屍骸しがい)” の例文
「ハハハハハ。亡霊を退治に来たというのかい。なるほど、それもよかろ。……だが、その少年の屍骸しがいに触れてもらいたくはない」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
そして私が帯を解き、着物を着換えさせてやる間、ナオミはわざとぐったりとして、屍骸しがいのように手足をぐにゃぐにゃさせていました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あの婆はまるで屍骸しがいの肉を食う爬虫類はちゅうるいのように這い寄りながら、お敏の胸の上へのしかかって、裸蝋燭の光が落ちる気味の悪い鏡の中を
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いま自分たちを襲うた強敵がもろくも無惨な最期さいごを遂げたことをとむらうかのように鼬の屍骸しがいを遠くから廻って、ククと鳴いているのであります。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ぐさま検視もり、遂に屍骸しがいを引取って野辺の送りも内証ないしょにて済ませ、是から悪人穿鑿せんさくになり、渡邊織江の長男渡邊祖五郎そごろうが伝記に移ります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「清子、贅沢ぜいたくをいっちゃばちが当るよ」と壮平老人が云った。「政どんが来てくれなくちゃ、おたがいに今頃は屍骸しがいになって転がっていたかも知れない」
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
たけ八尺ばかりな女の屍骸しがいを、山中において見た者がある。髪は長くして足に至り、口は耳のあたりまで裂け、目も普通よりは大なりと記している。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼は屍骸しがいの腕を持っていた。そして周りを見回した。ちょうど犬がするように少しあごを持ち上げて、高鼻をいだ。
死屍を食う男 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
閉じた眼が……泣き伏しながら着物のれるのもいとわずに飛沫しぶきを挙げて屍骸しがいすがりついた母と小作人の妻と……。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
左様さうです、人生の不可解がし自殺の原因たるべき価値あるならば、地球はたちまち自殺者の屍骸しがいを以ておほはれねばなりませんよ、人生の不可解は人間が墓に行く迄
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
盲目めくらにされても降り得ようほど案内知った道でありながら、誰も彼も行き迷うたあげくたおれてしまうのが、ほど経て道ばたへむごたらしい屍骸しがいになって知れるのよ。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
そのうち、かれは、あしもとによこたわっている屍骸しがいにつまずいてあやうくたおれかかったが、みとどまって、つきひかりでそのかおをのぞくと、たれたごとく、びっくりして
戦友 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それからぐつたり横になってゐる狐の屍骸しがいのレーンコートのかくしの中に手を入れて見ました。そのかくしの中には茶いろなかもがやの穂が二本はひって居ました。
土神と狐 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
しかし村の人達は、馬鹿ばか七がどうなつたのだらうかと思つて、心配しながら焼跡をすつかり調べて見ましたが、人間らしい者の屍骸しがい何所どこにも見つかりませんでした。
馬鹿七 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
屍骸しがいの山、血潮の川。雪で飾られた街道筋は獣の血潮で紅に染まり月に照らされて蒼黒く見える。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
御茶の水殺人事件とて当時の東京に喧伝けんでんしたる、特にこの事件のために新聞の雑報小説に残酷なる傾向を促したりとまで称へらるる事件の被害者「この」の屍骸しがいよこたはりたるは
四百年後の東京 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
三頭立ての馬が「とうとう死んだ」牛の屍骸しがい——マイナス耳——を引きずって走り込む。
陽明先生の如きは御丁寧にも其入定僧の屍骸しがいじきに対面をされたとさえ伝えられている。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
残りの屍骸しがいは約束どほりそのあくる朝には全部はこび去られ、聖堂のきよめもすつかり済んだあとでは、日ましにはげしくなる空襲のもと、正面の鉄扉は再び固くとざされてしまつたので
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
我々七人の客はあつけに取られて、身動きも出来ずに、屍骸しがいの周囲に立つてゐた。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
闇黒に冷えゆく屍骸しがいにつまずいて、栄三郎が倒れるそこを左膳が斬りおろす……。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
云ふ迄もなく、母親は悲惨な死を遂げ屍骸しがい行衛ゆくへさへも不明となつたのである。
アリア人の孤独 (新字旧仮名) / 松永延造(著)
詩人とは自分の屍骸しがいを、自分で解剖して、その病状を天下に発表する義務を有している。その方便は色々あるが一番手近てぢかなのはなんでもでも手当り次第十七字にまとめて見るのが一番いい。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それよりもこの屍骸しがいじゃ。人目に触れぬ間に、埋め隠くさねば相成らぬ。林の中には薬草の根元まで掘下げた穴が幾つも有るで、その中の大きなのを少し拡げるまでじゃ。拙老が手伝うて遣わすぞ
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
