やす)” の例文
旧字:
源兵衛はうなずいて、「ではもうやすむがよい、今宵はその方たち夫婦の寝所を奥へ移させた、当分のあいだそうするからそのつもりでの」
入婿十万両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「坊っちゃんのおやすみの仕度をしておりました。お春さんの声を聞いて、御新造様と一緒にびっくりして飛出したようなわけで——」
花も羞恥しゅうちを感じるであろうと思われるにおいの高い宮のおそば近くにやすんでいることを、若君は子供心に非常にうれしく思っていた。
源氏物語:45 紅梅 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「いずれにしても、おんなどもの知ったことではない。こちらはお蓮様どころではないのだ。お末の者一同、さわがずと早くやすめと申せ」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もうおやすみだと、ていよく断っておきましょうか……どうなさいますかな? ……どうにでも、お気のままに、返事をしておきますが
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お呑みになりまして、『おやすみ』と仰有おっしゃいましたので、私はお部屋を出ました。それっきり今朝まで、私はお部屋に這入りませんでした
「ええ、よくやすませて貰いましたよ。」チチコフはそう言いながら、安楽椅子に腰をおろして、「貴方は如何でしたか、奥さん?」
六畳の間に、三つの枕を並べて、その真ン中にやすむ私であつた。あまり私が煩いので竹下も光子も碌々眠れない! と云つて滾してゐた。
熱い風 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
『奥へ行って、やすみな、寝てたッて聞こえるよ。』母親おふくろは心配そうに言う。それでもお梅は返事をしないでそのまま蹲居つくなんでいた。
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「やつとおやすみなすつた。かういふ小さいお子さん一人にでも随分手がかゝるんですから、これからしばらくの間お気の毒でございますね。」
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
僕は電燈を消して、妻のそばへ身をよこたえたけれど、なかなか眠れない。妻のすやすやとやすんでいる平和な寝息が聞えていました。
誤診 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
何卒どうぞゆっくりおやすみになって下さい。今女中にお床をのべさせますから、本当にこんな所で先生に御目にかかれようとは思いませんでした。
I駅の一夜 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「きっとそうするわ。ではお待ちになってね。九時にはきっと帰りますから、おやすみになっていてね。きっとよ。げんまん!」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
足元にやすんでゐる与里の顔を窺ふと、彼は併し別の方の壁を眺め、それはただ激しい憔悴を浮べた普通の顔付でしかなかつた。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
それより外に道をえらぶべくもない彼女は、まだみんながやすんでいるあいだ、正月の飾りにまもられた恩愛の家のしきいに別れた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
八橋楼の亭主得右衛門は、黄昏時たそがれどきの混雑に紛れ込みたる怪しき婦人を、一室ひとまの内にやすませおき、心を静めさせんため、傍へは人を近附けず。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
アヽ、先生はだおやすみにならんのか、何か書いて居らつしやる様だ、——明日の社説かナ、や、日常いつもやすみの時間に仕事なさるのだから
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
どうもおやすみのところをお妨げ致しまして恐縮に堪えませぬが、かように突然にお伺い致しました理由と申しますのは他事ほかでも御座いませぬ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
忘れるんじゃねえぞ。それから、自動車の中でおやすみになっているお方も、よく気をつけているんだ。まだまだ容易に目を覚しやしめえけれど
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
深夜というほどではないが、夕餉ゆうげはとうに終って、夜具もなかなか派手やかなのが、いつでもやすめるようにべられている。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あまり音沙汰おとさたがなさ過ぎるので、或る朝お春を見に遣ると、今朝はまだおやすみになっていらっしゃいましたがお元気でした
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かうして四五日過ぎると彼は、非常に足が軽くなつた、夜もよくやすまれるやうになつたと言ふ。これは嘘ではないと思ふ。
癩院記録 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
やすみなさい、わたしの貴い宝……。お寝みなさい、わたしの神様、わたしの坊ちゃん……。わたしはあなたに悪いことをするのではないのよ。
そうした夜は寝床にうすべりを敷き、私たちも大人の真似をしてひとしきり肩に濡手拭をあててやすむ事もあるのでした。
