如意にょい)” の例文
あわてゝ手探りに枕元にある小さな鋼鉄くろがね如意にょいを取ってすかして見ると、判然はっきりは分りませんが、頬被ほうかぶりをした奴が上へしかゝっている様子。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
月を映してさわやかに流れる賀茂川を渡れば、もう如意にょい山である。追われる身の宮は踏みなれぬ夜の山路をひたすら急いだ。
云うまでもなく千変万化如意にょい救済の願いをあらわしているのだが、しかし経文や願そのままのリアリズムに私は疑問をもつ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
内十六人は各造花一茎をささげ、他に如意にょい白払びゃくほつ厲扇れいせん等を持つものがある。天王薬叉も天女も皆彫刻や画にある通りの扮装をしていたと考えていい。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
いっそ手短かに命取ってやろうか! ……それより汝の愛嬌顔、つぶして醜婦しこめにしてやろうわ! ……如意にょいくらえ!
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その手には僧侶の持つ如意にょいのような尺余の鉄棒を、後ろにして携えていることも、その時にわかりました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
如意にょい、香爐、孔雀くじゃくなどという名高い遊女のいたことが記してあり、そのほかにも小観音、薬師、熊野くまの
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
神楽岡かぐらがおかから北へ十町ばかり、中山を越えて如意にょいたけすそにあたる、一望渺々びょうびょうと見はらされる枯野の真っただ中に火事かと思われるばかり大きな炎の柱が立っていて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風のごとく駆下りた、ほとんど魚の死骸しがいひれのあたりから、ずるずると石段を這返はいかえして、揃って、姫を空に仰いだ、一所ひとところの鎌首は、如意にょいに似て、ずるずると尾が長い。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
田舎にては蛇塚とづけて、往々ある事とぞとありてその図を出だし、わたり高さ共に一尺六、七寸と附記す(第一図)。竜蛇が如意にょい宝珠ほうしゅを持つてふ仏説は、竜の条に述べた。
如意にょいだけのけわしさに足をいためたり、あるいはきこりの切った椎の柴を身にかけて雨露をしのいだりして、苦労のすえに、ついにとらえられてこの島に流されたのであるが
とたんに! 伸びきった栄三郎の片手なぐり、神変夢想流でいう如意にょい剣鋩けんぼうに見事血花が咲いて、またもやひとり、高股をおさえて鷺跳さぎとびのままッ! と得えず縁に崩れる。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この洋杖こそ孫悟空そんごくう如意にょいの棒ではないが、学士自慢の七つの仕掛のある護身杖ごしんづえであった。いま流れだした光芒こうぼうは、その杖の先に仕掛けた懐中電灯の光であったことは云うまでもない。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
琵琶湖の水を前に如意にょいたけを背にした閑寂なところで、「采釣亭さいちょうてい」となづける屋敷構えも広かったから、同志の会合にもうってつけだし、幕吏の追捕をのがれる者にはいい隠れ場所だった。
日本婦道記:尾花川 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夢としか思われなかった海の神の美しい乙女おとめ、それを母とする霊なる童児、如意にょい宝珠ほうじゅ知慧ちえの言葉というような数々の贈り物なども、ただ卒然そつぜんとして人間の空想に生まれたものではなくて
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
如意にょい片手に、白髯しらひげ長きこの老僧が、あらたまって物語る談話はなしを聞けば
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
雲水如意にょいふるい、まさに宣教師を打たんとす。しもべ雲水を突き倒す。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「先に、主水様とご一緒に、如意にょいたけの作兵衛の小屋へ行って、お待ちうけになっているはずだ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
われは年来如意にょいと申す物を造るため牛角を伸ぶるにかかる小蛇の油を取ってするなり、若き男その如意は何にすると問うた、知れた事だおまんまと衣のために売るのだと答う
