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幽邃
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ゆうすい
ふりがな文庫
“
幽邃
(
ゆうすい
)” の例文
幽邃
(
ゆうすい
)
なる杉並木が、富士の女神にさす背光を、支持する大柱であるかの如く、大鳥居まで直線の路をはさんで、森厳に行列している。
不尽の高根
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
それは
降
(
くだ
)
ってまた昇るのであるが、暫くは密林帯で、数町の間樹木に
蔽
(
おお
)
われて、日の目も漏らぬトンネルのような
幽邃
(
ゆうすい
)
な谷がつづく。
雲仙岳
(新字新仮名)
/
菊池幽芳
(著)
この東嶺寺と云うのは
松平家
(
まつだいらけ
)
の
菩提所
(
ぼだいしょ
)
で、
庚申山
(
こうしんやま
)
の
麓
(
ふもと
)
にあって、私の宿とは一丁くらいしか
隔
(
へだた
)
っていない、すこぶる
幽邃
(
ゆうすい
)
な
梵刹
(
ぼんせつ
)
です。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「まだこの辺は御本丸の
出端
(
ではず
)
れ、風趣が浅うござります。さ、この鷲の森を抜けて、もう少々
幽邃
(
ゆうすい
)
な深山へ御案内いたしましょうか」
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
もっと荘厳な、もっと
幽邃
(
ゆうすい
)
な景である。汽車は雪よけのトンネルを出たり入ったり、静かな雪の世界に響くような音をたてて行く。
五色温泉スキー日記
(新字新仮名)
/
板倉勝宣
(著)
▼ もっと見る
この部屋は、光線の取り方も苦心をして
幽邃
(
ゆうすい
)
を漂わせているから、此処こそ参詣者の
額
(
ぬか
)
ずく場所と、私も合点して合掌したのであった。
褐色の求道
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
其の庭園の向ヶ岡の阻崖に面して
頗
(
すこぶる
)
幽邃
(
ゆうすい
)
の趣をなしていたので、娼楼の建物をその儘に之を温泉旅館となして営業をなすものがあった。
上野
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
空色の単衣に青磁色の帯は、
紫陽花
(
あじさい
)
のような
幽邃
(
ゆうすい
)
な調子があって、粋好みのお秀が好きで好きでたまらない取合せだったのです。
銭形平次捕物控:125 青い帯
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
両岸の絶壁は
鬱蒼
(
うっそう
)
たる老樹の緑、神田川の間を貫いて、市中とは思われぬ
幽邃
(
ゆうすい
)
気分、詩人はこぞって「小赤壁」と呼んだくらい。
明治世相百話
(新字新仮名)
/
山本笑月
(著)
恵那峡の
幽邃
(
ゆうすい
)
はともすると日本ラインの
豪宕
(
ごうとう
)
を
凌
(
しの
)
ぐ。ここまで
上
(
のぼ
)
って来なければ木曾川の綜合美は解せられない。すばらしい、すばらしい。
木曾川
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
幽邃
(
ゆうすい
)
の趣きをたたえた
山裾
(
やますそ
)
の水の
畔
(
ほとり
)
を歩いたりして、日の暮れ方に帰って来たことなどもあって、また二日三日と日がたった。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
栂に交って唐檜、椈、白樺なども少しはあるが、十文字峠の
幽邃
(
ゆうすい
)
なるには及ばざること遠しの感がある。
馬酔木
(
あせび
)
の大木が多いのには驚嘆した。
奥秩父の山旅日記
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
深い谷間には
檜葉
(
ひば
)
の木が沢山生えて居りますが
杜鵑
(
ほととぎす
)
は月の出たのを悦びてか
幽邃
(
ゆうすい
)
なる谷の間より美しい声を放って居ります。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
湖の
面
(
おもて
)
は、相変らず肌寒い水を
漫々
(
まんまん
)
と
湛
(
たた
)
えて、
幽邃
(
ゆうすい
)
な周囲の山々や、森の緑を
泛
(
うか
)
べて、あの自家発電用の小屋も、水門の傍らに建っています。
墓が呼んでいる
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
「乾隅」が暗く
幽邃
(
ゆうすい
)
な位置を表象し、そして「ゆかしき」という言葉が、詩の全体にかけて流動するところの、情緒の流れとなってるのである。
郷愁の詩人 与謝蕪村
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
「山紫水明、
幽邃
(
ゆうすい
)
閑寂、などという通俗なことではない、そこはちょっと適当な形容を思いつかぬが、ともあれ静かで、人情純朴ないいところだ」
似而非物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
冬はその方が暖かで助かることもあるが、夏の晩はどんな
幽邃
(
ゆうすい
)
な避暑地へ逃れても、先が旅館である限り大概都ホテルと同じような悲哀に
