暗示あんじ)” の例文
僕は以前架上の書籍を買ひ入れた年月ねんげつの順にしるし、その書籍の持ち主の一生の変化を暗示あんじする小品を書いて見ようかと思つた。
蒐書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし平八郎の言ふことは、年来暗示あんじのやうに此いさんの心の上に働く習慣になつてゐるので、ことわることは所詮しよせん出来ない。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
津田の頭に二つのものが相継あいついでひらめいた。一つはこれからここへ来るその吉川夫人をうまく取扱わなければならないという事前じぜん暗示あんじであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
問題もんだい各自かくじその懷抱くわいほうするところ遠慮えんりよなく披瀝ひれきしたところのものが、所謂いはゆる建築けんちく根本義こんぽんぎ解決かいけつたいして如何いかなる暗示あんじあたへるか、如何いかなる貢献こうけんいたすかである。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
古事記こじき神代しんだいまきに、豐玉姫とよたまひめからおうまれになられたお子様こさまを、いもうと玉依姫たまよりひめ養育よういくされたとあるのは、つまりそうった秘事ひじ暗示あんじされたものだとうけたまはります。
事上錬磨という言葉を通じて、権力に対する反抗の機会を暗示あんじされたかのような気持ちでいたのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
いつしか、そらくもは、どこへか姿すがたしてしまいました。もし、がつかなかったら、永遠えいえんられずにしまったような、それは、はかないてん暗示あんじでありました。
深山の秋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
が、こゝを中心ちゆうしんとしてると、どうしても良經よしつねうたから、暗示あんじつくつたにちがひありません。そして良經よしつねうた氣分きぶんをすっかりつて、一種いつしゆうたまとめてゐます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
で、たとへば「おもはぬ大利たいりあり」とか「物事ものごと蹉跌さてつあり、西方せいはうきやう」などといふ、かんがへれば馬鹿ばからしい暗示あんじ卓子テーブルかこ氣持きもちへんうごかすことわれながらをかしいくらゐだ。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
かつじやうぬまふち旅僧たびそうくちから魔界まかい暗示あんじつたへられたゝめに——いたいまはしかつたので、……権七ごんしち取寄とりよせさした着換きがえきぬは、あたかほこら屋根やねふぢはなきかゝつたのを
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
予言よげんは、よき未来みらい暗示あんじであり、いましめのなぞである。かならずしも、文字のおもてにあらわれている意味ばかりがまことなのではない。そのうらの意味もふかく味読みどくしてみねばならぬ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この答へには、容易ならぬ暗示あんじがあるとは、當の忍にも氣が附かなかつたでせう。
ああ暗示あんじ……えもわかぬ夢の象徴シムボル
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
勝頼かつより伊那丸いなまるのことを、未然みぜん暗示あんじした一ぎょうの文字はいま思えばあたっていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だからこの二首にしゆのおうたも、じつ後世こうせいのもので、なんだか、へんな暗示あんじかんじさせるところからして、しぜん、畝傍山うねびやま・さゐかは——さゐかはは、いすけよりひめのお屋敷やしきのあつたところ——などいふ地名ちめいから
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
八五郎の報告は思いの外奇っ怪で、そして暗示あんじ的でした。
八五郎の報告は思ひの外奇つ怪で、そして暗示あんじ的でした。