奇特きどく)” の例文
却って奇特きどくというべきでもあったが、その言い訳は立たなかった。彼はそのふところに一羽の白い鶏を隠していることを発見された。
半七捕物帳:23 鬼娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
林泉奥深うして水あおく砂白きほとり、鳥き、魚おどつて、念仏、念法、念僧するありさま、まこと末世まっせ奇特きどく稀代きたいの浄地とおぼえたり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
其方せんが親と成り傳吉が無實むじつの罪を助けんとざいをしまず眞實しんじつの心より專を助け萬事に心添こゝろそへ致しつかはし候段奇特きどくおぼめさるゝ旨御賞詞ごしやうし有之
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
趙州でうしう和尚といふ有名な唐の坊さんは、趙州古仏晩年発心ほつしんと人にはれただけあつて、六十一になつてから初めて道にこゝろざした奇特きどくな心懸の人である。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
などと、いやうも氣恥きはづかしいが、其處そこたふれまいと、一生懸命いつしやうけんめい推敲すゐかうした。このために、炎天えんてん一滴いつてきあせなかつたのは、あへうた雨乞あまごひ奇特きどくではない。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
してみればさつき須世理姫が、海辺の岩の上に残して行つた領巾にも、同じやうな奇特きどくがあるかも知れぬ。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
勢い霊玉の奇特きどく伏姫神ふせひめがみの神助がやたらと出るので、親兵衛武勇談はややもすれば伏姫霊験記れいげんきになる。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
長二は跡に残って和尚に厚く礼を述べて帰ろうといたすを、和尚が引留めて、自分のへやに通して茶などをすゝめながら、長二が仏事に心を用いるは至極奇特きどくな事ではあるが
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何んと奇特きどくではあるまいかな。……つまり楯無しは武田家の守護神、武田の当主が持っていればこそその霊験は顕著あらたかではあるが他人はこれへさわることさえならぬ。さわったが最後神罰を受けよう
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あゝ、おびたゞしいはくさ金石きんせきどものその本質ほんしつこもれる奇特きどくぢゃ。
「ほい、ほい、それは奇特きどくな。」
文福茶がま (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「世には名画の奇特きどくということがないとは言えない。それでは、試しにその鷹の頸に付いている綱を焼き切ってみようではないか」
聞かれ夫は奇特きどくなる申ぶん夫さへ得心とくしんせぬは合點がてんゆかぬ奴なり手錠てぢやう申付明日より三日の内に三十兩調達致せと猶々なほ/\嚴敷申渡されけり是ひとへに淡路守殿勘兵衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
舞台ただ充満いっぱいの古狐、もっとも奇特きどくは、鼠の油のそれよりも、狐のにおいがぷんといたいた……ものでござって、上手が占めた鼓に劣らず、声が、タンタンと響きました。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たといその方の幻術がよく鬼神を駆り使うとも、護法の加護ある老衲には一指を触るる事すらよも出来まい。されば仏力ぶつりき奇特きどくを見て、その方こそ受戒致してよかろう。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何をしやアがる気違……去年谷中の菩提所で初めて会った指物屋、仕事が上手で心がけが奇特きどくだというので贔屓にして、仕事をさせ、過分な手間料を払ってやれば附けあがり
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
奮興ふんこうの極度に達すると、やはり二様の作用が出る訳だが、とくに面白いと思うのはその一つ、——すなわち積極の頂点からとんぼ返りを打って、魂が消極の末端にひょっくり現われる奇特きどくである。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ここやかしこで雨乞いの祈祷いのりも、噂ばかりでなんの奇特きどくも見えぬ。世も末になったのう」と、忠通も力なげに再び溜息をついた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
其方儀兄藤助眼病中孝養かうやうを盡し候段奇特きどくおぼめさ御褒美ごはうびとして青差あをざし五貫文くだし置る有難く存ずべし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
綱利は奇特きどくの事とあって、甚太夫の願は許したが、左近の云い分は取り上げなかった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
折っているじゃて、余程妙な奇特きどくな人じゃによって、どうか贔屓にしてやってください
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