ちょっと弁吉の悪戯いたずらだというのである。三聖酢をなむる図を浮彫にした如意にょいがある。見ると、ひげも、眉も浮出ているが手を触ると、何にもない、木理ぼくり滑かなること白膏はっこうのごとし。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
町の中には険呑けんのんな空気が立罩たてこめて、ややもすれば嫉刀ねたばが走るのに、こうして、朧月夜に、鴨川の水の音を聞いて、勾配こうばいゆるやかな三条の大橋を前に、花に匂う華頂山、霞に迷う如意にょいヶ岳たけ
手にはいつかしら白磨きの、握り太の如意にょいをひっさげていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たった今、如意にょいたけの中途から、志賀山越えを横切って、北の沢へ降りて行ったという——それだけを聞けば、彼女ももうその先まで、他人の力を頼ってはいなかった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まくり手には、鉄の如意にょいかと思う、……しかも握太にぎりぶとにして、たけ一尺ばかりの木棍ぼくこんを、異様に削りまわした——はばかりなく申すことを許さるるならば、髣髴ほうふつとして、陽形ようけいなるを構えている。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五品を与えたとあれど(『塵添壒嚢抄じんてんあいのうしょう』十九には如意にょい、俵、絹、鎧、剣、鐘等とあり、鎧は阪東ばんどう小山おやま、剣は伊勢の赤堀に伝うと)、巌谷君が、『東洋口碑大全』に引いた『神社考』には
如意にょいが高くかざされている。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ちょうど如意にょいたけと東山のあいだあたりに当るだろう。一朶いちだの雲のふちがキラと真っ赤にえた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一人、骨組の厳丈がっちりした、赤ら顔で、疎髯まだらひげのあるのは、張肱はりひじに竹の如意にょいひっさげ、一人、目の窪んだ、鼻の低いあごとがったのが、紐に通して、牙彫げぼり白髑髏しゃれこうべを胸からななめに取って、腰に附けた。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
心得童子こころえのどうじ主人の思う事をかなえて久しく仕えしが、後にきつう怒られてせしとかやとあるは、『近江輿地誌略』に、竜宮から十種の宝を負い出でたる童を如意にょいと名づけ、竜次郎の祖先だとあると同人で
くるまがゆるぎだすと、白河の上にも、如意にょいたけのすそにも、白い霧のながれは厚ぼったく揺らいでいた。そして、どこからともなく、淙々そうそう四絃しげんを打つばちがきこえてきた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの白痴殿ばかどのの女房になって世の中へは目もやらぬかわりにゃあ、嬢様は如意にょい自在、男はより取って、けば、息をかけてけものにするわ、殊にその洪水以来、山を穿うがったこの流は天道様てんとうさまがお授けの
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
怪老人——それは如意にょいたけの山のぬしといわれている作兵衛じいと、もう一人は、何ぞ知らん、この炭焼小屋のかまで、かつて大村父子おやこと山侍たちのために、蒸殺むしごろしの刑にかかって
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
如意にょいたけのふもとの方へ近づいてゆくにつれて、並木から、細い小路こうじから、辻へ出るごとに、その人数は増していた。そして、ありのように、同じ方角の道へ、つづいて行くのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちょうど花頂山や如意にょいたけなどの東山一帯の線が、暁空あけぞらにくっきり浮き出して、くれないの旗みたいな雲の裂け目から、旭光きょっこうが縦横に走って見えたが、往来へ出て、北山西山のほうをみると
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ゆうべ、夢に怪神けしんがあらわれて、予の右のひじを、鉄の如意にょいで打った。今朝までも痛む気がした。故に、軍師の身が気づかわれるのだ。いっそのこと、涪城へかえって、御身はあとを守っておらぬか」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「江戸の上役人が、含月荘の領内で、殺されていたと分ったひには、こいつ、大破綻おおごとになりますからな。——そこで、如意にょいたけの作兵衛小屋へ持って行って、炭焼竈すみやきがまの中で焼いてしまおうというお考えなので」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)