打
(
ぶ
)
つかる。
陰翳礼讃
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
燕
(
つばめ
)
温泉に行った時、ルビーのような、赤い実のついている
苔桃
(
こけもも
)
を見つけて、
幽邃
(
ゆうすい
)
のかぎりに感じたことがあります。
果物の幻想
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
この神社も古雅な、なかなか結構な社地で、とても
幽邃
(
ゆうすい
)
なところでして、この辺からすでに桜がちらほら見えます。
女の話・花の話
(新字新仮名)
/
上村松園
(著)
神田川にそそぐお茶の水の堀割は、両岸の土手が高く、樹木が
鬱蒼
(
うっそう
)
として、
水戸
(
みと
)
家が
聘
(
へい
)
した
朱舜水
(
しゅしゅんすい
)
が、
小赤壁
(
しょうせきへき
)
の名を附したほど、
茗渓
(
めいけい
)
は
幽邃
(
ゆうすい
)
の地だった。
田沢稲船
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
なんぴともここに来たりて弁天を拝し、その水にて銭を洗えば金がたまるといわれている。余も鎌倉客中にたずねて見たが、すこぶる
幽邃
(
ゆうすい
)
な巌窟である。
迷信と宗教
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
竹逕
(
ちくけい
)
の
涼雨
(
りょうう
)
、
怪巌
(
かいがん
)
の
紅楓
(
こうふう
)
、
蟠松
(
ばんしょう
)
の
晴雪
(
せいせつ
)
……
育徳園
(
いくとくえん
)
八景といって、
泉石林木
(
せんせきりんぼく
)
の
布置
(
ふち
)
、
幽邃
(
ゆうすい
)
をきわめる名園がある。
顎十郎捕物帳:08 氷献上
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
利根川、白砂沢、また、花咲峠から渓水を運んでくる塗川にも渓流魚は豊富である。仏法僧で名高い
迦葉
(
かしょう
)
山に源を持つ発知川と池田川は、
幽邃
(
ゆうすい
)
そのものだ。
雪代山女魚
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
大きい竹藪の間に人家の見える所へも来た。水の音がしきりに聞こえて、いかにも
幽邃
(
ゆうすい
)
な趣がある。あれこそ寺だろうと思っていると、それは水車屋だった。
古寺巡礼
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
死の様な静けさ、さも
幽邃
(
ゆうすい
)
にしつらえた人造の峡谷、ブリキ細工の奇岩怪石、枝を交えた老樹の影、そこに小波一つ立たぬ黒い池が不気味に黙り返っていた。
吸血鬼
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
熊
(
くま
)
や
鹿
(
しか
)
が
棲
(
す
)
むという、
幽邃
(
ゆうすい
)
な金門公園を
抜
(
ぬ
)
けて、乗っていたロオルスロオイスが、時速九十
粁
(
キロ
)
で一時間とばしても変化のないような、青草と、羊群のつづく
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
「素晴らしい庭ですな。
彼処
(
あすこ
)
の杉林から泉水の裏手へかけての
幽邃
(
ゆうすい
)
な趣は、とても市内じゃ見られませんね。五十万円でも、これじゃ高くはありませんね。」
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
一風呂
(
ひとふろ
)
の
浴
(
ゆあ
)
みに二人は今日の疲れをいやし、二階の表に立って、別天地の
幽邃
(
ゆうすい
)
に対した、温良な青年清秀な佳人、今は決してあわれなかわいそうな二人ではない。
春の潮
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
今日交通の便開けた時代でも、身延山詣でした人はその途中の難と
幽邃
(
ゆうすい
)
さとに驚かぬ者はあるまい。
学生と先哲:――予言僧日蓮――
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
と
独言
(
ひとりごと
)
が出た。山手の家は林泉の美が浜の
邸
(
やしき
)
にまさっていた。浜の
館
(
やかた
)
は
派手
(
はで
)
に作り、これは
幽邃
(
ゆうすい
)
であることを主にしてあった。若い女のいる所としてはきわめて寂しい。
源氏物語:13 明石
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
甲州一と里人の自慢している大杉が幾株か天を突いて、鳥一つ啼かぬ
神々
(
こうごう
)
しき
幽邃
(
ゆうすい
)
の境地である。
白峰の麓
(新字新仮名)
/
大下藤次郎
(著)
Tの家は
宮司
(
ぐうじ
)
で、街道からすこし離れた
幽邃
(
ゆうすい
)
な松原湖の
畔
(
ほとり
)
にある。Tは私達を待受けていたのだ。
千曲川のスケッチ
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
華麗、陰惨、明快、
幽邃
(
ゆうすい
)
、重厚、深遠、平和、兇猛……、山の美は選ぶ人の心により各様である。或る人は富士を佳い山といい、或る人は穂高ほど素晴らしい山はないと言う。
山想う心
(新字新仮名)
/
松濤明
(著)
