たし)” の例文
きもは脂肪のかたまったものだから、八十何歳の西園寺公にはやや脂っ濃すぎるかも知れないが、白子ならたしかに適するはずである。
西園寺公の食道楽 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
紀州の産であることはたしからしい。ともかくも将軍吉宗の直筆だという墨付と短刀を証拠にして、——自分は吉宗公の嫡出子である。
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これは此市このまちで一番人の目に立つ雄大な二階立の白堊館、我が懷かしき母校である。盛岡中學校である。巨人? さうだ、たしかに巨人だ。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
だから地上のほかの狂人は治療なおるとも、吾輩の精神異状だけは永遠に全快しないだろうと思う。これだけはたしかに保証出来る。云々。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いつのまにか、そことの間を、一走りに往復して、あれまで行けば、立派に手段のあることを、二人の小姓はたしかめて来たものだった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新「ヘエと成程、このなんですかお墓はたしか川端で殺されて此の間お検死が済んで葬りになりました娘子様むすめごさん御墓所ごぼしょでございますか」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
うと/\としてめると女は何時いつの間にか、となりの爺さんとはなしを始めてゐる。此ぢいさんはたしかに前の前の駅から乗つた田舎者いなかものである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
今日にては安仁やすひと神社の宮司ぐうじに進みて、現職の人であります故、最もたしかな話ですから、特にこの河野のことをお話しいたしたのであります
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
湊合そうがふがなんだ。あめしたに新しい事は決してない。ふん。己の前にあるやうな永遠が己の背後にもあるといふことは、己もたしかに知つてゐる。
たしかに誰かが来ている。——とお婆さんは思った。そう思った瞬間、客があるという意識で、お婆さんは小児のような心理状態に置かれた。
蜜柑 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
たしかに四畳半の中だと思われる時もあるが、又どうかすると便所の方角のようにも聞える。どうも聞き定めることが出来ない。
心中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
たしかに見覺えましたしなこれは幸手宿の者より否々いや/\粕壁かすかべいちかひましたと云に原田始め役人共は何か取留ぬ申口たり林藏しかと申せ胡亂うろんなことを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それは決して彫刻的に立派なものだとは言えないけれど何かしら敬虔な気持にさせられるそうした彫刻であることはたしかだ。
仏像とパゴダ (新字新仮名) / 高見順(著)
流暢りゅうちょうで構梁のたしかな肩の頂面に、つんもり扇形の肉が首の附根の背後へ上り、そこから青白く微紅を帯びたくびもたげられた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
橘好則が、平維茂たいらのこれもちの頭をたしかに取って、此奴こやつ万一生きもや返ると鞍の鳥付きに結い付けぬ内は安心出来ぬといったに同じ(『今昔物語』二五)。
それは僕の気質からも来てゐるであらうけれども、一つはたしかに日本の自然主義的な小説に厭きた反動であらうと思ふ。
愛読書の印象 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その墓石——高サ約二尺くらいの小さな墓——に、仏名ぶつみょうが彫ってある、たしか四字でした。上の字は忘れましたが、「□本居士ほんこじ」と彫ってあります。
□本居士 (新字新仮名) / 本田親二(著)
この人には二どめの妻君さいくんがあって、この妻君さいくんも死ぬことになるが、その死ぬ少し前に、ハークマはたし倫敦ロンドンへ行っていて、そして其処そこからえる。
不吉の音と学士会院の鐘 (新字新仮名) / 岩村透(著)
芸妓買げいしやがひはなさる、昨年あたりはたしか妾をかこつてあると云ふうはささへ高かつた程です、だ当時黄金かねがおありなさると云ふばかりで、彼様あんなけがれた男に
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
なぜなら、かかるものを作る場合ほど、美しさがたしかとなる場合は決してないのであるから。かかる平易な道が、与えられた工藝の道なのである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
日本の芸能といふ語は恐らく平安朝の末頃からたしかに現れて来るのだと思ひます。それもとび/\に現れて参ります。
日本芸能の話 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
年来心の店の取締りは行き届きて遊冶懶惰ゆうやらんだなど名のる召使のために穴を明けられたることはなきや。来年も同様の商売にてたしかなる見込みあるべきや。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
よろしう御座んすたしかに受合ひました、むづかしくはお給金の前借にしてなり願ひましよ、見る目と家内うちとは違ひて何処いづこにも金銭のらちは明きにくけれど
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ちなみにいふ、この趣向は小説の上にはありふれたりといへども、蕪村時代にはまだ箇様かような小説はなかりしものなり。蕪村はたしかに小説的思想を有したり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
