ここが楽屋がくやですもの。私は喜三郎さんから眼を離さなかったとしたら、どんなものです」
団長は、新吉を楽屋がくやへつれて行くと、またひどくなぐりました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
さわぎやみし曲馬師チヤリネし楽屋がくやなる幕の青みを
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
舞台ぶたい花道はなみち楽屋がくや桟敷さじきのるゐすべて皆雪をあつめてそのかたちにつかね、なりよくつくること下のを見て知るべし。
本職の文壇人として、舞台あるいは幕裏のあるいは楽屋がくやの人間として扱われるのをひどくイヤがっていた。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
その翌日一本の手紙が楽屋がくやのお粂に届きました。見ると馬春堂とあるので、江戸表にいた頃から気に食わないやつ、何をいって来たかと眉をしかめて読んでみると——です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや客衆きゃくしゅの勤めには傾城けいせいをして引過ひけすぎの情夫まぶを許してやらねばならぬ。先生は現代生活の仮面をなるべくたくみかぶりおおせるためには、人知れずそれをぬぎ捨てべき楽屋がくやを必要としたのである。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのうちに頭取とうどりける、弟子達でしたちあつまるで、たおれた太夫たゆうを、鷺娘さぎむすめ衣装いしょうのまま楽屋がくやへかつぎんじまったが、まだおめえ、宗庵先生そうあんせんせいのおゆるしがねえから、太夫たゆう楽屋がくやかしたまま
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ゾウやライオンやトラなどをいれるための、頑丈がんじょうな鉄のおりのついた大トラックもならんでいました。大型バスは、サーカスの曲芸師きょくげいしたちが寝とまりをしたり、楽屋がくやにつかったりしているのです。
サーカスの怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
諸肌もろはだぬぎになった金五郎も、楽屋がくやの荷物運びだしに、加勢をした。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そして舞台から二本の花道が、楽屋がくやの方へわたされていた。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
きのう舞台ぶたいたおれたまま、いまいままで、楽屋がくやてえたんじゃないか。それをおまえさん、どうでもうちかえりたいと駄々だだをこねて、とうとうあんな塩梅式あんばいしきに、お医者いしゃせてかえ途中とちゅうだッてことさ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
上町かみまちの芝居小屋だ——岩井染之助いわいそめのすけ楽屋がくやから出たんだとよ!」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)