くすのき)” の例文
「これからはまた新田の力で宮方も勢いを増すでおじゃろ。くすのき北畠きたばたけが絶えたは惜しいが、また二方が世にすぐれておじゃるから……」
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
其後、この地下道へ、糞尿を流し込んで、寄手をして辟易へきえきせしめたりした。くすのき流の防戦ぶりには信綱以下大いに困却したに相違ない。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
泣くなよ、醤。お前は小便小僧しょうべんこぞう時代から泣きべそじゃったな。東にくすのきの泣き男あり、西に醤買石ありで、ともに泣きの一手ひとてで名を
そこで気が付いたのが筆談だ。紙と鉛筆を取り寄せ、正成まさしげ公から思いついて「くすのき」の字を大書し、箱を叩いて首をかしげて見せた。
用材はくすのきである。それは地車の唐獅子からじしの如く、眼をむいて波の上にどっしり坐り、口を開いて往来をにらんでいるのであった。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
境内一面のくすのきの下枝と向い合って、雀の声のやかましい藁葺わらぶき屋根が軒を並べている。御維新以前からのまんまらしい、陰気なジメジメした横町だ。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
われわれがおぼえてからでも、くすのきかやの木片が蚊遣用として荒物屋に並んでいた外に、普通の木屑なども盛に用いられた。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
くすのきさんは真宗寺しんしゆうでら慈光寺じくわうじの娘さんでした。私はかう書き初めてその頃楠さんの年齢としはいくつぐらゐであつたのであらうと思つて見ますがわかりません。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
武家時代以前へ——もっとくわしく言えば、くすのき氏と足利氏との対立さえなかった武家以前への暗示がここに与えてある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かけられた其許。その御恩顧やらまた、真田昌幸が次男幸村こそは当代のくすのきか孔明かと、嘱目しょくもくされておられるだけに
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
安「てまえ馬を引いておれの隠家かくれがまで来い、あの明神山の五本杉の中に一本大きなくすのきがある、其の裏の小山がある処に、少しばかり同類を集めているんだ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
日本の兵法がどんなにバカげたものかと云へば、甲州流だのくすのき流だの、みんな無手勝流、つまり実力なくして、戦はず勝つ、あるひはゴマカシて勝つ戦法。
散る日本 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
行ってみると、くすのきの大木の森の中に葛の葉稲荷いなりほこらが建っていて、葛の葉ひめの姿見の井戸と云うものがあった。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
上は天文下は地理、武芸十八般伊尹いいん両道、陰陽の原理人相手相、占術せんじゅつ禁厭まじない方宅ほうたくから、仏教儒教神道に及び、兵法ではくすのき流、究めていないものはない。そういう俺だ。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「まア、不足を言ふなよ。足りない樣な顏をして、相手に油斷をさせるのは、孔明こうめいくすのき以來の兵法だ」
国泰寺の大きなくすのきも根こそぎ転覆していたし、墓石も散っていた。外郭だけ残っている浅野図書館は屍体収容所となっていた。路はまだ処々で煙り、死臭に満ちている。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
上り込むと、これが狭い廊下を一つ置いた隣座敷へ陣取って、危いわ、と女の声。どたんとふすまつかる音。どしん、と寝転ぶ音。——くすのき正成まさしげがーと梅ヶ手水鉢ちょうずばちで唄い出す。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
当時どころではありません。明治の聖代の今日だって、犬塚信乃いぬつかしのだの犬飼現八いぬかいげんはちだの、八郎御曹司為朝はちろうおんぞうしためともだの朝比奈三郎あさいなさぶろうだの、白縫姫しらぬいひめだのくすのきこまひめだののような人は、どうも見当りません。
まるうちに出づれば日比谷ひびやの空に火事の煙のがるを見る。警視庁、帝劇などの焼け居りしならん。やつとくすのきの銅像のほとりに至る。芝の上に坐りしかど、孫娘のことが気にかかりてならず。
が、紙面に載ってるのはことごとく匿名だから、誰が誰であるか今では模索しがたい。が、万更まんざらくすのきの藁人形らしくもなかったので、今なら大方後援者とか維持会員とかいうような連中であったろう。
裸体はだかの雲助が岩の上からバタバタと突き落されたところは、ちょうど千破剣ちはやの城をせめた北条勢が、くすのきのために切岸きりぎしの上から追い落されるような有様ですから、目をすまして見物していると
壁に詰った印肉の山の下で、墨が石垣のように並んでいた。仏像を刻む店々の中からくすのきの割れる音が響いて来た。人波の肩の間で、首環売りがざくざくと玉を叩いた。参木は秋蘭の方を見た。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
僕は終日呆然ぼうぜんとして庭の向うのくすのきの大木が今にもちぎれそうに枝葉をふきなびかされるのを、雨を含んだ低い雲がすぐ頭の上と思えるくらいのところを速くひっきりなしに飛んでゆくのを眺め
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
案内者のくすのき語る花見かな
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
その栗原山には今、近頃の孔明こうめいくすのきの再来かのようにいわれている斎藤家の旧臣、竹中半兵衛重治たけなかはんべえしげはるが閑居している。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
茶の間の前をおおう深く明るい楓の葉蔭は捨吉の好きな場所だ。その幹の一つ一つは彼に取っては親しみの深いものだ。楓の奥には一本のくすのきの若木も隠れている。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お仕事にかかられまして五日目には立派に仕上ったのをくすのきの一枚板に貼り付けておしまいになりました。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……それよりもくすのき氏の姫が、田舎武士いなかざむらいをなぶるらしい。——大森彦七——そばへ寄ると、——便びんのういかがや——と莞爾にっこりして、直ぐふわりと肩にかかりそうで、不気味なうちにも背がほてった。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
屏風を建廻たてまわして、武張ったお方ゆえ近臣に勇ましい話をさせ昔の太閤たいこうとか、又眞田さなだは斯う云う計略はかりごとを致しました、くすのきは斯うだというようなお話をすると、少しはまぎれておいでゞございます。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
後醍醐ごだいご天皇の延元えんげん元年以来五十余年で廃絶はいぜつしたとなっているけれども、そののち嘉吉かきつ三年九月二十三日の夜半やはんくすのき二郎正秀と云う者が大覚寺統だいかくじとうの親王万寿寺宮まんじゅじのみやほうじて、急に土御門つちみかど内裏だいりおそ
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
南朝の回想、芳野よしのの懐古、くすのき氏の崇拝——いずれも人の心の向かうところを語っていないものはなかった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
外から帰って来たばかりの思想係りのくすのきという刑事を呼んで一所いっしょに出かけようとした。
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「亭々の一じゅは、南の木。このあたりに、くすのきという者がいるのであろう」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
捨吉は異様な、矛盾した感じに打たれて、青桐の下から庭のすみの方のかえでくすのきの葉の間へ行って隠れた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あまりの口惜くやしさに、咲耶子さくやこはさらに再三再四、胡蝶こちょうじんを立てなおして、応戦おうせんをこころみたが、こなたでほのおの陣をしけば、かれは水の陣を流して防ぎ、その軍配ぐんばい孫呉そんご化身けしんか、くすのきの再来かと
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大きなくすのき日陰ひかげへみんなかたまり合った。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)