好加減いいかげん)” の例文
「芸人よりかその方がいいだろう。何事によらず腕ばかりじゃ出世のできない世の中だからな。好加減いいかげんに見切をつけた方が利口だ。」
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私がこうやって好加減いいかげんな事をしゃべって、それが済むとあとから、上田さんが代ってまた面白い講話がある。それから散会となる。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
憤然やっきとなって二日二晩も考えた末、又一策を案じ出して、今度は昼のお糸さんの手隙てすきの時に、何とか好加減いいかげんな口実を設けて酒を命じた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
お葉はその紙入から札と銀貨を好加減いいかげんに掴み出して、数えもせずに紙にくるんだ。これ懐中ふところ押込おしこんで、彼女かれも裏木戸から駈け出した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もう好加減いいかげんに通りそうなもの、何を愚頭々々ぐずぐずしているのかと、一刻千秋の思い。死骸の臭気はいささかも薄らいだではないけれど、それすら忘れていた位。
今朝、国から来た友達をつれて東京見物をさせてやるから、という好加減いいかげんな口実を設けて一日のひまを貰った時、主人にいっそ昨夜のことを告げてやろうかとも考えた。
夢の殺人 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
「貴方もう好加減いいかげんになさいましよ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
呼込みの男が医学と衛生に関する講演をやって好加減いいかげん入場者が集まる頃合を見計い表の幕を下す。入場料はたしか五拾円であった。
裸体談義 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それで、先刻演題という話でしたが、演題というようなものはないから、何か好加減いいかげんに一つ題は貴方がたの方で後でこしらえて下さい。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
好加減いいかげんなチャラッポコをに受けて、仙台くんだり迄引張り出されて、独身ひとりでない事が知れた時にゃ、如何様どんな口惜くやしかったでしょう。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
単に冬子の口供こうきょう基礎どだいとして、其余そのよ好加減いいかげんの想像を附加つけくわえるだけの事である。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
宵の口に狩込かりこみがあったらしいんだよ。こんな晩はどうせろくな事アありゃしないからね。好加減いいかげんにして切上げてしまったのさ。
ことに比田は其所そこに健三のいるのさえ忘れてしまったように見えた。健三は好加減いいかげんに何とか口を出さなければならなくなった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もう後悔しても取反とりかえしが附かなくなって、むことを得ず好加減いいかげんな口実を設けて別々に内を出て、新富座を見物した其夜そのよの事。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
こんな山奥へ引摺込ひきずりこまれて、人だか𤢖だか判らぬような怪物共ばけものども玩弄おもちゃにされてたまるものか。ひと面白くもない、好加減いいかげんに馬鹿にしろと、彼女かれは持前の侠肌きゃんを発揮して、奮然たもとを払ってった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と云いながら、大きなあごを心持えりの中へ引きながら自分の額のあたりを見詰めている。自分は好加減いいかげんなところで、茶色の足を二本立てたまま
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
気長に幾度いくたびとなくすくっては落し、落してはまたすくい上げて、丁度好加減いいかげんの長さになるのを待って、かたわらの小皿に移し、再び丁寧に蓋をした後
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
悪戯いたずら好加減いいかげんすかな」と云いながら立ち上がって、縁側へ据付の、の安楽椅子いすに腰を掛けた。それぎりぽかんと何か考え込んでいる。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
唯草稿を丁寧に清書して教を乞ふ事礼儀の第一と心得べし。小説のことなればことごと楷書かいしょにて書くにも及ばじ、草行そうぎょうの書体をまじふるも苦しからねど好加減いいかげんくずかたは以てのほかなり。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「そりゃ不見識な青年が、流俗のことわざに降参して、好加減いいかげんな事を云っていた時分の持説だ。もう、とっくに撤回しちまった」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「まったくですわ。わたしも好加減いいかげんお婆さんになってしまいました。」
老人 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と云うから、好加減いいかげんに御辞儀をして、あとからいて行った。小作こづくりな婆さんで、後姿の華奢きゃしゃな割合には、ぴんぴんねるように活溌かっぱつな歩き方をする。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
