根太ねだ)” の例文
内地では根太ねだかまちの上に板を張りつめるのが普通であるが、此処では根太や框の間に一尺から一尺五寸幅ぐらいの板を切って張りつめる。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それでこの家の根太ねだにまさかひびも入りますまいからね。ご随意にせりふの一つぐらい言ってご覧になるのも結構でしょうよ。
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
見れば畳も持出して売りやアがったと見えて、根太ねだ処々ところ/″\がれて、まア縁の下から草が出ているぜ、実にうもひどいじゃアないか、えゝおい
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あと十日とはかないで、小石川柳町から丸山の窪地くぼちへ水が出た時、荷車が流れたのが、根太ねだつかって、床を壊すと、くだんの婆は溺れて死んだ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「これの兄が独逸ドイツから帰る時、ついでに買って来たんです。こゝへ持ち込むのに大変でした。そら、畳が少し凹んでいるでしょう。根太ねだが抜けたんです」
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ところへ汽車がごうと鳴って孟宗藪のすぐ下を通った。根太ねだのぐあいか、土質のせいか座敷が少し震えるようである。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのあはれなる自然児をして、小屋の扉を破り、小屋の根太ねだを壊して、その夫の死骸を焼く材料を作らせるとは、何たる悲しい何たる情ない事であらう
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
この古い家のしんとした空気は、暴風雨あらしのくる前駆まえぶれに似ている。……それもよかろう、土肥家の根太ねだも古すぎた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
車之助は、——! まで叫んで一同みなの耳へ届かせないうちに、根太ねだから生えたように、部屋の敷居の上にチョコナンと、一個の首となって鎮座ましましていた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その重量で根太ねだが抜けて、家がひっくり返ったというのは、かなり行き渡ったデマであるが、とにかく、そのために特別の物置きを新築、十冊あまりの著書も書き
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
そこには古い彼の六畳の書斎だけが、根太ねだや天井を修繕され、壁を塗りかえられて残されてあった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
根太ねだたヽみ大方おほかたち落ちて、其上そのうへねずみの毛をむしちらしたやうほこりと、かうじの様なかびとが積つて居る。落ち残つた根太ねだ横木よこぎを一つまたいだ時、無気味ぶきみきのこやうなものを踏んだ。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
あぶない足を踏み締めると、これはしたり、自分の風合羽かざがっぱの裾がお堂の根太ねだにひっかかっている。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
降った雪は北向の屋根や庭に凍って、連日溶くべき気色もない……私は根太ねだの下から土と共に持ち上って来た霜柱の為に戸の閉らなくなった古い部屋を見たことがある。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
床下の通風をよくして土台の腐朽を防ぐのは温湿の気候に絶対必要で、これを無視して造った文化住宅は数年で根太ねだが腐るのに、田舎いなかの旧家には百年の家が平気で立っている。
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ところが、重味で真ん中の根太ねだへこんで困りましたが、それなりでとうとう翌年の二月に仕上げ、農商務省へ納めました。やっとシカゴの博覧会出品に間に合ったことであった。
兼助さんなんぞは、いい根太ねだを知つとるけに、やつぱしわしらなんぞとは違ふんだな。わしらはまだ慣れんもんぢやけに、一向に根太も見つかりよらん……どうかな、兼助さん。
生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
なるほど家は新建ちであるから、明るいと云えないことはないが、柱の細い、根太ねだの悪い、見るからに粗末な借家普請ぶしんで、子供たちが梯子段はしごだんけ降りてさえ家じゅうがぐらぐらする。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この伽藍は熱帯のなんとかいふ特殊な材木を用ひてゐるさうですが、まづ用材にからまることは度外視して、ここに仮りに根太ねだ垂木たるきや棟によつてぎつしりつまつたひとつの脳味噌を想像します。
女占師の前にて (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
畳もなければ根太ねだいである。
折々根太ねだをも軋ますばかりだが
所へ汽車が轟と鳴つて孟宗藪のすぐしたを通つた。根太ねだの具合か、土質どしつ所為せゐか座敷が少しふるへる様である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
彼女は、数年前、江戸おかまいになる先から、そっと祠内の根太ねだをはがし根気よく地下を掘りさげて、床したの土中に、ちょっとしたむろを作っておいたのである。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
家々の根太ねだよりも高いのであるから、破風はふの上で、切々きれぎれに、かわずが鳴くのも、欄干らんかんくずれた、板のはなればなれな、くいの抜けた三角形の橋の上にあしが茂って、虫がすだくのも
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
柳田はついにその長剣を背中へ廻して、低い縁の根太ねだの下まで探してみたけれども見出せないのです。白雲も同情して、そこらあたりをあさって見てやったけれども、発見することができません。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
客「相手の武士さむれえは三人だ、関取がどっとって暴れると根太ねだが抜けるよ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
けれど、今途中で聞くと、娘つ子奴、一人で、その死骸を背負しよつて、其小屋の裏山にのぼくつて、小屋の根太ねだやら、扉やらを打破ぶちこはして、火葬にしてるといふ事だが……此処からけむ位見えるかも知れねえ
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
これは真正の意味において飛起きたんだから、どしんと音がして、根太ねだが抜けそうに響いた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
坐ってる人が、ほんとに転覆ひっくりかえるほど、根太ねだから揺れるのでない証拠には、私が気を着けています洋燈ランプは、躍りはためくその畳の上でも、じっとして、ちっとも動きはせんのです。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いつのまにやら床板がめくりとられて、ぱっくりと口をあいた根太ねだの大穴。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
事実、七兵衛の前に、うずたかく積み上げられた金銀は、お座の冷めるほど、根太ねだの落ちるほど、大したもので、隣りの千隆寺から持って来たお賽銭さいせんを、ひっくり返しただけではこうはゆきますまい。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
根太ねだゆるんだはお互様じゃが、わしとこなど、随分と基礎どだいも固し、屋根もどっしりなり、ちょいとや、そっとじゃ、流れるのじゃなかったに、その時さの、もう洪水みずが引き際というに
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
怪しい普請ふしんと見えて根太ねだの鳴る音が手に取るように聞える。例の壁紙模様のふすまく。二畳の玄関へ出て来たなと思うもなく、薄暗い障子の影に、肉の落ちた孤堂先生の顔がひげもろともに現われた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
元來ぐわんらいきしやなぎは、家々いへ/\根太ねだよりもたかいのであるから、破風はふうへで、切々きれ/″\に、かはづくのも、欄干らんかんくづれた、いたのはなれ/″\な、くひけた三角形さんかくけいはしうへあししげつて、むしがすだくのも
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
はるか突当り——崖を左へけた離れ座敷、確か一宇ひとむね別になって根太ねだの高いのがありました、……そこの障子が、薄い色硝子いろがらすめたように、ぼうとこう鶏卵色たまごいろになった、あかりけたものらしい。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)