虫干し (新字新仮名) / 鷹野つぎ(著)
お父さんが樽屋さんの組合へいつて、今晩はまだ帰らないので、文六ちゃんとお母さんはさきにやすむことになりました。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
ジョバンニは玄関げんかんを上って行きますとジョバンニのお母さんがすぐ入口のへやに白いきれかぶってやすんでいたのでした。ジョバンニは窓をあけました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
頭を悪くしちゃだめだから、今日はもうおやすみなさい。ぐーっと睡るといいわ。睡眠剤すいみんざいをのんでやすむのよ。いいかい。
新学期行進曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「まあ、リーズ、そんな冗談を言うもんじゃなくってよ。でも、本当にやすんだらどう!」とホフラーコワ夫人は叫んだ。
その懐剣を何とか役立ててみたいと、子供心に思って、宿で兄と床をならべてやすむとき、鞄からそれを取出して、兄に見えるように枕の下に入れた。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「北町の親分、お察し下さいまし。半年振りで帰って来たものを一晩も、ゆっくりやすますことが出来なかったなんて、何という因果いんがでございましょう」
時代は天明の少し古い処で、その頃の浴衣ゆかたを着て、是からやすまうとする処ですから、細い帯を横に結んでをります。
(新字旧仮名) / 上村松園(著)
おいよ 今もいう通り、兄さんはどうで暁方までは帰られまいから、おまえは構わずに、もう先へおやすみなさい。
人狼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
気にへましたのですか昨日午後ふいと外出致しまして、夕方おそくお酒をいたゞいて帰つて参りましたがそれきりろくに口もきかないでやすんでるのですよ。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
園「大変赤くなって居ます。アノお店も退け奥も退けましたから、女部屋へお店の者が這入っては、悪うございますから早くお店へ行っておやすみなさい」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「それでは、」と司教は言った、「よくおやすみなさい。あしたの朝はお出かけの前に、家の牝牛めうしから取れる乳を一杯あたたかくして差し上げましょう。」
恰度空いた室があつたから、其晩だけ政男さんは其方へおやすみになつたんですけど、朝になつたら面白いのよ。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「皆さんですわ、……あんなのご覧になると……諸口さんなんかもうお部屋で真蒼になっておやすみですわよ」
「ゆつくりおやすみやすや。お疲れやしたやらう? お君さんに方々見物に連れて行てお貰ひやしたか。よかつたえな。賑やかどしたやらう? お寝みやす。」
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「そうつと、ここでやすんでらつしやいね。なにか掛けないでいいかしら……。このまま眠つておしまひになつちや駄目よ。ぢや、大急ぎで行つて来るわ……」
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
その夜は大変立派な西洋風の寝床の上に寝て、ラサ府を離れてから久々で人間らしい寝方をしてやすみました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「もう今からでは、時間も遅いですし、太子殿下もおやすみになっていられるでしょうから明日で結構です」
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
考え「貴方が、若しお厭なら、貴方は下の室へおやすみ成さい、当分私が此の室へ寝る事に致しましょう」
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
今晩は暖かい七月の晩で、月はございませんが、星は一面にかがやいております。では、おやすみなさい
「さあ、姉さんえらい御苦労さんどした。どうぞ帰っておやすみやしとくれやす。遅うまで済みまへん」
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「君疲れたろう、やすんでくれ給え」岡村はそういって、宿屋の帳附けが旅客の姓名を宿帳へ記入し、跡でお愛想に少許り世間話をして立去るような調子に去って終った。
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「どうしたの、どうしたのさ! 行っておやすみよ。……まあ、ほんとうに馬鹿になったんだね。」
寿女がやすまない夜は、母親もまた枕の上で起きていた。そして、黄っぽく浮腫むくんだ面を横にしたまま褄さきや裾ぐけを手伝ってやりながら、窺うようにそんなことを言うた。
痀女抄録 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
「一ポンドの金貨ですって……。それはどうも……。今からお礼を申し上げておきます。では、おやすみなさい。こころよい休息と楽しい夢をごらんなさるように、お客さま」
「実は、そこは酒を積むところですから蚊が多いんですよ。今日は船員室でおやすみなさい。」
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そうですわ。……でも私疲れ切ってしまって、口を利くのがつらいの。もうやすまなくては。
(新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)