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塵埃
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ほこり
ふりがな文庫
“
塵埃
(
ほこり
)” の例文
銀さんは前垂の
塵埃
(
ほこり
)
を拂ひながら、奧の藏の方から出て來て、庭で荷造りする人達の間などを通りましてそれから私の方へ來ました。
幼き日:(ある婦人に与ふる手紙)
(旧字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
塵埃
(
ほこり
)
くさいガランとした空気の中に、くつきりと線を成して落ちてゐたのを順吉は今でもはつきりとその眼の前に浮べることが出来た。
花束
(新字旧仮名)
/
田山花袋
、
田山録弥
(著)
ところが棚の領主のやうにして、
塵埃
(
ほこり
)
を蹴立てつゝ暴れてゐる鼠が、楇を一本轉がし落したのが、ぐさとばかり古疊の上へ突つ立つた。
石川五右衛門の生立
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
阿呆陀羅経のとなりには
塵埃
(
ほこり
)
で灰色になった
頭髪
(
かみのけ
)
をぼうぼう
生
(
はや
)
した盲目の男が、
三味線
(
しゃみせん
)
を抱えて小さく身をかがめながら
蹲踞
(
しゃが
)
んでいた。
深川の唄
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
そして明鏡の上に落書だの
塵埃
(
ほこり
)
だのの痕を止め無いやうにした其の上で、いで爲さうといふ事、いで思はうといふ事に打對ふのである。
努力論
(旧字旧仮名)
/
幸田露伴
(著)
▼ もっと見る
生ぬるい風が思い出したように、街路の
塵埃
(
ほこり
)
を運び込むほかには、開け放たれた窓の効能の少しもあらわれぬ真夏の午後である。
愚人の毒
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
むしろを垂れた小屋のまえには、弱々しい冬の日が
塵埃
(
ほこり
)
にまみれた絵看板を白っぽく照らして、色のさめた
幟
(
のぼり
)
が寒い川風にふるえていた。
半七捕物帳:02 石灯籠
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
四人の博徒に取り囲まれ、切りかかる脇差を左右に
反
(
か
)
わし、脱けつ潜りつしている澄江の姿が、街道の
塵埃
(
ほこり
)
を通して見られた。
剣侠
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
向側の
塵埃
(
ほこり
)
っぽい大硝子窓の奥で針を働して居る洋服工、つい俥の下で逃げ出す鶏を見乍ら丸髷に結った女と喋って居る若者迄悉く支那人だ。
長崎の一瞥
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
何だか、下の灰色な古い町筋を、黄色い
塵埃
(
ほこり
)
が、泥のついた鉋屑なぞを卷いて、發作的に低く立つてゐるやうに想像された。
赤い鳥
(旧字旧仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
もう
幾日
(
いくか
)
も/\形付けをせぬ机の上は、
塵埃
(
ほこり
)
だらけな
種々
(
いろん
)
なものが、重なり放題重なって、何処から手の付けようもない。
別れたる妻に送る手紙
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
そのときここの道路では、いくつも連った露路の中に霧のようにいっぱいに籠って動かぬ
塵埃
(
ほこり
)
の中で、ごほんごほんと肺病患者が咳をしていた。
上海
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
彼の
誂
(
あつら
)
えた本棚には
硝子戸
(
ガラスど
)
も
後部
(
うしろ
)
も着いていなかった。
塵埃
(
ほこり
)
の積る位は懐中に余裕のない彼の意とする所ではなかった。
道草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
ジャリジャリと、
塵埃
(
ほこり
)
が、一めんな廊下を、つたわってゆくと、お初の、例の、ねばっこいような、色気と皮肉とが、ちゃんぽんになっている声が
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
「おしめりがなければ、街道は
塵埃
(
ほこり
)
で歩けないようでございます」と甲州街道から毎日仕事に来るおかみが云った。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
突掛草履
(
つッかけぞうり
)
でパタ/\と急いで参ったんですから、紺足袋も股引の下の方もカラ真ッ白に
塵埃
(
ほこり
)
がたかッております。
根岸お行の松 因果塚の由来
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
が、
不思議
(
ふしぎ
)
なのは、
其
(
そ
)
の
白無垢
(
しろむく
)
、
何
(
ど
)
うして
置
(
お
)
いても
些
(
ちつ
)
とでも
塵埃
(
ほこり
)
が
溜
(
たま
)
らず、
虫
(
むし
)
も
蠅
(
はい
)
も、
遂
(
つい
)
ぞ
集
(
たか
)
つたことが
無
(
な
)
い。
神鑿