行灯あんどう蕪村ぶそんも、畳も、違棚ちがいだなも有って無いような、無くって有るように見えた。と云ってはちっとも現前げんぜんしない。ただ好加減いいかげんに坐っていたようである。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが膨れると自然と達磨だるま恰好かっこうになって、好加減いいかげんな所に眼口まで墨で書いてあるのに宗助は感心した。その上一度息を入れると、いつまでも膨れている。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「看護婦さん、こんな病人に優しくしてやると何を云い出すか分らないから、好加減いいかげんにしておくがいいよ」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分でとこへかけて、いい出来じゃありませんかと云うから、そうかなと好加減いいかげん挨拶あいさつをすると、華山には二人ふたりある、一人は何とか華山で、一人は何とか華山ですが
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしそれは自分がむかし父から聞いたおぼえのある、朧気おぼろげな記憶を好加減いいかげんに繰り返すに過ぎなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
青林館の主人は自分ほどこの女に興味がなかったと見えて、好加減いいかげんに歩を移して、突き当りの部屋に這入った。そこも狭い土間で、中央には普通の卓上テーブルえてあった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
でなければ男が好加減いいかげんに降参するか、どっちかになればいいがと、ひそかに祈っていたのだから、思ったほど女の強くないのを発見した時は少なからず残念な気がした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
時間の価値というものを少しも認めないこの姉と対坐たいざして、何時いつまでも、べんべんと喋舌しゃべっているのは、彼にとって多少の苦痛に違なかった。彼は好加減いいかげんに帰ろうとした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
両手で第一段目を握って、足を好加減いいかげんな所へ掛けると、背中が海老えびのように曲った。それから、そろそろ足を伸ばし出した。真直まっすぐに立つと、カンテラのが胸の所へ来る。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
無論触れるとか触れないとか云う字が曖昧あいまいであって、しかも余は世間の人の用いる通り好加減いいかげんな意味で用いて居るのだから、此字に対して明かな責任は持たないつもりである。
高浜虚子著『鶏頭』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれども門野の答は必竟ひっきょう前と同じ事を繰り返すのみであった。でなければ、好加減いいかげんな当ずっぽうに過ぎなかった。それでも、代助には一人で黙っているよりもこらやすかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それを好加減いいかげん揣摩しまする癖がつくと、それが坐る時の妨になって、自分以上の境界きょうがいを予期して見たり、悟を待ち受けて見たり、充分突込んで行くべきところに頓挫とんざができます。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これはまことに結構な事で、我々文学者が四畳半のなかで、夢のような不都合な人物、景色、事件を想像して好加減いいかげんな事を並べて平気でいるよりもはるかに熱心な御研究であります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
好加減いいかげん邪推じゃすいまことしやかに、しかも遠廻とおまわしに、おれの頭の中へましたのではあるまいかと迷ってる矢先へ、野芹川のぜりがわの土手で、マドンナを連れて散歩なんかしている姿を見たから
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そんな事は一々聞かないでもいいから好加減いいかげんにしてくれと云うと、どう致しまして、奥様のらっしゃらない御家おうちで、御台所を預かっております以上は一銭一厘でも間違いがあってはなりません
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
始めのうちは股野の自慢を好加減いいかげんに聞き流して、そうかそうかと答えていたが、せっかくの好意ではあるし、もともと気の多い男だから、都合によっては少し厄介やっかいになっても好いぐらいに思って
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ついこの間の事だが、僕の親戚の者がやはりインフルエンザにかかってね。別段の事はないと思って好加減いいかげんにして置いたら、一週間目から肺炎に変じて、とうとう一箇月立たない内に死んでしまった。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これも御尤ごもっともには違ないが、いくら騎兵だって年が年中馬に乗りつづけに乗っている訳にも行かないじゃありませんか。少しは下りたいでさア。こう例をげれば際限がないから好加減いいかげんに切り上げます。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし本人は別に留意する気色もなく、熱心に検査をする。尿なり便なりの成分を確めるまでは是非やります。もし、きたないから好加減いいかげんにしてやめると云う医者があったらそれこそ大変であります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あんまり超越し過ぎるとあとで世の中が、いやになって、かえって困るぜ。だからそこのところは好加減いいかげんに超越して置く事にしようじゃないか。僕の足じゃとうていそうえらく超越出来そうもないよ」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
冗談じょうだんを云っちゃいけない。——さあ好加減いいかげんに歩こう」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それじゃまた例の通り好加減いいかげんな雅号なんだろう」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
好加減いいかげん御世辞おせじを並べて
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)