かく不吉と思い込んだからハヌマンの屍骸しがいを見ても口外せぬ。
人間の心臓を勝手に取替えたり、屍骸しがいに息を吹き込んで、また元通り屍骸にしてしまうなぞ、亡霊でなければ、悪魔の仕業だ。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
屍骸しがいの肉をむさぼっていたらしい犬が一匹、不意にくさむらの間から跳び出して慌てゝ何処かへ逃げ去ったが、父はそんなものにも眼もくれなかった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのランプの光の中に、内陣を囲んだフレスコの壁には、サン・ミグエルが地獄の悪魔と、モオゼの屍骸しがいを争っていた。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
急所をられてそのままことれた由蔵の屍骸しがいを見捨てて、樫田武平は怖ろしい迄緊張した気持で変装に取かかった。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
路上に横たわった一つの屍骸しがいを取巻いて、弁信を除いての四人の眼は、いずれも火のようになって、提灯をその屍骸につきつけているのであります。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それからぐったり横になっている狐の屍骸しがいのレーンコートのかくしの中に手を入れて見ました。そのかくしの中には茶いろなかもがやの穂が二本はいって居ました。
土神ときつね (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
数日後、深谷の屍骸しがいなぎさに打ち上げられていた。その死体は、大理石のように半透明であった。
死屍を食う男 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
清「ほかに何も貰うものはねえが、此の金を預けた清水助右衞門さんの屍骸しがいを返してもれえてえ」
其れ迄は記憶して居るが後はどうしたか少しも覚えない、不図ふと気が付いて見ると、自分は左腕ひだりで血に染まつた小米の屍骸しがいあふむけに抱いて、右手に工場用の大洋刀おほナイフを握つて居たと云ふのです
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「さ、その日本一太郎でございますが、屍骸しがいはもとよりございませんし、屍骸がないくらいでございますから、助かったには相違ございません。が、火事以来、どこへも姿をみせませんので」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一日一日と屍骸しがいは増え、道に横仆わった屍骸をめがけて幾百ともない烏の群が遠い国から集まって来た。号泣、憤怒、怨恨、呪咀じゅそ、そして町々辻々からは腐った屍骸の悪臭が昼夜となく立ち昇った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「おやおや、帆屋根の下に屍骸しがいがある。若殿が殺されていますぜ」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
実を云うと、彼はまだすさまじい斬り傷を受けた屍骸しがいだの、血のれるような生々しい人の首だのを見た経験がないのである。
あの屍骸しがいがどうしても上らなかったんだが、お島婆さんにおふだを貰って、それを一の橋から川へ抛りこむと、その日の内に浮いて出たじゃないか。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「なかなか見事見事」それを片手に持って眺め廻したが、こんどは、チャン君の屍骸しがいに居ざりより同じように、胸をはだけ、左胸部にメスを突立てた。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
そこで斬捨てた伊東の屍骸しがいを白日のもとさらして、残るところの隊士のきたり収むるを待った、来り収むるその機会を待って、その来るところのものを全部
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「冗談なら冗談でいいが、親分! それを本気でお言いなさるんなら黙っちゃいませんぜ。べら棒め、姐御の屍骸しがいが何を喋っているか知ってるなア、一人ばかりじゃねえ!」
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
祖「何ういう事も何もない、父の屍骸しがいかたわらに汝の艶書てがみおとしてあったのが、汝の天命である」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「先生、お玄関に、屍骸しがいが——首のない屍骸が……来て見て下さい!」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
が、いくら探して見ても、山鴫やましぎ屍骸しがいは見つからなかつた。ドオラも遮二無二しやにむに駈け廻つては、時々草の中へたたずんだ儘、不足さうに唸るばかりだつた。
山鴫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
けれども屍骸しがいの胴体から器用に首を切り離すことは、生きた人間を刺殺するほど簡単な訳に行かなかったので、背後に迫る人声を聞くと却ってあわてた。
両箇ふたつ屍骸しがいの前に、兵馬と福松は色を失って立っているが、さて、手のつけようのないことは同じです。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
女湯の白いタイル張りの床の上に、年の若い婦人の屍骸しがい俯伏うつぶしに倒れていたのだ。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
鹽「あなたも不憫と思召おぼしめすならば、此の屍骸しがいわたくし一人では持ってまいることは出来ませんが、此処に細索ほそびきがありますから、これでからげて吊りまして、鉄砲の差荷さしにないで、一方かた/\担いではくれませんか」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
まぐろのようにころがっている屍骸しがいがふたつ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)