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
くわつとした入口の外の明るさ、自転車が去り、草花の赤い鉢に静かに煉瓦屋根の投影が軽い
塵埃
(
ほこり
)
と縺れる。
桐の花
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
塵埃
(
ほこり
)
の色をした
苦力
(
クリー
)
が一台に一人ずつそれを押していた。たった一本しかない一輪車の車軸は、巨大な
麻袋
(
マアタイ
)
の重みを一身に引き受けて苦るしげに咽びうめいた。
武装せる市街
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
沙漠の
塵埃
(
ほこり
)
だらけの大空に、何千年か前から漂い残って、ニュートンの引力説に逆行し、アインシュタインの量子論を超越した虚空の行き止まりにぶつかって
髪切虫
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
東京のやうにはげしくはないが、矢張
塵埃
(
ほこり
)
の舞上る往來を、三田は外套の襟を立てゝ會社に通つた。
大阪の宿
(旧字旧仮名)
/
水上滝太郎
(著)
冬木刑事は窓枠のあちこちへ虫眼鏡を当ててしばらく熱心に何物かを探していたが、やがてナイフを取り出して細かい
塵埃
(
ほこり
)
のようなものをかき集めて油紙の中へ入れた。
五階の窓:02 合作の二
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
老管理者は
途
(
みち
)
で金物屋に寄つて、
金槌
(
かなづち
)
を一
挺
(
ちやう
)
買つて帰つた。そして
図書庫
(
としよぐら
)
に入ると、
手垢
(
てあか
)
と
塵埃
(
ほこり
)
とに
塗
(
まみ
)
れた書物を一冊づつ取り出しては、いやといふ程叩きつけたものだ。
茶話:04 大正七(一九一八)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
無数の
小
(
ちいさ
)
い
塵埃
(
ほこり
)
は一つ一つ光って明るい海を泳いでいた。吉太は慌ててその皿を奪うように
握
(
と
)
ると
垢染
(
あかじみ
)
た懐の中に隠してしまった。軒の柱には、黒い鳥が籠の中に入って懸っている。
不思議な鳥
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
塵埃
(
ほこり
)
だらけの鉢巻もない帽子を
阿弥陀
(
あみだ
)
に
冠
(
かぶ
)
って、手ぶらで何だか
饒舌
(
しゃべ
)
りながら来る。
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
塵埃
(
ほこり
)
をのせた土が、白く光って、はるか向こうまで伸びていた。お高は、九老僧をさして、ほとんど夢中で駈けていたが、あまり駈けたので息が切れて、それが悪かったに相違ない。
巷説享保図絵
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
スプルウゲンでは、ホテルの一室ごとに中央に大きなストウヴが据え付けてあって、煙突が屋根をぶち抜いている。あまり美的でないと同時に、これは
塵埃
(
ほこり
)
を立てるので弱らせられる。
踊る地平線:11 白い謝肉祭
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
それからまた間もなく、東雲師の店は浅草諏訪町へ転じました。これは森田町は往来広く空ッ風の強い日などは
塵埃
(
ほこり
)
が
甚
(
ひど
)
くて、とても仕事が出来ないという有様なので、転居したのです。
幕末維新懐古談:06 高村東雲の生い立ち
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
門の前の溝は連日のひでりに底が乾いて、横から生えた草に、白っぽい
塵埃
(
ほこり
)
が溜っていた。隣家の前では白い服を着た警官と、酒屋の御用聞らしい男が自転車を傍へおいて立話をしていた。
秘められたる挿話
(新字新仮名)
/
松本泰
(著)
立てかけて、その
塵埃
(
ほこり
)
を払って、鎧戸をしめたところでした
世界怪談名作集:10 廃宅
(新字新仮名)
/
エルンスト・テオドーア・アマーデウス・ホフマン
(著)
藁工場ではささり込むような
塵埃
(
ほこり
)
がもうろうと立ちのぼり
我等の春
(新字新仮名)
/
今野大力
(著)
「邪魔があって、
塵埃
(
ほこり
)
が出来た、あちらへ
伴
(
つ
)
れて往け」
警察署長
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
汗と
塵埃
(
ほこり
)
と
𤍠
(
ねつ
)
を洗はれて
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
朽ちた式臺から上りかけたが、
兎
(
と
)
ても足袋では歩けるところでないので、一旦脱いだ草履をまた穿いて、
塵埃
(
ほこり
)
だらけの中へ入つて行つた。
ごりがん
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
私が「
塵埃
(
ほこり
)
は語る」という題目の下に記述した事件を記憶していてくださるでしょうが、あの事件があって以来、私はできるだけ注意して
深夜の電話
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
