旦夕たんせき)” の例文
真に千古末だ見ざるの凶、万代遭わざるの禍、社稜宗廟しゃしょくそうびょう、危、旦夕たんせきに在り。乞う皇上早く宮眷きゅうけんひきいて、速やかに楽土にうつれよ云云。
蓮花公主 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
わしは早速試みて見た。長江美作みまさかが気の毒にも、らいを病んで命旦夕たんせき、そこで一粒を投じてやった。ところがどうだ。ところがどうだ!」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「大きな声をしなさんな。じつは、宋公明そうこうめいさまが云々しかじかなわけで、めい旦夕たんせきにせまっている。あっしと一しょに、すぐ行っておくんなさい」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今、迷信の弊害は旦夕たんせきに迫るありさまなれば、外科の治療のごとく、即時直接にかゆきところに手を届かするような方法がありそうに考えます。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
青いものがしだいに衰える裏から、浮き上がるのは薄く流したやにの色である。脂は夜ごとを寒く明けて、濃く変って行く。婆娑たる命は旦夕たんせきせまる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
甥の病勢もまだ旦夕たんせきに迫ったという程では無いらしいので、看護を人々に頼んで置いて、東京の方へ帰ることにした。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
コンドルセーが山岳党さんがくとうのために獄に幽せらるるや、獄中に安坐して、死を旦夕たんせきに待つに際し、なお人類円満の進歩を想望そうぼうして、人生進歩の一書をあらわせり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
三十年一日の如く生徒に仕え、これも寿命じゅみょう旦夕たんせきに迫っていますが、差当り何うすることも叶いません。諸君、腰掛が臀部の筋肉にこたえるでありましょう。
母校復興 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
もう自分の命が旦夕たんせきに迫っているのに奨励のために納豆を買わせるなどは居士の面目を発揮したものである。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
叔父は自分のめい旦夕たんせきに迫っているのを知らないのである。けれど私はこれを知っている「これが最後のおわかれだ」こう思うと、やっぱり何だか寂しいような気がした。
今年七十有一、死旦夕たんせきに在り、といえるは、英雄もまた大限たいげんようやせまるを如何いかんともする無き者。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
光化門よ、光化門よ、お前の命がもう旦夕たんせきに迫ろうとしている。お前がかつてこの世にいたという記憶が、冷たい忘却の中に葬り去られようとしている。どうしたらいいのであるか。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
病躯蠢々しゅんしゅん命、旦夕たんせきを測られざる者あに手を拱して四十歳を待たんや。独り文学はしからず。四十歳を待たず、三十歳を待たず。二十歳にして不朽の傑作を得る者古来の大家往々にして然り。
病牀譫語 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
もう私の命の旦夕たんせきに迫っておりますことはどこからとなくお耳にはいっているでしょうが、どんなふうかともお尋ねくださいませんことはもっともなことですが、私としては悲しゅうございます。
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
筆触用墨の技巧はいまだ一般の鑑賞家には有難がられているであろうが、本当の芸術としての生命は既に旦夕たんせきに迫っている。そのような事は職人か手品師の飯の種になるべきものではあるまいか。
つくしたれ共更にしるしなく今は一めい旦夕たんせきせまり頼みのつなも切果たる體なれば五左衞門おもまくらあげ漸々やう/\と言葉みじかに手紙をしたゝめ丸龜なる養子半四郎方へ急ぎ飛脚を遣はしたりさてまた半四郎は養父の安否あんぴ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかし法師丸は、城と自分の運命とが旦夕たんせきに迫っていることなど、一向念頭にないのだった。それよりも、彼に都合のよいことは、城内が乱脈になったゝめに全く彼の行動が解放された一事である。
しかるに、たちまち朝鮮一件より日清の関係となるや、のう曩日さきに述べし如く、我が国の安危あんき旦夕たんせきに迫れり、あに読書の時ならんやと、奮然書をなげうち、先ず小林の処に至り、この際如何いかんの計画あるやを問う。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
自己おのれ旦夕たんせきに死を待ちぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
三木城の運命も、いまは旦夕たんせきに迫っていた。城中数千のもの、もとより城主別所長治と、かたく死をちかい、いさぎよく死ぬべく、斬って出る覚悟をしていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その旅中にかく病んでせっておるし、命ももう旦夕たんせきをはかられぬのであるが、それに夢に見るところの事もなお旅であって、枯野に淋しい一人旅をしておる時などの光景がいつも夢に入る
