婦女おんな)” の例文
夫や兄弟や従兄弟いとこのことを心配顔な留守居の婦女おんな、子供、それから老人なぞが休息する兵卒等の間を分けて、右にも左にも歩いていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そうするうちわたくし岩屋いわや修行場しゅぎょうばから、やま修行場しゅぎょうばすすみ、やがて竜宮界りゅうぐうかい訪問ほうもんんだころになりますと、わたくしのような執着しゅうじゃくつよ婦女おんなにも
婦女おんなの身としては他人よその見る眼も羞ずかしけれど、何にもかも貧がさする不如意に是非のなく、いま縫う猪之いのが綿入れも洗いざらした松坂縞まつざかじま
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
婦女おんな幼童わらべの知る事ならずと、豪傑の旦那殿、一口に叱り飛ばしたまふに、返さむ詞もなさけなの、家道の衰へ見るに忍びず。
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
なんしろ、大島なんですからね、婦女おんなが不断着も紋付で、ずるずる引摺ひきずりそうな髪を一束ねの、天窓あたま四斗俵しとびょうをのせて、懐手で腰をきろうという処だッていいますぜ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あるとき婦女おんなどもにかたをたゝかせて、こゝろうかれるやうこゑのはなしなどさせてくに、ひとあごのはづるゝ可笑をかしさとてわらけるやうらちのなきさへ、には一々あはれにて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
房二郎は文華堂へはいってからずっと、仮名書かながき女庭訓おんなていきんという写し物をしていた。原本は高名な漢学者で、原題を「啓蒙婦女おんな庭訓」といい、広く読まれている評判の本であった。
へちまの木 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
家の暗剣殺の土とは、門の西南の地面というこころであろう。坤はまた乾坤けんこんの坤で、陰のあらわれすなわち婦女おんなという義になるから、ここで門内西南の地に女ありと考えなければならない。
婦女おんなというものは何故斯んなに己惚うぬぼれが強いんだろう。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
よく働く仏蘭西の婦女おんなの気質を見せたような主婦かみさんは決して娘を遊ばせては置かなかった。何時いつ来て見ても娘は店を手伝っていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なににしろ婦女おんな亀鑑かがみとしてられた御方おかた霊場れいじょうなので、三浦家みうらけでも代々だいだいあそこを大切たいせつ取扱とりあつかってたらしいのでございます。
かれくびべ、耳をそばだてておしえてり。答うる者はあらで、婦女おんなうめく声のみ微々ほそぼそと聞えつ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ありし次第をわが田に水引き水引き申し出づれば、痩せ皺びたる顔に深く長くいたる法令の皺溝すじをひとしお深めて、にったりとゆるやかに笑いたまい、婦女おんなのようにかろやわらかな声小さく
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
母親ははたいへん縹緻きりょうよしなので、むすめもそれにひなまれなる美人びじんまた才気さいきもはじけてり、婦女おんなみち一ととおりは申分もうしぶんなく仕込しこまれてりました。
敏感で優雅なビヨンクウルのお母さんも彼が初めて逢って見たふるい仏蘭西の婦女おんなをいかにも好く表したような人であった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
苧殻おがらか、青竹のつえでもつくか、と聞くと、それは、ついてもつかいでも、のう、もう一度、明神様の森へ走って、旦那がそばに居ようと、居まいと、その若い婦女おんな死骸しがいを、蓑の下へ
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「面白可笑おかしくして遊ばせるような婦女おんなでなければ、旦那衆の気には入らないのかしらん……ナニ、笑わせようと思えば私だって笑わせられる」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「はてな、はてな。」とこうべを傾けつつ、物をもとむる気色けしきなりき。かたわらるは、さばかり打悩うちなやめる婦女おんなのみなりければ、かれ壁訴訟かべそしょうはついに取挙とりあげられざりき。盲人めしい本意ほい無げにつぶやけり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このうちとどまりて憂目うきめを見るは、三人みたり婦女おんな厄介やっかい盲人めしいとのみ。婦女等おんなたちは船の動くととも船暈せんうんおこして、かつき、かつうめき、正体無く領伏ひれふしたる髪のみだれ汚穢けがれものまみらして、半死半生の間に苦悶せり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「余程たちの悪い婦女おんなにでも衝突ぶつかったものでしょうかナア」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)