少年こども)” の例文
楽しい空想の時代は父の戒も忘れ勝ちに過ぎた。急に丑松は少年こどもから大人にちかづいたのである。急に自分のことが解つて来たのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
やゝしばらくすると大きな無花果の少年こどもほゝの上にちた。るからしてすみれいろつやゝかにみつのやうなかほりがして如何いかにも甘味うまさうである。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
私は少年こどものときを思ひ出して彼女の小指と私の小指を輪に組んで三度振るのでありました。これは間違ひない誓ひのあかしであるのであります。
ザボンの実る木のもとに (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
……ね……そうして不良少年チンピラらしい顔立ちのいい少年こどもを往来で見付けると、お湯に入れて、頭を苅らして、着物を着せて
けむりを吐かぬ煙突 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「はじめてお舟蔵へ上られたころから、存じあげているのだが、いまの庄公より年下の二十歳の少年こども衆だったよ。」
私は少年こどもの声にぞっとして振り向きさま、月あかりにすかして見ると驚いた。この間雨の日に停車場で五銭の白銅をくれてやった、あの少年ではないか。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
打見には二十七八に見えるけた所があるけれど、実際は漸々やうやう二十三だと云ふ事で、髯が一本も無く、烈しい気象が眼に輝いて、少年こどもらしい活気の溢れた
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「いま伺ってびっくりしているところで御座います。まあ、あんな優しい少年こどもが、何うしてそんな恐しい罪を犯したので御座いましょう。信じられませんわ」
生きている戦死者 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
昼の時は、まだ私という少年こどもも、その生命いのち日南ひなたで、暑さに苦しい中に、陽気も元気もありました。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まめ菊の大輪を見つけ出して高く捧げて喜ぶ少年こどもなど、野は秋のよろこびに満ち充ちてゐました。
女王 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
安重根 何と言ってもまだ少年こどもだからねえ。そのうちにうすうす感づくのは仕方がないが、何も知らせないほうがいいだろう。汽車の切符を買ったり、道を訊いたりするのに使うんだね。
見より澤の井も産後さんごなげきに血上りて此も其夜のうちに死去したりよつてお三婆は右の二品を所持なせどさらに人にはかたる事も無りしが寶澤は別して入魂じゆこんの上に未だ少年こどもの事なれば心もゆるして右の次第を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
大川の支流のこの小川のここは昔からの少年こどもの釣り場である。豊吉は柳の陰に腰掛けて久しぶりにその影を昔の流れに映した。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そこに十二三歳の少年こどもが頭からしずくのする麦藁むぎわら帽子をかぶってションボリとまだ実の入らぬ生栗を喰べている。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
船長おやじを探すらしく巨大なバナナを抱えて船長室を駈出かけだして行く青服の少年こども船長おやじは手招きして呼び上げた。俺が買って来た西蔵チベット紅茶の箱を、鼻の先に突付つきつけて命令した。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
誰でも云ふ「少年時代こどものときは楽しかつた」と。「少年こどもは神より人間より最つと別な神聖な生物だ。」
抒情小曲集:04 抒情小曲集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
主婦と其甥に当る十六の少年こどもと、三人の女児をんなのことが、此室に重なり合ふ様になつて寝て居るのだが、渠は慣れて居るから、其等の顔を踏付ける事もなく、壁側かべぎはを伝つて奥のからかみを開けた。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
横腹よこっぱらを抱えて、しょんぼりと家へ帰るのに、送って来た友だちと別れてから、町はずれで、卵塔場の破垣やれがきの竹を拾って、松並木を——少年こどもでも、こうなると、杖にすがらないと歩行あるけません。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少年こどもがこれを口にいれるのはゆび一本いつぽんうごかすほどのこともない、しかつかはてさま身動みうごきもしない、無花果いちじくほゝうへにのつたまゝである。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「冗談でしょう、僕はまた真面目まじめにお話ししていましたよ」私は成人おとならしい少年こどもだ、母と叔父の家に寄寓してから、それはもう随分気がね、苦労の数をつくした。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
少年こどもたち、病気を見舞うのに、別に、ほかに言葉はないので……こう云ってくれたのを、夢か、と顔を上げて見ると、浅葱あさぎきれで、結綿ゆいわたに結った、すずしい、色の白い……私とおなじ年紀としごろの
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのうちに少年こどもの方から附き纏って離れなくなってしまうもんですから困ってしまってカルモチンをましてやったのです……そうして地下室の古井戸の中から、いい処へ旅立たしてやったんです。
けむりを吐かぬ煙突 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
言うものでない、益になるところとならぬところが少年こどもの頭でわかると思うか、今夜宅へおいで、いろいろ話して聞かすから
初恋 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
『なるほど、なるほど。』豊吉はちょっとかごの中を見たばかりで、少年こどもの顔をじっと見ながら『なるほど、なるほど』といって小首を傾けた。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
川柳かわやなぎの陰になった一けん幅ぐらいの小川のほとりに三、四人の少年こどもが集まっている、豊吉はニヤニヤ笑って急いでそこにった。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
見物人は僕一人ひとり少年こどもも僕一人、あとは三十から上の人ばかりで十人ばかりみんな僕の故郷では上流の人たちであった。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
の音をゆるやかにきしらせながら大船の伝馬てんまをこいで行く男は、澄んだ声で船歌を流す。僕はこの時、少年こどもごころにも言い知られぬ悲哀かなしみを感じた。
少年の悲哀 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
先の石段を下りるや若き女はまづ僕を乘らして後、もやひを解いてひらりと飛び乘り、さも輕々と櫓をあやつりだした。少年こどもながらも僕は此女の擧動ふるまひに驚いた。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
少年こども歡喜よろこびが詩であるならば、少年の悲哀かなしみた詩である。自然の心に宿る歡喜にしてし歌ふべくんば、自然の心にさゝやく悲哀もた歌ふべきであらう。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
少年こども歓喜よろこびが詩であるならば、少年こども悲哀かなしみもまた詩である。自然の心に宿る歓喜よろこびにしてもし歌うべくんば、自然の心にささやく悲哀かなしみもまた歌うべきであろう。
少年の悲哀 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ともかく、僕は僕の少年こどもの時の悲哀かなしみの一ツを語ってみようと思うのである。(と一人の男が話しだした。)
少年の悲哀 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
其言葉の中にも僕の怪しい運命の穂先が見えて居たのですが、少年こどもの僕にはだ気が着きませんでした。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ところ或日あるひのこと、やはり學校がくかう歸途かへり庄園しやうゑんかべうへでラクダルを揄揶からかつて少年こどもの中に、なんおもつたかひど感心かんしんしてしま自分じぶん是非ぜひ怠惰屋なまけやにならうと決心けつしんした一人ひとりあつた。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
僕の胸はワクワクして来た、なぜ叔父さんを起こさなかったかと悔やんだがもうおそい。十二の少年こどもつつって小馬ほどの鹿に差し向けたさまはどんなにおかしかっただろうか。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
人のいい優しい、そして勇気のある剛胆な、義理の堅い情け深い、そして気の毒な義父おとっさんくなってから十三年忌に今年が当たる、って紀念のために少年こどもの時の鹿狩りの物語はなしをしました。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
少年こどもながらも自分じぶん人氣にんきといふものをにくんでた。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
少年こどもながらも自分は人気というものをにくんでいた。
画の悲み (新字新仮名) / 国木田独歩(著)