松田はいたく感動して、御依頼のおもむきたしかに承知いたしたと答え、大膳と二人で最後の盃を交していると、その隙を窺って郎党共が三人一緒に腹を切った。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これはたしか小学校へあがる前年のことだつたと思ふ。ほぼ同じ頃に、もうひとつ一そう消しがたい思ひ出を持つてゐる。そしてこれも大磯であつたことだ。
母たち (新字旧仮名) / 神西清(著)
たしかにまだ息がある。手首を握ってみると、最初は殆ど分らないほど微かだった脈が、段々はっきりと指先に触れてきた。どうやら温味あたたかみも戻って来るようだ。
黒猫十三 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
英国に対してはついに一指をも染めさせなかったのは、たしかにその手腕の非凡なるものありしがためである。
選挙人に与う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
その田の神が自身田の守護をせられるとすると、これほどたしかなことはないわけであり、またしみじみとそのお礼をするのも、もっとも千万なことだと思う。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
村落駅々から送られて出る光景にはたしかに一抹の哀々たる人間的離愁がただよっていないという事はない。
「この人ならたしかだ。己の今まで捜していたのはこういう人だ。この人はまだ自分の体のうちに幸福を持っているらしい。この人なら人を助けてくれるだろう。」
(新字新仮名) / ウィルヘルム・シュミットボン(著)
「此れだけの大あたりを占められたら、開業二三日で破産しませうよ。其処そこな小僧奴なんざ、朝から十六七本挙げやがッたから、たしかに三四円の働きはてますわ」
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
たしかに身の自由を失わせて、監禁しているという、そのお初が、何ごとぞ、今、雪之丞の前に、しかも、門倉平馬の一味女頭目らしく、悠然として出現したのである。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
はるか麓の方に阪神電車の走るのが見えて、ここは兵庫県の六甲山であることはたしかに知っている。
六甲山上の夏 (新字新仮名) / 九条武子(著)
夫に、又聴きだから、詳しくは知らないが、たしか去年の暮、お時さんに生命保険をつけたッて事です
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
藤十郎どのの伊左衛門いさえもんは、いかにも見事じゃ、が、われらは幾度見たか数えられぬ程じゃ。去年の弥生やよい狂言もたしか伊左衛門じゃ。もう伊左衛門には堪能いたしておるわ。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
よろける奴を邪慳じゃけんにこづきまわした。このとき、度胆どぎもをぬいてくれた松岡はたしかに一歩機先を制していたのだ。もはや相手は彼の云うなりであった。叱咤しったして歩かせた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
俺も森をはたへ駈出してたしか二三発も撃たかと思う頃、忽ちワッというときの声が一段高く聞えて、皆一斉に走出す、皆走出す中で、俺はソノ……もとの処に居る。ハテなと思た。
◎新宮さんは器用な人でたしか小龍とかいふお方の弟子だつた相でぐわも上手でしたが、或日女が丸はだかで居る絵を書て、腰の辺から股の中の事まですツかり画いて居りました。
たしかに小説になる。無信仰の現代に産れて、信仰にあくがれる主人公は面白い、屹度きつと書ける。辰馬が喜びさうな小説が出来よう。尤もこの事に付いては、是迄深く考へもしなかつた。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
『えゝ、僕はたしかにそれを知らなければなりませんよ、今度はもう捉らないやうに。』
「叔父さん。僕です、文彦です。気をたしかに持って下さい。文彦です。文彦です。」
月世界競争探検 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
人間はどうもそうらしい。相手を求めて交りをする。畜生でもそうだ。犬ころが、何か鳴いては求めている。じゃれ廻ってはしきりに喜でいる。してみると犬もたしかに社会的に出来てる。
イエスキリストの友誼 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
もしこの獄室を我生涯の第二期とするを得ば、我はたしかに其一期を持ちしなり。
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
そうして背が非常に高かったので、あたりの人より頭だけが突き出ていた。私は、私達の誰もが、彼の肩まであろうとは思えなかった。彼はたしかに六フィート半より短かいことはなさそうだった。
されば皆人の得がてにすと云も、采女が事のみにはあらず、天皇の御位の凡人に得がたき方をかけ給へる御詞也。又得たりと云言を再びかへし給へるも、其御戯れの旨をたしかに聞せんとて也。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
挨拶などはもとよりお流れである。考えて見ると成程一昨年来た時も、其前に来た時も改まった挨拶などはしなかった様に覚えてるが、しかしながら今は岡村もたしか三十以上だ。予は四十に近い。
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
緞帳どんちょう芝居——小芝居へ落ちていた役者ものは、大劇場出身者で、名題役者なだいやくしゃでも、帰り新参となって三階の相中部屋あいちゅうべやに入れこみで鏡台を並べさせ、相中並の役を与え、たしか三場処ほど謹慎しなければ
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
少なくも当人がそう信じていることだけはたしかであろうと思われる。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それはたしかに何ものかが、その間に介在していなければならない。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)