山腹さんぷく)” の例文
旅商人たびあきうどけば、蝙蝠傘かうもりがさ張替直はりかへなほしもとほる。洋裝やうさうしたぼつちやんのいて、麥藁帽むぎわらばう山腹さんぷくくさつてのぼると、しろ洋傘パラソル婦人ふじんつゞく。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「まだ、あんなたかいところにも、おじさん、はたけがありますよ。」と、勇吉ゆうきちは、そばの山腹さんぷくにある、たがやされた高地こうちゆびさしました。
雲のわくころ (新字新仮名) / 小川未明(著)
秋のあらしが吹いていらい、ここ数カ月、岩のあたりを歩きまわったり、山腹さんぷくをよじのぼったりする見物人の姿すがたは、ぱったりと見えなくなっているのです。
そのほかにも各地かくちでかような洞穴ほらあな發見はつけんされましたが、山腹さんぷくあたつて二三尺にさんじやくぐらゐのあなならんでまうけられてゐるいはゆる横穴よこあなといふもの、これは石器時代せつきじだいのものでなく
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
しかし汽車きしやいままさ隧道トンネルくちへさしかからうとしてゐることは、暮色ぼしよくなか枯草かれくさばかりあかる兩側りやうがは山腹さんぷくが、間近まぢか窓側まどがはせまつてたのでも、すぐに合點がてんことであつた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そうしてヘリコプターは、山腹さんぷくにあけられた大きな洞門どうもんの中へ吸いこまれてしまった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
真逆様に四番目の男のそばを遥かの下に落ちて行つた話などが、幾何いくつとなく載せてあつた間に、錬瓦れんぐわかべ程急な山腹さんぷくに、蝙蝠かうもりの様にひ付いた人間にんげんを二三ヶ所点綴した挿画さしゑがあつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
また登山とざんをする場合ばあひには、平原へいげんから山麓さんろく山腹さんぷくへかゝり、それからやま頂上ちようじようくまでのあひだには、植物しよくぶつ姿すがたがいろ/\にかはつていつて、たかやまであればいたゞちかくには、がおのづとなくなつて
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
御岳ののぼり口には、いくつもの小屋やうまや湯呑所ゆのみじょなどがっていた。いま山は紅葉もみじのまっさかりで、山腹さんぷく山上さんじょう、ところどころに鯨幕くじらまくやむらさきだんだらぞめ陣幕じんまくが、樹間じゅかんにひらめいて見える。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんぢが心、山腹さんぷく
不可能 (旧字旧仮名) / エミール・ヴェルハーレン(著)
ターベルイ山の山腹さんぷくには、かなり高くまで森がしげっていますが、山のいただきには木が一本もありません。そこからは四方八方を見わたすことができます。
むかぎしまたやますそで、いたゞきはう真暗まつくらだが、やまからその山腹さんぷくつきひかりらしされたあたりからは大石おほいし小石こいし栄螺さゞえのやうなの、六尺角しやくかく切出きりだしたの、つるぎのやうなのやらまりかたちをしたのやら
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こういうわけで、山壁は、海とその友だちの風のために、まったくすばらしいかざりをつけてもらっているのです。山腹さんぷくには深くほりこまれたけわしい谷があります。