樣子やうすを、間近まぢかながら、どくのある見向みむけず、呪詛のろひらしきしはぶきもしないで、ずべりとまど仰向あふむいて、やまひかほの、泥濘ぬかるみからげた石臼いしうすほどのおもいのを、ぢつとさゝへて病人びやうにん奇特きどくである。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
賢か愚か、その辺は別問題として、とにかく自分の逆上に気が付いただけは殊勝しゅしょうの志、奇特きどくの心得と云わなければならん。甘木先生は例のごとくにこにこと落ちつき払って、「どうです」と云う。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あしたは晴れるようにと、お杉が碌ろく寝もやらず弁財天を念じ明かした奇特きどくか、雨は暁け方からやんで、二十五日の朝は快晴となった。
恨みの蠑螺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
止むを得ず助太刀をして下さいと照が再度貴公に頼んだは実に奇特きどくな事で、頼まれてもまさか女を連れてく訳にもいかず、此方こちら只管ひたすら頼むと云う、是は何うも山平殿も実に困った訳だが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「いで、此上このうへは、茄子なすびいんむすんでけ、いろはにほへとといのるならば、などか奇特きどくのなかるべき、などか、ちりぬるをわかンなれ。」といのときかさはんびらきにした、なかにも毒々どく/\しい魔形まぎやうなのが
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この盾何の奇特きどくかあると巨人に問えば曰く。盾に願え、ねごうて聴かれざるなし只その身を亡ぼす事あり。人に語るな語るとき盾の霊去る。……汝盾を執って戦に臨めば四囲の鬼神汝を呪うことあり。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
から天竺日本にあらとあらゆる阿修羅の眷族けんぞくを、一つところに封じ籠めて、夜な夜なかたきを呪うて居りまするぞ。やがてその奇特きどくを……。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
寺は六三郎が昔住んだ長町ながまち裏にあった。親方の家へ引き取られてからも六三郎は参詣を欠かしたことがないので、住職にも奇特きどくに思われていた。
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
修行しゆぎやうの淺い我々でござれば、果して奇特きどくの有る無しはお受合ひ申されぬが、兎も角も一心を凝らして得脱とくだつの祈祷をつかまつると致しませう。」
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
その以来、龍の再び抜け出さないように、鉄のくさりをもって繋いで置くことにした。旱魃かんばつのときに雨を祈れば、かならず奇特きどくがあると伝えられている。
修行しゅぎょうの浅い我々でござれば、果たして奇特きどくの有る無しはお受け合い申されぬが、ともかくも一心を凝らして得脱とくだつの祈祷をつかまつると致しましょう」
半七捕物帳:01 お文の魂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は奇特きどくの男で、路ばたにたくさんのにれの木をえて、日蔭になるような林を作り、そこに幾棟の茅屋かややを設けて、夏の日に往来する人びとを休ませて水をのませた。
いやしい勤め奉公の女として、当座の機転で罪人を撃ち悩まし、かみに御奉公を相勤めたること近ごろ奇特きどくの至りというので、かれは抱え主附き添いで町奉行所へ呼び出されて
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
嫗 いっそ無い昔なら苦労もなかったろうが、夫婦が四十を越すまで子というものが無いのをかなしんで、弁天様に三七日の願をかけたら、その奇特きどくであんな美しい娘が生まれた。
蟹満寺縁起 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
呪いの奇特きどくをためすには屈竟と、最前神酒をとりし時、わが呪いの首尾よく成就するならば、この酒変じて毒となり、まのあたりに二人の命を奪えと、ひそかに念じてすすめたるに
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「おお、そうじゃ。関白殿下の御沙汰によって、当屋形の大納言殿には独り寝の別れという歌を広く世間から召し募らるる。そなたもその歌を奉ろうとか。奇特きどくのことじゃ。しばらく待て」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それに対して、頼長は相変わらず強硬に反対したが、忠通は頑としてかなかった。何分にもこの前とは違って玉藻は雨乞いの奇特きどくを世に示して、その名はもう雲の上までも聞こえている。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そうして、おすま親子に対する彼の態度から推察すると、どうも昔の主従関係であるらしい。おそらく昔の家来すじの者が旧主人のかくれ家をさがし当てて、奇特きどくにもその世話をしているのであろう。
平造とお鶴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お竹は幼年の身として姉のかたきを討ったのは奇特きどくのことである。
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)