自分は四谷御門の
塵埃
(
ほこり
)
の間を歩きながら、幾度二人に向つて、陸軍志願を勧めたであらうか。幾度二人に漢学の修養の必要を説いたであらうか。
重右衛門の最後
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
同時に獣の悲鳴のような声が、たかっている人達の間から起こり、すぐに乾いている野道から、パッと
塵埃
(
ほこり
)
が立ち上った。
仇討姉妹笠
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
菩提寺任せにしてあった父祖の
位牌
(
いはい
)
を持ち帰る。その
塵埃
(
ほこり
)
を払って家に迎え入れる。墓地の掃除も寺任せにしないで家のものの手でそれをする。
夜明け前:04 第二部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
天井の隅で
塵埃
(
ほこり
)
と煙の一群が、軽々と戯れては消えていった。甲谷は散らかったテープの塊を抱きながら、首を振り振り、呟くように唄い出した。
上海
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
塵埃
(
ほこり
)
が
積
(
たか
)
る時分にゃあ掘出し
気
(
ぎ
)
のある
半可通
(
はんかつう
)
が、時代のついてるところが有り
難
(
がて
)
えなんてえんで買って行くか知れねえ、ハハハ。
白丁
(
はくちょう
)
奴
(
め
)
軽くなったナ。
貧乏
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
花曇りなどと云う美的感情に発足したあれは胡麻化しで、実は
塵埃
(
ほこり
)
が空を覆うのに違いない。一時間も外を歩くと歯の中までじゃりじゃりになるようだ。
塵埃、空、花
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
うぶのままもってるか解らないぜ。ただその人間らしい美しさが、貧苦という
塵埃
(
ほこり
)
で
汚
(
よご
)
れているだけなんだ。つまり湯に入れないから
穢
(
きた
)
ないんだ。馬鹿にするな
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
かなり高い、白ペンキ塗の天井裏から、薄白い
塵埃
(
ほこり
)
に
蔽
(
おお
)
われた裸の電球がタッタ一つブラ下がっている。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
「まあ、待て。おれも一旦はそう思ったが、まあ、それは二の次だ。もう少しほかに
穿索
(
さぐ
)
って見る所がありそうだから、あんまりどたばたして方々へ
塵埃
(
ほこり
)
を立てねえ方がいい」
半七捕物帳:19 お照の父
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
東京はからッ風で
塵埃
(
ほこり
)
が
酷
(
ひど
)
いから、眼を悪くせまいための
砂除
(
すなよけ
)
だっていうの、勉強
盛
(
ざかり
)
なら
洋燈
(
ランプ
)
をカッカと、ともして寝ない人さえあるんだのに、そう
身体
(
からだ
)
ばかり
庇
(
かば
)
ってちゃあ
化銀杏
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
紺足袋の
塵埃
(
ほこり
)
を払って上へ
昇
(
あが
)
る。粂之助は渋茶と共に
有合
(
ありあい
)
の
乾菓子
(
ひがし
)
か何かをそれへ出す。
闇夜の梅
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
火酒
(
ウォッカ
)
のように澄み切った空気のなかを、うそ寒い日光が白くそそいで、しっとりと去年からの
塵埃
(
ほこり
)
をかぶった建物と、骨の高い
裸
(
はだ
)
かのどろ柳と、呪文のようなポスタアを貼った広告塔と
踊る地平線:01 踊る地平線
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
近江屋の隠居が自慢たらたらで腕を
揮
(
ふる
)
った腰の曲がった
蝦
(
えび
)
の跳ねている海老床の障子に、春は四月の
麗
(
うらら
)
かな陽が
旱魃
(
ひでり
)
つづきの
塵埃
(
ほこり
)
を見せて、
焙烙
(
ほうろく
)
のように燃えさかっている午さがりのことだった。
釘抜藤吉捕物覚書:07 怪談抜地獄
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
その辺の生垣に咲き乱れてゐる山茶花と菊の花とは
塵埃
(
ほこり
)
の多い東京の庭で見るものとはちがひ、洗つたやうに鮮な色つやを誇つてゐます。農家の庭では手拭に顔を包んだ娘達が稲をこいでゐます。
畦道
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
桜、さくら、街のさくらにいと白く
塵埃
(
ほこり
)
吹きつけけふも暮れにけり
桐の花
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
“塵埃”の意味
《名詞》
ちりやほこり。ごみ。
よごれ、わずらわしいこと。俗世間。俗事。
(出典:Wiktionary)
塵
漢検準1級
部首:⼟
14画
埃
漢検1級
部首:⼟
10画
“塵埃”で始まる語句
塵埃箱
塵埃塗
塵埃塚
塵埃屋
塵埃屑
塵埃溜
塵埃除
塵埃棄場
塵埃溜場
塵埃焼却場