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
帝は滇南てんなんきて西平侯せいへいこうらんとしたもう。史彬しひんこれを危ぶみてとどめ、しんの中の、家いさゝか足りて、旦夕たんせきに備うき者のもとしゃくとどめたまい、緩急移動したまわば不可無かるべしともうす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
鳥のまさに死せんとする、その鳴くや哀し、人のまさに死せんとする、その言や善し。彼はいよいよ死の旦夕たんせきに迫りたるを知り、十月二十五日より『留魂録』一巻を作り、二十六日黄昏こうこんに至って稿をう。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
はきながら然は各々方も御存知の通り養父やうふ秀盛ひでもりは當時上州大間々に罷在まかりあり候處此程大病にて一めい旦夕たんせきせまり候由の飛脚到來せし故今より關東へまかり下るなりと有しかば門弟中聞て夫は御道理ごもつともなれども先生餘り御性急ごせいきふかと存じ候て又後々の儀は如何なされ候やと申すに半四郎されば其事なり後の道場は其許方そのもとかたに任せ置により能樣に計らひ給は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
旦夕たんせきに迫りながら、なおそれまでに、軍務を気にかけておられるのかと、侍医も諸臣も涙にそでを濡らした。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自ら一を手にしけるが、たちまちにして色をしてののしって曰く、今世間の小民だに、兄弟宗族けいていそうぞくなおあいたがいあわれぶ、身は天子の親属たり、しか旦夕たんせきに其めいを安んずること無し、県官の我を待つことかくの如し
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
蜀軍は、その日も次の日も、斜谷の陥落もはや旦夕たんせきにありとみて、息もつかず攻めたてていたのである。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まして旦夕たんせき主家の父子の身を気遣きづかうこと、我身以上なものがあった一盟の黒田武士たちに、深思のいとまもなく、それが直ちに信じられたのは決して無理ではなかった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何か、よいお手策てだてがありましょうか。ともあれ、二人のいのちは、めい旦夕たんせきと思わねばなりませんが」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三河の人で峨山がざん和尚、この人は禅宗の人です。峨山和尚さんが、もうだめだ、命旦夕たんせきに迫ってだめらしいというときに『みな弟子ども、ここへ集めてくれ』といった。
親鸞聖人について (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど、その娘はすでに命旦夕たんせきにあるというし、日常、見ている人質の孤独な老母の心情も思いると、彼は、泣くまいとしても、ぼろぼろ貰い泣きせずにいられなかった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「一人の大将に五百騎ほどをさずけ、急遽、荊州へさし向けられ、玄徳の御内方たる妹君へ、そっと密書を送って、母公の病篤し、めい旦夕たんせきにあり、すぐかえり給えとうながすのです」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
孤城の命数はもう旦夕たんせきに迫った。野戦病院の病棟も、その他の建物という建物も、傷病者のうめきでみちている。もうその人たちに与える食物すらない。もちろん薬品や繃帯ほうたいくにない。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かくまでの男同士の情誼じょうぎを聞くにつけ、今はつつみ隠しもしていられず、じつはその宋江その人が、かくかくの大難にあって、いまやめい旦夕たんせきの牢中の闇にあると、事の次第をつぶさに話した。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「城中の運命はもうここ旦夕たんせきのうちです。如何にせばよいでしょうか」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そんな気永きながを言っては困る、今、馬春堂は命旦夕たんせきに迫っておる……」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
めい旦夕たんせきと思われた孤城は、翌日も落ちない。翌々日も落ちない。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それがしの命は旦夕たんせきに迫っています。それで……」
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仰いで、すでに我が命が旦夕たんせきにあるを
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
畏れながら旦夕たんせきに危ぶまれ申候
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)