公園もこのあたりになると、ちょっと
幽邃
(
ゆうすい
)
な感じがして、遊歩の人の姿もきわめてまれである。早春のあわい日影が、それでも木の間を通して地上に細かな
隈
(
くま
)
を織り出していた。
地図にない街
(新字新仮名)
/
橋本五郎
(著)
河の流れをたどって行く鉛筆の尖端が平野から次第に
谿谷
(
けいこく
)
を
遡上
(
さかのぼ
)
って行くに随って温泉にぶつかり滝に行当りしているうちに
幽邃
(
ゆうすい
)
な自然の幻影がおのずから眼前に展開されて行く。
夏
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
兎
(
うさぎ
)
は弱い動物だ。その耳はやむ時なき
猜疑
(
さいぎ
)
に震えている。彼は
頑丈
(
がんじょう
)
な
石窟
(
せっくつ
)
に身を託する事も、
幽邃
(
ゆうすい
)
な深林にその住居を構えることも出来ない。彼は小さな
藪
(
やぶ
)
の中に彼らしい穴を掘る。
惜みなく愛は奪う
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
有名な富田屋では、その庭の
幽邃
(
ゆうすい
)
なのに感心した。その賑やかな都会の真中に、さうした山の中のやうな静かな庭があらうとは! またあゝした大きな深く茂つた樹があらうとは——。
大阪で
(新字旧仮名)
/
田山花袋
、
田山録弥
(著)
古びて
歪
(
ゆが
)
んではいるが、座敷なんぞはさすがに悪くないから、そこへ陣取って、毎日風呂を立てさせて遊んでいたら妙だろう。景色もこれという事はないが、
幽邃
(
ゆうすい
)
でなかなか
佳
(
よ
)
いところだ。
観画談
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
斯る
幽邃
(
ゆうすい
)
な大自然にも私の怒りを慰め得ない狭小な人間と化してゐたので、まだ臆病に躊躇ひ乍ら佇んでゐる主婦の姿に、バリ/\と歯を噛むやうな苛立たしさを覚えずにはゐられなかつた。
蝉:――あるミザントロープの話――
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
幽邃
(
ゆうすい
)
な奥庭のほとり——大岡越前守お役宅の茶室である。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
幽邃
(
ゆうすい
)
な
鬼涙沼
(
きなだぬま
)
のほとりに封建の夢を遺している。
ゼーロン
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
「ちょっと観海寺の裏の谷の所で、
幽邃
(
ゆうすい
)
な所です。——なあに学校にいる時分、習ったから、退屈まぎれに、やって見ただけです」
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
麹町日枝神社
(
こうじまちひえじんじゃ
)
の
山門
(
さんもん
)
の甚だ
幽邃
(
ゆうすい
)
なる理由を知らんには、その周囲なる杉の木立のみならず、前に控えた高い石段の
有無
(
うむ
)
をも考えねばなるまい。
日和下駄:一名 東京散策記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
幽邃
(
ゆうすい
)
な左岸の林に釣人がいる。一人、二人、三人、四人。
麦稈帽
(
むぎわらぼう
)
で半シャツ、かがんで、細い
棹
(
さお
)
の糸をおなじくしんかんと水に垂らしている。
木曾川
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
十二社は今より多少
幽邃
(
ゆうすい
)
であったが、滝は幅一尺あまりの樋から七、八尺の高さに落ちる、手もなく溝のはけ口、到底この滝を浴びる勇気なし。
明治世相百話
(新字新仮名)
/
山本笑月
(著)
藤吉郎も
尾
(
つ
)
いて出た。小屋の中は
鬱陶
(
うっとう
)
しいが、清洲城の奥なので、あたりは
幽邃
(
ゆうすい
)
だし、遠くは城下を見晴らしているし、心までが大きくなった。
新書太閤記:01 第一分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
白糸瀑は其周囲、殊に向って右手の崖の上や中腹から地下水が幾条となく細い瀑となって落下している様が奇観であり、崖上の木立も
幽邃
(
ゆうすい
)
である。
春の大方山
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
壮大とか、
瀟洒
(
しょうしゃ
)
とか、
幽邃
(
ゆうすい
)
とか、余計な形容詞なぞは、一切省くことにしよう、ことごとく青年の話の中に詳しいから。
墓が呼んでいる
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
「天狗の湯」はその名の如く、むかし天狗が
栖
(
す
)
んでいたところなのでしょう、とても
幽邃
(
ゆうすい
)
の境地だというのです。
山の湯の旅:――発甫温泉のおもいで――
(新字新仮名)
/
上村松園
(著)
その道は無始無終、常恒不変にして、よく万象の主となり、真にして
寂
(
じゃく
)
、霊々照々、
幽邃
(
ゆうすい
)
玄通、応用自在なり。
通俗講義 霊魂不滅論
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
幽
常用漢字
中学
部首:⼳
9画
邃
漢検1級
部首:⾡
18画
“幽邃”で始まる語句
幽邃所生
幽邃境
幽邃森厳
幽邃深静
幽邃閑寂
幽邃閑雅
幽邃高遠